前々回、「欧州型林道は林業施業のためだけでなく、市民のレクリエーションや観光にも役立つ」と書いた。
3年前に訪問した際にも、山中、それもかなり標高の高いところでも、
自転車やハイキングを楽しむ人たちに、よく出会った。
※3年前のドイツ訪問時の写真
ヨーロッパでは自転車を愛好する方が多く、まちなかだけでなく、こうして山も自転車でよく楽しんでいる。
それができるのも、欧州型林道の特徴である「縦断勾配<横断勾配」により、登りの傾斜が緩やかになっているためである。
それが証拠に、おじいちゃんやおばあちゃんたちの自転車に、山で出くわすこともあった。
電動アシスト付マウンテンバイクにまたがり、あのエイリアンみたいなヘルメットを着用して、
颯爽と山を走り抜けるおじいちゃんたちの写真を撮り忘れたのが悔やまれる…。
日本における欧州型林道の先進地である岐阜県高山市では、
長期滞在志向の高いヨーロッパからの観光客のリクエストに応えて、
市内の林道を開放する動きもあるようだ。
※2年前に高山を視察した際の写真
「縦断勾配<横断勾配」の様子がよくわかる。
さて、そうした自転車やハイキングなどに加えて、今回の研修で目にしたものがこれ。
ベビーカー。
傍らには5歳ぐらいの女の子も。
これは地元森林官(フォレスター)による、山主さんたちへの現地説明会の様子。
上記家族をはじめ様々な年代の山主さんたちが、約1時間ほど山中を歩きながら、
自分たちの山を管理している森林官の、森林整備に関する考え方や施業方法に耳を傾け、
実際のその整備効果を目にしていた。
森林官のランゲ氏に、「ベビーカーで山に来るのは、よくあることなんですか?」と尋ねると、
「もちろん! この道があるからね!!」と誇らしげに答えてくれた。
「自分の家の山があるらしいけど、どこにあるかよく分からない」
といった問題は、どうやらドイツではありえないことのようだ。
このように様々な効果をもたらす欧州型林道だが、
やはり林業施業において、その効果を最も発揮することができる。
幅の広い崩れにくい道があるから、施業はホイールベースマシーンが中心となる。
移動スピードが速く、効率性が高まるため、低コスト作業を可能にする。
集材した材は、道が広いから道の脇に積み置きできる。
森林官がそのデータをタブレットに入力すると、同じくタブレットをもった運送業者がGPSで位置確認し、
積み込んで指定された製材所へ納品する。
単に初期の開設費用にだけ目を向けるのではなく、その後の整備まで含めたトータルコストでものを考えるべきだ、
と繰り返し教えられる。
事実、間伐が遅れていて鬱蒼とした暗い山林は、道づくりから始まったこの20年間の施により、
いまでは、上記写真のような付加価値の高い木材が搬出できる、山主にも利益が還元される美しい森林となっている。