むじな@金沢よろず批評ブログ

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馬英九の無能ぶりがさらけ出される グリーンカード問題 背景に反米感情も

2008-01-31 22:55:04 | 台湾政治
3月22日の総統選挙に向けて、台湾政治は熱くなりつつあるが、1月28日に民進党総統候補謝長廷が、国民党候補の馬英九のグリーンカード所持問題を暴露して以降、馬英九の問題処理能力不足もあって、馬英九は窮地に陥っている。12日の立法委員選挙では国民党は歴史的な大勝を果たしながら、馬英九はその優勢を生かせないどころか、急速に支持率を低下させている。

■謝長廷が放ったクセ球
この問題は1月27日の総統候補登録日に、謝長廷が「3つのしない、2つのない」として「私と家族は株を持ったり売ったりしない。米国など外国のパスポートを持っていない」などと「誓い」を述べたことから始まった。これは何の変哲もない主張で、インパクトはない。しかし私は謝長廷の個性を考えれば、これは後で何かクセ球を投げる予告だと考えた。
果たして28日になって謝長廷は「馬英九はかつて米国留学時代にグリーンカードを取得しており、いつでも台湾から逃亡できる。そういう人が総統になってもいいのか」と問題提起を投げかけたのである。

■グリーンカードとは
グリーンカードは、政情が安定した先進国で海外に移住する人が少ない日本人にはなじみのないものだ。これは一般的には永久居留権(証)のことだが、米国のそれは選挙権以外の公民権が獲得でき、税率も本国人並みになることと、将来的に米国国籍をとるための前段階として位置づけられている点で、日本や台湾も含めた他国の永久居留とは異なるものであり、いわば準国籍というべきである。


■馬英九、前言を翻す
当初、馬英九はこの問題を軽視して、「私も家族ももっていない。後はスポークスパースンに答えさせる」といういい加減な対応をしていたのだが、それが仇となった。
同日夜には馬自身が回答を迫られて、午後9時から記者会見で説明することになった。しかし会見はなかなか開かれず、午後9時半になってやっと開き、しかも一方的に説明すると、さっさと引き上げるという稚拙さだった。しかも当初「私も家族ももっていない」といっていたにもかかわらず、28日以降の説明では「私と妻は以前持っていたが、その後使っていないので、1985年以降に失効しているはずだ。私が取得したのは1977年でグリーンカードを持っていた姉を保証人にした。目的は学生ローンと仕事を得るためだ」「長女は米国で生まれたので自動的に米国籍であり、今は大人なので本人の意思を尊重するしかない」「1985年以降は非移民の短期ビザで入国しているので、グリーンカードは効力を失っているはずだ」と、前言を翻すお粗末さだった。
きわめつけに謝長廷が31日午前記者会見で、馬英九がかつて取得したグリーンカードの番号と日付けを番号の一部を隠して公表。「自分で放棄手続きを行わない限り、基本的にはカードはいつでも効力を復活させられる。しかも81年から帰国して蒋経国の秘書をやっていた85年までの間に何度か訪米しており、台湾で公務につきながら、グリーンカードを使っていたことは公務員として違法」と指摘した。

■国民党はかつて陳水扁の家族を「米国逃亡」と非難
台湾も米国も重国籍を認めているところだから、重国籍やグリーンカード自体は違法ではない。しかし問題は、81-85年に総統府の秘書という公務員になっていからもそれを所持使用してきたということであり、まして総統になろうという人間が、グリーンカードをとったり、娘が外国籍だという点である。まして、国民党は2006年に陳水扁の結婚している子供が米国に向かった際に、「米国で子供を生んで、陳水扁が米国人の祖父になって、将来逃亡するための布石にしようとしている」と非難していた経緯がある。それは当然の指摘であったが、他人を「米国人の祖父になる」と非難しておきながら、自分は祖父どころか米国人の父親であり、しかも自分もグリーンカードを取っていたというのは一大事である。

