photo:Estación de Madrid-Puerta de Atocha~アトーチャ駅高速鉄道プラットホーム~
←05:マドリッド・アトーチャ駅は大熱帯植物園からの続き
マドリッド・アトーチャ駅の高速鉄道乗り場は、近郊線セルカニアスや在来線の改札口とは別に駅上層階に専用の入り口があります。
高速鉄道の乗客は皆、入り口に入る際に係員にチケットとID(身分証明書)を見せてから手荷物検査場を通る必要があり、空港の搭乗ゲートと全く同じ雰囲気です。
こんなに厳重な警備を行っている高速鉄道は世界的にも珍しいのではないでしょうか。スペイン政府の高速鉄道に対する安全対策への力の入れようが感じられます。
手荷物検査を済ませてコンコースまで進むと、これまた空港と同じような搭乗案内(いや、乗車案内だな)が表示されたモニターが並んでいます。
発車の30分ほど前になると乗車する列車の乗り場番号がモニターに表示されるので、それまでは乗客はプラットホームに進むことは出来ずコンコース内の待合コーナーで待つというシステムです。
さて、僕がこれから乗るアトーチャ駅を正午発のセビリア・サンフスタ駅行きAVE2120号の発車までは小一時間ほどあるので、乗車案内にはまだ乗り場番号が表示されていません。暫し待つとしましょう。
でも、実はこの乗車待ち時間も楽しみの一つなのです。何故なら…
駅コンコースの雑踏とは隔絶された、静かで優雅な空間。
スペイン国鉄renfe が高速鉄道の1等車を利用する乗客の為に用意した駅のVIPラウンジSala Clubです!
僕は1等車に乗れる乗り放題きっぷのユーレイルパスを持っているので、こんな素敵なラウンジを何と無料で使うことが出来ます。これは乗車する前から嬉しいサービス!凄いぞ、スペイン国鉄renfe。
Sala Clubでスナックをつまみながらコーヒーを飲んでいるうちに、AVE2120号の発車30分前になり乗車案内のモニターに乗り場の表示が出ました。
居心地の良いSala Clubでもうちょっと寛ぎたい気分ですが、AVEとの初対面をじっくり味わいたいので早めにプラットホームに向かうことにしましょう。
搭乗ゲートでチケットを係員に渡してバーコードを読み取って貰い、搭乗手続きを完了させるとやっとAVEの待つプラットホームに行くことが許可されます。
エスカレーターで薄暗い高速列車プラットホームに降りて行くと…いました、スペインが誇る超特急AVE です!
AVEには現在、3タイプ4種類の車輌が使われているようですが、これは最新鋭のS112型のようです。
空気抵抗を減らすべく独特の形状になった先頭車は地元スペインでは「あひる」と呼ばれているそうですが、どことなく「かものはし」に似た日本のN700系新幹線を連想させますね。ちなみに高速鉄道のAVEという名称も、「スペインの・高速の」という意味であるAlta Velocidad Españolaという言葉の頭文字を並べてスペイン語で鳥という意味である単語Aveに当てはめた一種の言葉遊びとなっていますが、「あひる」だと少々可愛らしすぎて、俊敏に羽ばたくスピード感に欠けますね(笑)
セビリアへの出発を待つ「あひる」は、プラットホームでおじさんに顔を洗ってもらっています。駅での停車中の車体清掃は日本でも名鉄特急などで見かけたことがありますが、きれいな列車で乗客に快適に旅してもらおうという鉄道会社の心遣いと、同時に車輌への愛着を感じさせて気持ちのいい光景です。
まだ発車まで少し時間があるので、これから乗る列車の車輌を1輌ずつ眺めながら端から端まで見て歩きます。
S112型はアヒル顔の機関車が先頭と最後尾の両端に連結され、客車を機関車で挟んで走るプッシュプルスタイルの編成となっています。
中間に挟まれた客車は、スペイン独自のタルゴTalgoと呼ばれるもので、屋根が低くて車体長も短い小さな車体で車輪もトロッコのような一軸車輪という実に独特なもの。ちょっと見た目がおもちゃの「プラレール」を連想させ何ともユーモラスですが、重心が低くて走行が安定しておりカーブにも強いという特徴があり高速走行に向いています。実は大変な実力を備えた、スポーツカーのような車輌なのです。
タルゴに見入って歩いているうちに、編成の反対側の先頭車まで来てしまいました。
乗務前にプラットホームで一服していた運転士に「旦那、この先は客車は無いぜ?」というような事を言われたので、カメラを持って「写真を撮りたいんだ!photo!」と応えるとニヤリと笑って「おう、撮れ撮れ!」と言ってくれたのが嬉しい。
反対側の機関車でも、やっぱり車体清掃をしていました。
随分念入りに洗っています。乾いて埃っぽいラ・マンチャの大地を時速300キロでぶっ飛ばして来るので、砂埃汚れが酷いようです。
掃除のおじさんに敬意を感じつつ、車内へ入りましょう。
僕が乗るのはPriferenteと呼ばれる1等車、横3列のゆったりした革張りシートが並び快適そのもの。
そして僕のために用意された指定席は、一人旅には最適の1人掛けシート!
これでセビリアまでの道中、誰にも気兼ねすること無く鉄道の旅を楽しめます。
(毎回、一番居心地のいい座席を日本から狙い撃ちして予約してくれるヨーロッパ鉄道チケットセンターさん、グッジョブ!)
車内の時計の表示が12:00になるのと同時にデッキのドアが締まりました。
まさに時報通りの正確さで、AVE2120号はマドリッド・アトーチャ駅を発車!
発車後、乗客にはヘッドフォンが配られます。座席にはオーディオ装置が標準装備で、車内天井に取り付けられたモニターでは映画の上映サービスも始まりました(この時は「ゼロ・グラビティ」をやっていました。まさかスペインの列車内でISSやソユーズや天宮のハチャメチャSFを見ることになるとは…(笑))。
AVEは駅も空港のようでしたが、車内サービスも飛行機と同じです。まさに、イベリア半島を駆け抜ける地上のジェット旅客機!
マドリッドの市街地を抜けた列車は、すぐに広大な平原に出てぐんぐん加速していきます。
乾燥した荒野が広がる光景。
世界中の誰もが知るドン・キホーテとサンチョ・パンサが彷徨った(そして青池保子著「アルカサル-王城-」の愛読者である僕にとってはドン・ペドロとエンリケ・デ・トラスタマラが王位を巡り死闘を演じ続けた)、ラ・マンチャの大平原です。
「ああ、とうとう僕はスペインにやって来たぞ!」 と実感させてくれる眺めです。
時速300キロで流れ去るAVEの車窓は刻々と移り変わっていきます。
乾ききった荒野が果てると、緑豊かな草原地帯が現れました。
どことなく、懐かしのWindows XPのデフォルト壁紙を彷彿とさせる風景。
はて、あれはスペインで撮影されたんだったっけ…?(※実際にはカリフォルニアで撮影されたと言われているそうです)
アンダルシアが近づいてくると、車窓がまた変化。
赤茶けた土地にオリーブ畑が延々と続く風景は、地中海が近いことを教えてくれます。
→07:Siesta…微睡む南国の古都、セビリアに到着に続く
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます