巻向の 檜原もいまだ 雲居ねば
小松が末ゆ 沫雪流る
=巻10-2314 柿本人麿歌集=
巻向の桧の原にまだ雲がかかっていないのに、松の枝先を沫(泡)雪が流れるように降っている。という意味。
雲も出ていないのに思いがけなく雪が降ってきた驚きと喜びをすなおに歌っている。
万葉学者・伊藤博氏は、「調べは雪の流れに融けあい表現の神秘すら感じさせる、人麻呂声調の極地」と絶賛、小説家杉本苑子さんも、「声に出して誦(ず)したい作品群中でも特に流麗な一首。このような作品には訳など無用なもの」と、最大級の賛辞を送っている。
桜井市穴師付近が巻向の地といわれている。
この万葉歌碑は穴師の兵主相撲神社に建っている。第11代・垂仁天皇(すいにん)の7年7月7日、ここで野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹴速(たいまのけはや)が戦った国技相撲の発祥地。野見宿禰が当麻蹴速のあばら骨を踏み砕き、また腰を踏みくじいて殺してしまい、当麻蹴速の土地は没収されて野見宿禰に与えられた、と日本書紀に記されている。