で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1114回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ハクソー・リッジ』
メル・ギブソン監督が、『アポカリプト』から10年のブランクを経て、監督復帰して、激烈を極めた沖縄戦の知られざる実話を映画化した衝撃の戦争ドラマ。
信念から、志願兵となりつつも、兵士として、武器を持つことを拒否しつつも、従軍した衛生兵デズモンド・ドスの不屈の人生の実話を基に、臨場感あふれる迫力の戦闘シーンとともに描き出す。
物語。
1940年代。
アメリカの田舎町で育ったデズモンド・ドスは、看護師のドロシー・シュッテと恋に落ちるも、激化する太平洋戦争で傷ついていく仲間に心を痛め、衛生兵になるべく、陸軍に志願する。
しかし、基地での訓練で銃に触れることを拒絶し、除隊させようと、上官や他の兵士たちから執拗ないやがらせを受けるようになる。
それでもデズモンドも決して信念を曲げない。そのため、軍法会議にかけられ、刑務所行きか除隊を免れない状状態になってしまう。
脚本は、ロバート・シェンカン、アンドリュー・ナイト。
出演。
アンドリュー・ガーフィールドが、デズモンド・ドス。
敬虔な信者に見える。『沈黙 ーサイレンスー』 ともつながっているからか。
時折、ショーン・ペンにも見えたり。
テリーサ・パーマーが、恋人のドロシー・シュッテ。
金髪碧眼の看護婦。
ヒューゴ・ウィーヴィングが父のトム・ドス。
この目力を見よ!
レイチェル・グリフィスが母のバーサ・ドス。
ナサニエル・ブゾリックが、弟のハロルド“ハル”・ドス。
ヴィンス・ヴォーンが、ハウエル軍曹。
彼の秘めた人柄が上手く活かされていました。
サム・ワーシントンが、グローヴァー大尉。
ルーク・ブレイシーが、スミティ・ライカー。
彼との邂逅シーンがいいのよね。
マイロ・ギヴソンが、ラッキー・フォード。
メル・ギブソンの実息。
つまり、『ブラッド・サン』ですね。
ルーク・ペグラーが、ハリウッド。
ゴラン・D・クルトが、グール。
いいとこ持っていきます。
ダミアン・トムリンソンが、ラルフ・モーガン。
足・・・。
スタッフ。
製作は、デヴィッド・パーマット、ビル・メカニック、ブライアン・オリヴァー、ウィリアム・D・ジョンソン 、ブルース・デイヴィ、ポール・カリー、テリー・ベネディクト。
製作総指揮は、デヴィッド・グレートハウス、スチュアート・フォード、タイラー・トンプソン、エリック・グリーンフェルド、リック・ニシータ、レン・ブラヴァトニック、アヴィヴ・ギラディ、ローレンス・ベンダー、クリストファー・ウッドロウ、マイケル・ベイシック、ジェームズ・M・ヴァーノン、バディ・パトリック、スザンヌ・ウォーレン、レニー・コーンバーグ、マーク・C・マニュエル、テッド・オニール。
撮影は、サイモン・ダガン。
狭い世界で広さを出すレイアウトが魅力。
プロダクションデザインが、バリー・ロビンソン。
衣装デザインは、リジー・ガーディナー。
編集は、ジョン・ギルバート。
小気味いいリズムがありつつも緊張感を失わないのが素晴らしい。
音楽は、ルパート・グレグソン=ウィリアムズ。
VFXスーパーバイザーは、クリス・ゴッドフリー。
第二班監督兼スタントコーディネーターは、ミック・ロジャーズ。
特殊効果監督は、ダン・オリヴィー。
特殊効果助監督は、ロイド・フィンモア。
素晴らしい仕事。
太平洋戦争の近代戦最悪の接近戦と言われるハクソーリッジ(前田高地)戦で銃を持たずに傷病兵を救助し続けた青年衛生兵の半生を描く実話戦争ドラマ。
10年ぶりにメル・ギブソンのアート級の破壊が炸裂。
戦場体験映画として史上最高レベル。音も特殊効果も抜群。
前半は青年の人柄と周囲を描く裁判もので、後半はひたすら戦場地獄。いわば宗教的『フルメタル・ジャケット』。
見た目の強いキャストで見分けをつけさせ、主人公の柔和さを際立たせる。
アンドリュー・ガーフィールドの優しい狂気=曲がらない信念が溢れ出す。
日本軍の扱いは記号的先住民族風だが、切腹シーンには神々しさがある。
一本の道には前後二つの行先有り。
天に主張を通せば、道理が蜘蛛糸垂らす鋸作。
おまけ。
原題も、『HACKSAW RIDGE』。
『のこぎり崖』の意味。
日本の地名は、【前田高地】ですね。
おいらとしては『ハックソー・リッジ』表記の方がいいと思うが、どうかしら?
だって、だって、歯糞っぽいんだもの。
上映時間は、139分。
製作国は、オーストラリア/アメリカ。
映倫は、PG12。
キャッチコピーは、「世界一の臆病者が、英雄になった理由とは――」
世界一は言い過ぎですね。
それとも、原語だとそういういい方しているのかな?
