MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<30-2>協調的な交渉ってどういうもの?(続)

2006-06-05 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
では、こうしたポイントに注意したとして、具体的にどんなステップで、協調的な交渉を進めればいいのでしょうか?

協調的な交渉のプロセスには、4つのカギとなる順があります。
これらはどんな交渉でも普遍的なステップですが、協調的な交渉では特に配慮が必要になります。一つずつ順番に見ていきましょう。


(1) 問題を定義する

まず、何が問題で何を交渉しているのか、明確なイメージを共有することが成功への大前提です。

何が問題か、などといっても一見当たり前で、わざわざそんなことから話す意味などないと思えます。
しかしながら、現実の交渉では何が問題かを定義することこそが、最難関のステップです。
特に複数の利害関係者がからむ場合(1対1でなく、例えば5人で交渉する場合)、現状に対するそれぞれの捉え方にばらつきが出るため、難しさが顕著になります。
どの交渉者も、自分にとって優先度の高いinterestがからむ部分こそ主要な問題だと考え、しかもinterestは立場によってバラバラなことが多いからです。
さらに、問題の定義の仕方によって交渉の内容が影響を受ける場合があるため、交渉者はおいそれと問題の定義を他人に任せるべきではありません。

ここで重要なことは3つあります。

まず第一に、交渉すべき問題を両者にとって同意できる、中立的なものとして定義することです。
通常は交渉の内容に入る前に、そのための話し合い(アジェンダ整理)が必要になります。
交渉者は対立する立場にあるため、普通「こちらは正しく相手が悪い」式の評価的な視点を話し合いに持ち込んでしまいます。
いったんどちらが悪いかは別として、何を話し合う場なのか、論点を整理することがスタート地点になります。

第二に、交渉の対象とする問題の定義を、シンプルで明確なものにすることです。
複数の利害関係者が受け入れられるよう細かく問題を定義しようとすると、色々な条件や注釈が必要になります。
しかし、問題を定義する際に本当に重要なのは、完璧に全員の意図が盛り込まれた長い文章を仕上げることではありません。
むしろ最初にアジェンダを定義しておく価値は、どの部分は合意が出来て、どの部分は合意が出来ていないのか、交渉の現在地を後で確認できることにあります。

第三に、問題の定義と解決策は分けて考えることです。
何が問題なのか、とどうしたら解決できるか、を一緒に考えてしまうと、いつまでたっても議論が協調的には進みません。
何となれば、解決策の部分で相反する意見が必ず登場し、パワーゲームが始まるからです。
競争的な交渉のやり方ではそれが一種の定石なのですが、協力によって最大限の価値を生み出そうとする場合には、必ず問題をきっちり定義し終えてから具体的な合意案を話し合うべきです。

(2) 問題の背景にあるInterestまで深く理解する

問題が双方にとって受け入れられるものとして定義できたら、その背後にあるinterestに注意すべきです。
既に第二部で詳説しましたが、相手が持つ複数のinterestを察知し、その中で自分のinterestと共通のもの、あるいは自分がそこを譲歩しても損をしない部分を見極めるべきです。
複数のinterestを効果的に使うことが、協調的な関係を築くための最も重要な手段となります。

(3) 問題に対する新しい解決策を作り出す

Interestを理解したら、双方がメリットを感じるような解決策を考え出さなれければなりません。
ここでは大きく二つのアプローチがあります。
一つには、最初に決めた問題定義の範囲内で、合意案を列挙していくやり方。
もう一つは、問題自体を再定義していきながら拡張し、より広い角度から合意案を考える方法です。
このステップではクリエイティブな発想を交渉という一種の対決の場でどう担保するか、が課題となります。

(4) 新しい解決策を評価し、最適なものを選び出す

合意案をいくつも考え出すことが出来たら、最後にはその中から双方にとって最適なものを選び出す必要があります。
ここでは大きく3つのサブステップがあります。

まず第一に、何に基づいてたくさんの合意案を評価するか、合意します。
多くの場合、主観的な基準だけでなく、客観的なデータも共同で模索し、それらを複合した結果として最も望ましいものを選びます。

第二に、合意した評価軸に基づいてそれぞれの合意案を一つ一つ評価します。
合意案が複雑で、様々な要素をはらむ場合には、単純に望ましさを数値化して比較することが難しいかもしれません。
その場合には、各合意案を一対一で比較した際の優先順位付けや、スワップ法(今後の回で詳述予定)などの評価手法を使って検討を突き詰めていきます。

第三に、最終的にどの案がベストか、合意します。
ここで重要なのは、本当に最後の最後の合意に至るまで、正式な合意としてのコミットメントを発生させないことです。
例えば途中経過を逐一書面化したり、言ったことに責任を発生させたりすると、複数の合意案の中でどれが最適かホンネで拡散した議論ができなくなります。
協調的な交渉の場合、あらゆる可能性を検討し尽くすことが結果の質を向上させることにつながるため、話し合いの段階でいかに自由を確保するかが非常に重要なポイントとなります。

以上のように、協調的な交渉には一連の定石とでも言うべきステップがあります。
これらの技術を向上させることが、ネゴシエーターとしての力を上げることにつながります。
この中でも、特に良い合意案を考え、それを効果的に評価する部分には多少の知識が手助けになります。
次回からはこのプロセスの技術、その中での良い合意案の考え方を少し詳しく考えてみたいと思います。


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