■馬英九の弁明は嘘だらけ
しかも、馬英九の弁明は、台湾社会を納得させられるものではない。というのも、日本と違って、台湾は歴史的に国民党独裁政権だった背景から、本省人の独立派はブラックリストで帰ってこれずやむをえず、外省人も中国がいつ攻めてくるかわからないとして、それぞれ米国籍やグリーンカードを取得してきた人が多いからだ。だから、馬英九の弁明は、誤魔化していることがばればれである。
たとえば、
1)学生ローンや仕事を得るのに、グリーンカードは必要なく、それぞれ学生ビザや各種就労ビザで十分。グリーンカードは米国に帰化する前提で取得するもの。
2)馬は留学生時代には国民党の奨学金で十分な金銭的余裕があり、ローンを借りる必要がない。
3)肉親を保証人にしてグリーンカードを得るためには、手続きが10年以上かかるのが普通。たかだか3年程度で取れるのはおかしい。
4)米国は何事も自分で手続きする必要がある。1985年に失効したというが、本当に失効させるには放棄の手続きを米国内か台湾のAITで行わないといけない。放棄手続きをしたならその証拠があるはずだ。「失効しているはずだ」というのではなくて、ちゃんと失効していることを証明しないといけない。
 5)本人が放棄手続きをしていない場合は、暫時効力を失っていても、その後延長ないし回復手続きによりいくらでも有効にできる。
 6)グリーンカードを申請したり所持したことがある人間は、その後、非移民ビザを取得することは原則的には困難になる。それは、一度グリーカードという永住の意思を示した以上は、また米国にもどりたいなら、正式にグリーンカードを復活させるべきであって、短期ビザで入国しておいて居座る危険性があると疑われるためだ。それなのに、どうしていとも簡単にビザを取得できるのか?
 7)長女が米国籍を持っているのは、自動的に与えられるわけでなく、米国で出生証明書を役所に届けてはじめて認められる。つまり、わざわざ米国籍を持てるように作業を行ったわけだ。しかも「今は大人だから」というが、生まれたときに米国籍を取ったのは、本人の意思ではありえない。
 8)陳水扁の息子と娘が米国に行ったら「米国で子供を生んで米国籍をとって、将来陳水扁が逃亡しやすくするための布石だ」といっていたなら、長女や姉妹がすべて米国籍を持っていることは、馬英九が将来、米国に逃亡する意思を持っていることにならないか?
 9)馬英九がグリーンカードを取ったのは、台湾と米国の断交する直前であり、対米関係が緊迫していたころ。そういう時期に、米国への永住権を取得したということは、台湾を捨てようとしたことではないのか?
 10)馬英九は1981年自分が主宰する「ボストン通信」という国民党系アジ雑誌で「グリーンカードなどは考えず、愛国だけを考える」旨の文章を書いている。しかも在米期間には、尖閣諸島奪回運動など「愛国」運動を盛り上げていた張本人だ。それが1977年にグリーンカードを取得していたというのは大きな欺瞞ではないか?

■お粗末な馬陣営の「反論」
あきれたことに、馬陣営はこれに対する反論として28日に「謝長廷だって日本留学時代に娘を産んでいるから、それは日本籍ではないのか」などといっていることだ。
頭が悪すぎw。
国籍法では、米国は出生地主義だが、日本は厳格な血統主義であり、日本で生まれても片親が日本人ではなければ日本国籍になれるわけではない。でなければ、台湾人はもっと日本に殺到して、子供を生んでいるはずである。
馬陣営にはこんな基本的なことも知らないで、放言するようなバカしかいないのか?

■反米感情が強まっている台湾で、米国籍やグリーンカードはマイナス要因
しかも馬英九およびその陣営がまったくわかっていないと思えることは、台湾社会における反米感情の台頭を直視していない点である。
これが8年前なら、馬英九がグリーンカードをもっていようが、ここまで問題は大きくならなかっただろう。
実際、2000年に宋楚瑜は同じように息子が米国籍であり、米国に5軒も自宅を持っている点が指摘されたが、宋には痛手にならなかった。
台湾人も米国が好きであり、できれば米国に別荘やグリーンカードを持とうとしていたからだ。
ところが、ここ数年で台湾人の対米感情は様変わりし、反米・嫌米感情が強まっているのだ。
それには、911事件以降、米国への入国が面倒になったこと、さらに米国が何かと台湾に圧力を加えて中国には友好的なことがあげられるだろう。
だが台湾人の反米感情というのは韓国人と違って、表立って反米デモを展開するわけではないから、あまり見えない。
しかしながら、実際に台湾で生活していればわかることだが、このごろの台湾人ははっきりいって米国にむかついていて、嫌いになっている。その反動として、親日になっているのである。
もちろん反米といっても、個々の米国人に当たることはしない。米国人にも個人的には良心的な人間が多いから、そういう人とはフレンドリーに接している。しかしそれでも以前ほど米国人には盲目的に好意を示したり媚びたりすることはなくなった。
街角で流れている音楽も、圧倒的に多いのは日本のものであって、米国ポップスはほとんど聞かれない。90年代までは国民党教育の影響もあって根強く存在した米国崇拝は、今の台湾では嘘のように消えてしまっているのだ。
特に、教育程度が低い庶民層ほど「米国など何ほどのことでもない」という感情が強く、逆に日本に親近感を持っている。
そうした雰囲気を反映してか、テレビではTVBSですら毎日のように日本のテレビからぱくってきた日本の話題を提供しているのだ。
馬英九ら一部外省人の媚米派は、こうした台湾社会、特に庶民の意識に疎いようで、いまだに米国崇拝に耽溺している有様だ。だから当初この問題の重大性に気づかなかったのだ。「え?台湾人も米国が好きで、グリーンカードを取りたがっているでしょ?」と勘違いした。それが軽い対応になって、その後の問題の広がりを招く躓きの石となったのだ。
実際、そういう勘違い人間は29日、30日の聯合報の投書面を見ると、外省人にはけっこういることがわかる。ある外省人の女子学生(苗字が練という特殊なもの)は、グリーンカードが何が悪いの?みたいなKYなことを書いていた。

現在の台湾社会の主流は、反米親日である。それは国民党本土派である王金平や呉伯雄は理解できているのだろうが、馬英九ら反日外省人にはわからない。
馬に代表される親米、媚米、反日の外省人の一部は、はっきりいって台湾社会では圧倒的な少数で、時代遅れになっているのだ。
彼ら自身がそれに気づかないで、米国との絆の深さがプラスになっていると考えているとしたら、おめでたいというしかない。
なぜ民進党で日本留学組の謝長廷が大方の下馬評を覆して蘇貞昌を抑えて、総統候補になったのかという意味が、一部の反日外省人には理解できていないのだ。

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