My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

「寄付」は要らないものをあげることじゃない

2009-11-05 09:16:36 | 7. その他ビジネス・社会

Sloanの校舎の中を歩いていたら、こんなものを発見。

経済的に恵まれない人たちのために、就職活動用のスーツや白いシャツ、手入れしてある靴やかばんを寄付する、という趣旨のものらしい。
中を見ると、ちゃんとクリーニングに出したスーツや黒い鞄などが入っている。

アメリカでは、教会が中心にやっている、服の寄付の仕組みがたくさんある。
古着や買ったけど気に入らない服などを寄付すると、それが経済的に恵まれず、服が十分に買えない人たちに無料で渡るような仕組みだ。

ところが、そういうところって、シミのついた服だの流行遅れの服だのはたくさん集まって、処理に困るくらいらしいが、皆が欲しい「ちゃんとした服」が集まらないのだそうだ。
で、特にホワイトカラーの職に就くのに、就職活動をするにふさわしい服など全く集まらないらしい。
この活動は、そのニーズにこたえるものだそうだ。

ホームレスになった人たちだって、そこで育った子供たちだって、
あるいは現在は低収入のブルーカラーでワーキングプア状態になってる人たちだって、
職業訓練などを受け、より良い生活を目指すための就職活動をすることがある。
そのときには、ちゃんとした服が要る。
でもスーツやシャツなんて一番高いものだから、買えない。
シミの服や誰かの着古した服は、普段着にはいいけど、そんな服では、ただでさえ高い敷居を越えることすら出来ない。
(ただでさえ、出自とか、学校とか、ハンディキャップがあるのに)

でも寄付するときは、皆そんなこと考えないよね。
「あーこの服古くなったから、救世軍に出そう。捨てる神あれば拾う神ありでしょ。」
くらいに軽く考えて、寄付するわけだ。
で、その結果、誰も着ないような着古しばかりが集まる。

4月にフルブライトの研修でニューヨークに行ったときのこと。
研修の一環で、ホームレスの人たちが住む家に家具を支給する団体のお手伝いに行った。

アメリカの政策でも、失職してホームレスになってしまった人たちに、安い家賃で家を貸す、というセーフティネット的な仕組みが一応ある。
(家族でホームレスの人たちが優先される)
ところが、そこで困るのが、貸す家には家具がなく、がらんどうのところに家族が住まなければならないということだ。
ホームレスの家族にとって、とりあえず、「シェルター」として住む家が出来るのは嬉しいことだが、
家具も無ければランプも無い。
そんな家じゃ「家庭」として落ち着いてすむことも出来ないだろう。
けれど、家具は高くて、とてもじゃないけど買えない。

それで、不必要な家具を引き取って、こういった人たちに寄付する、ということをやっている団体だった。

そこに寄付されてるのはこんな家具だった。

これってどう見ても、潰れたホテルから回収してきた、ホテル用のテレビセットだよね。。

これはホテル用の、小さい冷蔵庫。
こんなんでも、無いよりは役に立つのかな?

「寄付」と言っても、ほとんどが、皆の「要らない」ものを集めてるだけ、という状況だった。
やはり、世の中こんなものなんだな、と思った。

そこでの私たちの仕事は、家具会社から「寄付」された、家具の組み立てをやるという仕事だった。
私たちは、普通のIKEAの家具のようなものが出てくるのかと期待していたが、そうじゃなかった。

実は「寄付」されていたのは、お客さんが一度開封して「返品した」品ばかりだったのだ。
だから、問題点ばかりだった。

ネジが足りないなんてのはしょっちゅう。
そういうのは、接着剤とかで解決する。

部品の金属の棒が完全に曲がってるものもある。
そういうのは2,3人で集まって、ペンチで直す。

中には、電気スタンドのコードが完全に切れてるなんてのもあった。
(そんな自分で壊したようなもの、返品するなって感じなのだが・・・)

一応理系の私は、コードのビニール部分を剥がし、金属の線同士を絡み合わせて繋ぎ、
その上を白いビニールテープで絶縁して、という作業をやって、電気スタンドたちを生き返らせた。
(写真は、はさみでコードのビニール部分をうまく剥がしてるところ)

こんなの、私はたまたま、どうやったら解決できるか知ってるから、直せたんじゃないか。
コードの金属部分をつなげば電気が通ることとか、2本の線は別々に絶縁する必要があることとか。
ホームレスになるまで追い込まれるような人たちが、全員知ってることではない、と思う。
(フルブライトで来てるような学生ですら知らなかった)

そんな人たちが、こんな壊れた家具を与えられて、どうすりゃいいっていうのか?

