むじな@金沢よろず批評ブログ

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馬英九が特別支出費で検察に事情聴取、馬は一挙に失速、国民党本土派台頭か

2006-11-22 15:12:52 | 台湾政治
馬英九・台北市長兼国民党主席が11月14日に台北市長としての首長特別支出費の横領疑惑で参考人として台湾高等検察署査中心(特捜部)から事情聴取を受けた。
現在のところ、まだ参考人聴取段階であるが、馬氏の個人預金や財産が急増しているなど証拠に類するものが明白にあがっている。また馬氏はクリーンを売り物にしてきて、これまで民進党の陳総統側近の汚職や総統一族の疑惑について、陳総統を激しく非難し、辞任を迫ってきた経緯もある。陳総統一族の疑惑は起訴されたとはいえ、証拠がまったく挙がっておらず、無罪となる公算が大きい。
それにたいして馬氏の疑惑は、証拠を見れば金の流れはほぼ確実であり、状況は馬氏に不利である。仮に馬氏が起訴されれば、国民党の内規により08年3月の総統選挙への出馬は絶望的となる。

しかも馬氏にとって不利なことに、これまで国民党べったりで馬びいきと見られてきたマスコミのほとんど(聯合報、中国時報、中天、東森)が馬氏に不利な報道をするようになったことだ。かろうじてTVBSは馬氏弁護的な報道も多いが、聯合報、中天あたりの「豹変」ぶりには驚く。

その背景としては、台湾マスコミが報道することの裏読み、私が独自に入手した裏情報を総合すれば、どうも国民党外省人長老層が馬英九を見限ったことがあるようだ。
馬英九は、80年代末から台頭した外省人二世の政治家だが、これといったスキャンダルもなく、ハーバード留学経験があって英語も堪能で、見た目が「ハンサム」とされ、さらに政治行動も常に保守的路線を歩んできた(国民党内で92-94年に総統選出について議論された際に、李登輝が進める直接選挙に対して、馬英九はずっと委任制=間接選挙を主張していた)ため、外省人保守派集団から見れば「希望の星」だった。ただし、「ハンサム」とか英語が堪能だという点ばかり強調されてきたということは、裏を返せば、これといった行政能力もなく、台湾語が英語よりもヘタで、台湾庶民から遊離した人種であることも意味するといえる。
ルーズベルト大統領は身障者だったが、誰も「身障者の大統領」とはいわない。それは身障者であるという肉体的特徴を云々される以前に、大統領としての能力があったからに他ならない。「車椅子の天才」といわれるホーキング教授も、学者としての能力と功績は見た目を打ち消して余りある。唐沢寿明がハンサムだからとわざわざ言われるまでもないのは、それが役者としても評価されているからである。
馬英九が「ハンサム」であるとか、英語が堪能だとかいうのは、いわば「他に誇るべきことがない」からそう言わざるを得ないのだ。
同様に、「クリーンだ」というのも、国民党にいてクリーンなどというのは形容矛盾もいいところだが、それはウソか、あるいはそれしか能がなかったということだ。
ところが、今回の横領疑惑と証拠に類したものを見れば、やはりクリーンにも疑問がつけられることになった。

ただ、クリーンでないことは、台湾、とくに国民党的にはそれほど問題にはならない。国民党は世界一の資産政党である。それが日本が残した遺産を分捕り、さらに政党ながら党営事業を行い、搾取を重ねて築いたものであるだけに、国民党主席でもある馬英九がもし横領をやって私服を肥やしてきたと指摘されても、別に驚かないし、誰も失望しないだろう。
しかし外省人保守派集団のマスコミや長老政治家を失望させた原因は、そのあまりの行政能力、危機管理能力の稚拙さにある。もちろん、馬英九が無能だということは前から知られていた。しかし、9月の「倒扁運動」への対応で見せたどっちつかずのヘタレぶりは、保守反動派には「軟弱」と見えたし、海千山千の長老政治家からは「どうしょうもない無能」と見えたに違いない。
台湾各紙の報道では、国民党内では本土派が連戦と王金平をかついで結集、馬英九外しの動きが進んでいるという。しかもこれまで悪意をもって報道してきた中国時報あたりでも、これをそれほど悪意もなく、いやむしろバックアップするかのように報じているのは驚く。これは裏情報で指摘されているとおり、外省人保守派ですら馬英九に愛想をつかしたことが反映されているといえる。
ここで、連戦と王金平だが、実質は王金平であり、さらには李登輝だろう。李登輝はたしかに党籍は除名されているが、いまでも本土派には影響力がある。
また、長老連中も外省人であるとはいえ、李登輝が12年やってきたときに実際には支えてきたこともあり、実は李登輝とは気心は知れている。また、彼らはかつて権力を奪った共産党への不信は強く、気心が知れない民進党にも不安を抱いている。そういう意味では、彼らが今後政治生命を保障される形で、それなりに安心できるのは、実は李登輝しかない。
おそらく今年5月から始まった陳水扁・民進党バッシングは、馬英九とそれを当初支持していた外省人長老の操作によるものだったろう。しかし9月の「倒扁」運動の赤シャツ隊デモで流れは変わった。馬英九の無能が白日の下にさらけ出されて、長老連中は李登輝のほうにシフトした。
つまり、総統夫人起訴から、馬英九事情聴取にいたるまで一連の検察の動きは、こうした「裏の手」が働いているように考えられる。検察が国民党の巣窟である以上、馬英九が国民党の上層部から見捨てられないかぎり、事情聴取を受けるなど考えられないからだ。
そういう点では、検察の動きはあまりにも政治的であり、日本のマスコミやそれを読んだ人が、素直に「検察の捜査」として読むのは、あまりにもナイーブだろう。

ただ、李登輝、王金平、国民党本土派ラインが台湾政局の主導権を握りつつある状況は、少なくとも日本としてはプラスであっても、マイナスとはいえないだろう。名実ともに台湾人の政治になるからである。反日的な馬英九とそれに追随してきた若手大中国主義者は力を失う。中国は非常に困っているはずである。

もっとも私は、これではつまらん、と思う。
民進党は不慣れなところは多いが、それでも改革進歩志向だから新たな政策や行動が生まれてきたからだ。台湾はこの6年間にやはり進歩した。
しかし、ここで国民党本土派が主導権を握れば、中国に飲み込まれるという心配や不安は永遠になくなり、台湾主体性は確立されるだろうが、そのかわり進歩的な政策や理念は政治からは生まれてこない。
韓国も07年末大統領選挙では高建が大統領になりそうだし、そうなると堅実だが、つまらんことになりそうだ。
そういう点では、台湾と韓国は、奇しくも同じようにリベラル政権となり、そのほころびが見せ付けられ、同じように中道堅実だがつまらん政治となる、という展開になりそうだ。


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