MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯410 「ザクとうふ」はどうやって世に出たのか

2015年09月17日 | 日記・エッセイ・コラム


 お豆腐という和風の素材とアニメのキャラクターをコラボレーションさせた「ザクとうふ」で、一躍全国的に有名になった群馬県前橋市の豆腐・油揚げ製造業、相模屋食料(株)にお邪魔し、代表取締役社長の鳥越淳司(とりごえ・じゅんじ)氏にお話を伺う機会がありました。

 鳥越氏は、昭和26年に創業された相模屋豆腐店を創業家の娘婿として受け継ぎ、平成19年からは代表取締役として同社の経営を引っ張っている41歳の気鋭の経営者です。

 鳥越氏は、平成14年の相模屋入社以前は集団食中毒事件や牛肉偽装事件で揺れる雪印乳業で営業を担当されており、食品の安全確保や生産管理に対する企業姿勢の重要性を(その際)現場で身をもって体験したと話されています。

 そうした食品製造の「基本」をしっかり押さえたうえで、さらにその上を行くアイディアと挑戦を重ね、氏は入社以降の11年間で同社の売り上げを30億円から178億円へとおよそ6倍に伸ばし、一躍日本のトップメーカーへと導きました。

 相模屋のお豆腐と言えば、30歳代から40歳代の男性へのインパクトを狙った一連の「モビルスーツとうふ」ばかりがメディアなどで取り上げられていますが、実際の売り上げを支えているのは、豆腐を熱いまま包装する「ホットパック製法」により賞味期限を延ばした「木綿3個パック」や、製法を研究し尽くして完成した人気商品「焼いておいしい絹厚揚げ」などのスーパーでよく見かける基本的な商品です。

 また、若い女性にターゲットを絞って開発されたデザート感覚で食べられる「ナチュラルとうふ」や、一人暮らしの世帯などを狙った「レンジで簡単!ひとり鍋」シリーズなども、最近の売り上げ増に大きく貢献しているということでした。

 氏によれば、昔から「豆腐屋とデキモノは大きくなると潰れる」と言われてきたのだそうです。豆腐のような応用が難しい基礎商品では、ラインの効率化や商品開発を考えずに規模を大きくするだけでは結局リスクが膨らむばかりでメリットを生かすことが難しい。そうしたことから、実際、国内で全国区のメーカーはこれまでも生まれてこなかったということです。

 しかし、そうした(ある意味「諦め」が先に立った)競争のない世界であればこそ、研究し、アイデアイアを出し、チャレンジした者には、それなりのリターンが期待できると鳥越氏は話しています。

 日本の音楽市場の市場規模は概ね3000億円、ゲームの市場規模は2000億円とされています。一方、豆腐の市場規模は全国でおおよそ5000億円。あまりに身近な食材であるがゆえにこれまで注目されることは少なかったマーケットですが、投資する側から見た豆腐市場の可能性は、確かにそのイメージ以上に高いと言えるかもしれません。

 さて、当然のことながら、1960年代後半から70年代生まれのガンダム世代(特に男性)の話題をさらった「ザクとうふ」についても、鳥越氏は「熱く」語っています。

 豆腐の新境地を開拓したとして、平成24年の日経優秀製品サービス賞にも輝いたこの商品。その多くは家庭を持ち、社会の中でも中堅を担う30歳代後半から40歳代の男どもを「萌え」させたのは、(甘酸っぱい?)少年時代に繋がるノスタルジーと、商品に込められた作り手の(愛情とも呼べるような)マニアックな視線です。

 鳥越氏は商品開発に当たり、主人公アムロが乗る白いガンダムでも赤い「シャー専用機」でもなく、あくまでヒールとしての量産型ザクに拘ったということです。豆腐売り場に緑色のモビルスーツが並ぶ姿を見てみたかったと語る(自身もバリバリのガンダム世代である)鳥越氏の遊び心は、しっかりと同世代の男性の感性に響いたようです。

 日本の食品小売の歴史上、この世代の男性がスーパーマーケットの豆腐売り場に積極的に足を向けたのは(おそらく)初めてのことだろうと鳥越氏は話しています。

 ある意味これは革命的なできごとで、全く新しいマーケットがそこに生まれたということに他ならない。四角四面の豆腐という面白みのない商品が、物語(という付加価値)を持つ嗜好的な商品に変わった瞬間だと氏は捉えています。

 鳥越氏によれば、週末、奥方に連れられてスーパーへの買い物にいやいや付き合っている男性たちが唯一関心を持つのは、日常的なお酒やちょっとしたつまみなどの棚だけだろうということです。しかし例えそんな物であっても、勝手にカートに入れてしまえば奥方の不興を買うことは必至です。

 そんな時、それがお豆腐売り場にある200円未満の商品であれば、そのハードルはぐっと低くなる。そして、もしも男性たちが「その存在の有難さ」についてその場で熱心に語ることができれば、(努力次第ではありますが)彼らの意見も通ることになるだろうと鳥越氏は笑って説明しています。

 キャラクターへの限りない愛情とこだわりの商品づくりを楽しむ気持ち。そして世代的な連帯感というものなどもそこにはあるのかもしれません。

 現代版の「浪花節」とも言うべきそういう熱い思いが意匠権を持つ人々の心を動かし、(そこまで言うのなら)応援しようという人々の力があって初めて、量産型「ザクとうふ」が世に出たと言えるのでしょう。

 なお、鍋専用の「ズゴックとうふ」(昆布風味)や、黒い三連星、ジェット・ストリーム・アタックの「トリプルドムとうふ」(チョコレート味)も好評発売中ということですので、スーパーなどで見かけた際には、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。





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