受賞歴。
2016年のアカデミー賞にて、音響賞(調整)を、Andy Wright、Kevin O'Connell、Peter Grace、Robert Mackenzieが、編集賞をジョン・ギルバートが受賞。
2016年の英国アカデミー賞にて、編集賞をジョン・ギルバートが受賞。
2016年の放送映画批評家協会賞にて、アクション映画賞とアクション映画男優賞をアンドリュー・ガーフィールドが受賞。
2016年のラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞)にて、ラジー・リディーマー賞(挽回賞)を、メル・ギブソン(2014年のワースト助演男優賞候補からオスカー監督賞候補になったことで)を受賞。
火炎放射器は当時の最新兵器で、火はもちろんのこと、周囲の空気が一気に高熱になって喉が焼けるなどの効果があった。
良心的兵役拒否者とは、宗教上の信念などから、兵役を拒否する者を指す。
デズモンド・ドスは良心的協力者と自らを呼んでいた。
ややネタバレ。
終戦後、デズモンド・ドスは良心的兵役拒否者としてはアメリカ史上初めての名誉勲章を授与された。
ラルフ・モーガン役のダミアン・トムリンソンは、実際に戦場で足を失くされた傷痍兵。
ネタバレ。
日本軍は硫黄島での作戦を踏襲して、地下塹壕を掘って、奇襲攻撃を仕掛けた。それは地下の軍艦と言われた。
そのため、米軍はガソリンを流し込み、火炎放射器や爆弾で焼き尽くす作戦に出た。
日本軍は沖縄で時間を稼ぐことが本土攻撃への備えになると必死の防戦に出た。しかも、米軍は艦砲射撃や火炎放射器でかなりの非戦闘員も構わぬ攻撃をしており、日本軍としては、卑怯だろうと何だろう米軍へ攻撃をし続けた。
白旗からの自爆作戦もまだ兵士同士の戦闘であり、非人道的な戦闘はお互い様なところがあった。
太平洋戦争には東洋vs西洋なので、当時的にはルールがちょっとはみ出していた。
日本の都市への2発の原爆投下などはその最たるものだろう。
現代でも、西洋vs中東において、そこら辺のルールをはみ出すのは続いている。
そういった日本の歴史からの地平で見てしまうと対米中東勢のなりふり構わぬ必死さも分からぬでもない。
ゆえに、デズモンド・ドスの己の法を、信念を曲げなかったことに胸を打たれる。
反戦というだけでなく、その先の特殊な状況化にあってさえも、自分なりの正しさを貫けるはずだということに。
そういや、火炎放射器を撃って爆発は『リーサル・ウェポン4』の最初のシーンでも出てきましたね。
戦場のシーンのほとんどが実写で装置を消したりしてるくらい。
新しい、箱爆弾という仕掛けで爆発の真上に立っての爆破シーンも安全に撮影できるそう。
物事が持つ二面性を描いている。
デズモンドが弟を殴ろうとしたレンガは車の事故から男を救う。
父が罰としてデズモンドを打とうとしたベルトは足を怪我した男の止血に使われる。
もやい結びの失敗のおっぱい結びが人を救う。
聖書は道徳と臆病を示す。
人を殺す銃は持たないが、人助けるための道具としての銃を持つのは躊躇しない。
デズモンドは、自分が弟を殺しかけたのと、母を殺そうとした父に自分を重ねている。
実際は、母ではなく叔父を殺そうとしたそうです。
ネットで調べると他にも多くの脚色があり、ドロシーは、ドスと出会ったとき看護師ではなく、入隊前に結婚を済ましていたそう。軍から禁止されたのは兄に別れを言いに行こうとしたこと。
パンフレットにもあるように、ドスは、沖縄以前にグアム島とレイテ島で目覚ましい働きを見せていた。その活躍で、すでに青銅星章を授与されていたので、沖縄の時には、ある程度、頼りにされていた。
あと、手榴弾を蹴り返したのは事実。
しかもその上、それによって、重傷を負ったドスを運ぶためのストレッチャーは五時間も来ないで、待たされ、そのストレッチャーで運ばれる最中に砲撃をさらに受けたドスは傷ついた他の兵士を先にストレッチャーに乗せさせ、次のストレッチャーで運ばれる時に腕を撃ち砕かれ、運ぶ衛生兵もやられたので、その腕で救護所まで這っていった。
それらのエピソードはあまりにも凄い話過ぎて、見ている間では観客は信じてくれないだろうとメル・ギブソン監督が削ってしまった。
兵士になれず自殺した同郷の友のためにデズモンドは志願兵となったわけで、アメリカの青年もまた日本と同じように国に踊らされたのが分かる。
デスモンドは、1942年に入隊して、1945年に怪我により除隊している。
デズモンド・ドスの宗派は、セブンスデー・アドベンチスト教会。聖書主義に立つキリスト教(プロテスタント)の一派。
善悪の彼岸を超えて、これを見てあの戦場に行きたいと思える奴がいるのか?
それだけで今作はいろいろ飛び越えて反戦映画。
それでも、そこに行きたい奴、他人を行かせたがる奴がいるのが人間の恐ろしさでもある。