Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

創られた伝統

2018年03月25日 | バリ

 大学の文化人類学の授業のような仰々しいタイトルになっていますが、別にたいした話じゃありません。ご安心を。スーパーのTシャツ売り場の一角を占めていたこの写真のバロン、実は最近描かれたTシャツのデザインではありません。近年、バリにはさまざまなデザイナーやアーティストがインドネシア国内、海外からやってきて斬新なデザインのTシャツや衣装が次々と生まれ、観光ガイドにはそんなお店がたくさん掲載されています。
 新しいものが生まれる中、このTシャツのバロンは、ある意味、Tシャツに描かれる「伝統的な」バロンのデザインなのです。少なくても、1983年に私がバリに最初に行った時から、このバロンはよれよれの生地のランニングTシャツや、ふつうのTシャツに描かれていたものです。もちろん、ドラえもんのデザインが数十年の間に少しずつ変わっているように、このバロンだって40年近い間にちょっとは変化しているのかもしれません。しかし基本、このバロンなのです。
 伝統は創られる、という言葉がこのバロンに当てはまるかどうかはわかりませんが、なんだか私はこのバロンを見ると「作られた伝統」という言葉を思い浮かべてしまいます。いったいこのバロンはいつ、誰が、デザインしたものなのでしょうか?しかし、その出自はきっとたどれないのでしょう。誰がデザインしたのかわからないこのバロンは、今日も海岸沿いのお土産やの軒先で、海風に吹かれて揺らいでいるはずです。そしてきっと40年後も変わらずこのバロンはTシャツに描かれているのでしょう…。