こんなの「寄付」って言うんだろうか?
その家具メーカーにはそのときは腹が立ったけど、でも世の中そんなもんなのだ、と思い返した。

「寄付」をしている人たちが、悪いんじゃない。
彼らは「拾う神もあるでしょ」くらいに、軽く考えて、捨てるよりは役に立つだろう、と思ってるだけだ。

だから、「就活用の服が必要なんだ」と言って皆の想像力を喚起する人や、
どんな家具でも直してしまう人が必要なんだな、と思った。

それってちょっとした想像力なんだよね。
それを忘れないようにしたい、と思った。

生き返った電気スタンドたち。
漸くホームレス状態から、政府の支給する家に住めた家族が、この電気スタンドの明るさで明るく生活できるなら嬉しいな、と思う。
(アメリカの家は、備えつきのランプなど無い家がほとんど。私も初めて引っ越した日の夜は暗かった・・)

「お母さん、今日は明るいね!」とか子供がお母さんに言うんだろう。
今日は学校の勉強も頑張ろうかな、とかきっと思うよね。
それが子供たちの明るい未来につながるはず。

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4 Comments

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アメリカと言えど、そんな感じなんですね… (松本孝行)
2009-11-05 12:56:47
 日本と比べ、寄付の文化が根付いているアメリカであっても、そんな状況なんですね~。新品を与えろとは言わないまでも、しっかりと使える状況で欲しいものです。
 ただ、そういう使えない寄付されたものをもう一度使えるようにする活動というのは、環境負荷低減にもつながりますし、非常にいい取り組みだと思います。日本でも増えるといいな~。
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NGO・NPOが多い (Lilac)
2009-11-05 22:20:08
>松本孝行さま

そうですねー。人の考えることはどこに行っても一緒なんだなあ、と思います。

こういうことを率先してやるNPOとかNGOが多いのは日本とは違うかなーという気はします。
政府支援が日本より少ないことの反動なのかもしれないので、どちらが良いとは言いにくいですが・・・
返信する
習慣の違い (freedom)
2009-11-07 05:29:10
>フルブライトで来てるような学生ですら知らなかった
フルブライトで来てるような学生だから知らなかったとも言えるかも
アメリカでは簡単な家の修繕は自分でやるのがあたり前で日本で言うところのリフォームも自分でやる人も多いし、作り付けの家具もパーツを買ってきて自分で作ったという人も多いですよね(おっしゃっているようにアメリカの家にはじめは家具はないですから)。だから一部の高額所得者を除いた大多数は自分でできるかもね。ましてホームレスなら比較的低所得であっただろうから自分でやるでしょうし、電気工事や配管工事、庭仕事が生業だったかも。
一方では電気にプラスとマイナスがあり、直流と交流があることを知らない人も多いからさてどちらが多数かな?

理系の処置との主張としては金具で圧着するかハンダ付けしてほしいところですね。絡み合わせるだけでは長時間電流を流し続ける電灯設備では接触部が電気抵抗で熱を持ち右ねじの法則による磁場により埃がよせられさらにビニールテープの静電気で埃が集まり発火なんてリスクが潜在するかなというのが理系の考えというのはいかがでしょうか。

単なるにぎやかしのお遊びのコメントでした。ご容赦ください。
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DIY大国と言われるけれど・・・ (Lilac)
2009-11-07 06:25:26
>freedomさま

>フルブライトで来てるような学生だから知らなかったとも言えるかも

まあそれはそうかも。
でも、普通のアメリカ人たちもこういう知識はもっと無い人が多いですよ。
これもこっちに住み始めてびっくりしたことのひとつですが、普通に住んでる人たちが、普通の問題を解決できない・・・
余りにこの国は便利になりすぎてるのかなーと思いました。

たまたま電気工事事業者なら出来るでしょうけど、アメリカじゃそういうスキルがある人は、なかなかホームレス状態までは行かないというか。

アメリカのワープアを紹介してる本にもありましたが、ワープア状態になってる人のほとんどが単純労働者で、スキルもない。
むしろ、こういう壊れた家具を与えられたとき、放り出してしまうような人たちが多いんじゃないかと。

>理系の処置との主張としては金具で圧着するかハンダ付け

ハンダがあったらやったかも。
ビニールテープも本当は危険なんですよね・・
ただ、絡めあわせは、縒り方を結構工夫しましたよ。
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