雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

玉を献じて手を斬られる ・ 今昔物語 ( 10 - 29 )

2024-05-20 11:39:03 | 今昔物語拾い読み ・ その2

     『 玉を献じて手を斬られる ・ 今昔物語 ( 10 - 29 ) 』


今は昔、
震旦の[ 欠字。「周」らしい。]の御代に、玉を造る一人の男がいた。名を卞和(ベンカ・春秋時代の人物。)と言った。
その卞和が玉を造って、国王に献上したが、国王は他の玉造を召して、献上された玉をお見せになると、その玉造はその玉を見て、「この玉は光りも無くて、不用(何の役にも立たない。)の物である」と申し上げたので、国王はたいそうお怒りになり、「どうして、このような不用の物を献上して、公を欺くのか」と言って、それを奉った玉造(卞和のこと)を召し出して、左の手を斬らせた。

その後、代が替り、他の人が国王に就き給うと、また、かの玉造を召して玉を造るよう命じられたので、造って奉ると、前の国王と同じように、他の玉造を召してお見せになると、この度も前と同じように、「この玉、光りも無く不用の物です」と申し上げたので、また、前のように国王はお怒りになり、この度は、右の手を斬られたので、卞和は泣き悲しむこと限りなかった。

ところが、また代が替り、他の人が国王に就かれた。卞和は、なおも懲りずに、玉を造って国王に献上したので、また、他の玉造を召してお見せになり、「やはり、何か訳が有るのではないか」と思しめしになって、磨かせなさると、この世に二つとないすばらしい光りを放ち、照らさない所がないほどに照らしたので、国王はお喜びになり、卞和に賞をお与えになった。
されば、卞和は、前の二代の国王では涙を流して泣き悲しんだが、三代目になって、ようやく賞を賜って喜んだのである。

これによって、世間の人は皆、前の二代の国王を非難申し上げた。そして、今の国王を、「賢明でいらっしゃる」とお誉め申し上げた。
これは、二代の国王が愚かであられたのである。「やはり、何かある」と思いをめぐらすべきであるのに、簡単に手を斬らせるのは品格に欠けている。また、卞和も、懲りもせず玉を献上するのは、極めて軽率である。
「前の二代の国王に、すでに左右の手を斬られている。この度、もし前の二代と同じであれば、この度は首を斬られたであろう」と世間の人は疑問に思ったが、卞和が強いて献上したのには、それなりに思うところがあったのであろう。

されば、全ての事は、やはり、このように意志を強く持つべきである、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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