【俺は好きなんだよ】第170回
『楽園の瑕(きず)』(1994)
原題は、『東邪西毒』。英語題は、『ASHES OF TIME』。
有名武侠小説の映画化作品。
スタッフ。
監督:ウォン・カーウァイ
製作:ツァイ・ムホー
製作総指揮:ジェフ・ラウ
原作:キン・ヨウ
脚本:ウォン・カーウァイ
撮影:クリストファー・ドイル
音楽:フランキー・チェン
出演。
レスリー・チャン
レオン・カーフェイ
ブリジット・リン
トニー・レオン
マギー・チャン
ジャッキー・チュン
カリーナ・ラウ
チャーリー・ヤン
物語。
砂漠の宿屋で、“西毒"こと欧陽峰は殺し屋の元締め稼業を営んでいた。
彼は白駝山に生まれ、早くに両親を亡くし、兄に育てられた。
彼は高名な剣士となる野望のため、恋人を捨て、残された彼女は兄と結婚した。
毎年春、親友の“東邪"こと黄薬師が訪ねて酒を飲んでいく。
恋多き彼は男装の剣士・慕容燕に愛されながらも彼女を捨てた。妹の媛なる存在になりすまし、二重人格者になるまで思いつめた彼女は、数年後、独狐求敗という謎の女剣士として生まれ変わった。
妻・桃花を薬師に奪われた親友の剣士は、失明の病に冒されながら馬賊と戦った。
その代役で馬賊退治をした洪七という裸足の剣士は、敵討ちの請負人を探して宿の前に佇み続ける狐女に思いを寄せ、彼女の仇討ちで傷つき、癒えると妻と北へ向かった。
受賞歴。
94年のヴェネチア国際映画祭で、金のオゼッラ賞を受賞。
第14回香港電影金像奨撮影賞・美術賞を受賞。
第31回台湾金馬賞撮影賞・編集賞を受賞。
ウォン・カーウァイが、『欲望の翼』の成功を経て、挑んだのは、中国の人気武侠小説家、金庸の代表作『射英雄傳』を基にした物語。
原作では老人である主人公らの若き日の姿を描いてる。
エグゼクティヴ・プロデューサーはカーウァイの盟友ジェフ・ラウに、撮影はクリストファー・ドイル、美術・編集・衣装のウィリアム・チョン、音楽のフランキー・チャン、ローウェル・A・ガルシアとカーウァイの常連スタッフが集結している。
物語を読んでもらっただけで、分かると思うのだけど、かなり複雑な構成になっています。
というかウォン・カーウァイ上級者向け。
記憶を扱っているので、どんどんキャストが変化したりするし、モノローグと映像が違っていたりするし。
アクションシーンの多くも、その強さを示すというよりも、登場人物の心の吐露になっているようで、すっきりさせてくれませんしね。
砂漠が舞台なのも、その孤独と乾きに直結してるからとしか思えません。
喉だけでなく胸の渇きだね。
でも、この砂の霧のようなもやもやの中に浸ると、これが心地よくなる。
2回目、3回目の方が心地よくなる気がする。
記憶が、思い出になっていくかのように。
それは、やはりクリストファー・ドイルの撮影あってこそともいえる。
これが、まぁ、美しいのよね。
そこに乗っかるのが、詩的なるカーウァイ節。
「勝ったと思っていたけど、ある日鏡を見た時そこに敗者がいたの。一番美しい時に愛する人を失ってしまったの」とか、「人に拒絶されないためには、先に拒絶することだということを学んだ」とかね。
見る酒とたとえたい。
で、この超大作は、超大作にありがちな難産となる。
カーウァイの完璧主義が災いして、製作がトラブル続きになってしまい、撮影だけで、数年かかってしまう。
それを象徴するのが、この映画の製作によって、3本の映画が生まれたこと。
一本目は、『恋する惑星』で、『楽園の瑕』の編集中に息抜きに作られた小品だった。
二本目は、『天使の涙』。制作時期は『楽園の瑕』完成以後だが、『恋する惑星』の3話目が拡大した姉妹編だから。
三本目は、『大英雄』。『楽園の瑕』の制作が延びたため、番組を埋めるために作られた武侠モノのパロディ映画。しかも、『楽園の瑕』とキャストがほぼ同じという超豪華パロディ。
それほどの大作だったということですな。
難産になぞらえれば、4つ子だったとも言える。
その出産と甘やかされた末っ子を見守るような気分で味わう感じでどうぞ。
ウォン・カーウァイの力技、筋肉を見よ!