先週、ある授業に外部からの講演者が来た。
その授業に来る講演者は普段は面白いのだが、その日に来た人は最悪だった。
プレゼンが全く面白くない。
英語は完璧に分かるのに、全く耳に入ってこないのだ。
話し方は非常に良い。
英語はアクセントもなく、非常に分かりやすいし、話し方も洗練されている。
話す姿勢とか、ポーズの置き方とか、MBAで習うようなプレゼンスキルが駆使されている。
1時間も見ていると、彼女が学校では優等生だったのだろうな、と言うことが分かる。
それなのに、あれほどつまらないなんてことがあるのか。
MBAプレゼンスキルの意義を一瞬疑った。
あまりにつまらないので、聞くのをやめ、「何故この人のプレゼンがつまらないのか」を分析した。
周囲から見たら真面目にノートを取ってるようにしか見えなかったと思うが。
以下、私の気が付いたポイント。
正直、誰もが陥りやすい罠だと思うから、自戒も込めて。
1.スライドの字が小さすぎて読めない。当然興味も沸きようがない→スライドの文字は16ポイント以上で
ひとつ気が付いたのは、彼女のプレゼン資料がとても読みにくいことだ。
資料自体は、よく構成されている。
MBAで習うようなフレームワークなども使われていて、まとまっている。
しかしパワーポイントに使われてる文字が12ポイントくらいで、全く字が読めないのだ。
フレームワークは分かるが、中身が分からん。
一生懸命中身を理解しようと思っても、読めないんじゃどうしようもない。
配布資料ならともかく、スライドで投影する資料は16ポイント以上を使うべきだと私は思う。
聴衆の数にも拠るけど、40人もいるクラスだと、全く読めないもん。
世の中目の良い人ばかりではない。
読めなければ、当然興味のレベルも下がる。
どうしても小さい字を使う必要があるなら、配布資料を配るべきだと思う。
2.聴衆が何に興味を持ってるかに全く注意を払ってくれず、自分が話したいことを話してる→まずは聴衆が興味のある話題に振るべし
その授業はTech系の人が集まってる授業だった。
ところが、プレゼン者のバックグラウンドは農業系で、そもそも皆そんなに興味のない分野。
それなのに、彼女は、まるで農業に興味がある人向けに話すような感じで話し続ける。
こっちの興味と全くかぶらないから、全然面白くない。
これは私の持論だが、プレゼンをする人は、聴衆が一体何に興味がある、どんな人なのかということを最初に考えるべきだと思う。
それで、もし自分の話が聴衆にとって、興味がないトピックなら、まずは聴衆が興味のある共通の話題などに振って、興味を持たせ、徐々に自分の分野に話を引っ張っていくべきだ。
例えば農業でのR&DとTech系のR&Dの共通点を話したらよいかもしれない。
あるいは農業でのR&Dの問題点を具体的に話して、問題のありかが分かるようにしたら良いかもしれない。
または、聴衆に農業に対して持ってる印象を最初に直接聞いてみたら良いかもしれない。
そうすれば、聴衆は自分のことを聞かれているので、より興味を持つはずだ。
または、誰が聞いても面白いような話やジョークを話せばよいかもしれない。
そうすることで、ツカミが出来る。
3.聴衆の反応を見ていない。→聴衆をよく観察し、反応に応じて自分のプレゼンスタイルや内容を変えよう
クラスの他の人を見ると、隣の学生は寝てるし、本当に皆つまらなそうに聞いている。
問題は、プレゼンしてる彼女がそのことに全く気が付いてなさそうだ、ということだ。
よく見ると、彼女はみんなの顔を見回してるようで、全く見ていないのだ。
一人の顔に滞在する時間が0.5秒くらいしかない。
更に、自分の作ったプレゼン資料を見るべく、パソコン画面を注視してる。
これでは、みんなの反応には気が付きようがない。
要するに、プレゼンをすることだけに100%自分の注意が向けられてしまい、One wayのコミュニケーションになってしまってる。
これでは良いプレゼンが出来るわけがない。
プレゼン者は、まずは聴衆をよく観察することが大切だ。
もし理解されていなさそうなら、詳しい説明や具体例を出すことで、より理解してもらえるだろう。
または聴衆に質問を投げかけることで、より興味を深めることが出来るだろう。
あるべきプレゼンとは、聞く側が話す側と同じ問題意識を共有し、Two-wayで議論が進むことだと思う。
聴衆の反応に応じて、適宜自分の話し方や話す内容を変えられるよう、常に相手の気持ちになって考えるのが大切だと思う。
4.話が抽象的で、具体的な問題が何か分からない→抽象的な話はインサイトがあるときだけ。そうじゃないなら具体的に。
たとえ農業系の話に興味がなかったとしても、具体的に問題提起をしてくれれば、それなりに皆興味を持つはずだ。
ところが実際に彼女が話すのは、とても抽象的なレベルだけ。
抽象的でも、インサイトがある新しい話なら興味を持つが、それこそMBAで習うような当たり前のことを話してるだけなのだ。
例えば、R&Dの際「ゲートマネジメント」といって、ひとつのプロジェクトに対し、複数の意思決定ポイントを設ける考え方がある。
そうすることで、成長性のないプロジェクトに投資し続けたりすることを防ぐことが出来る。
ところが、そんなの、MBAでは耳にタコができるくらい聞いてるわけで、そんな話だけ聞いても面白くない。
聞きたいのは、農業でのR&Dで、実際のとこ具体的にゲートマネジメントがどのように遂行されてるか、その問題点は具体的に何か、と言うことなのだが、彼女はそういう具体的な話を全くしないのだ。
だから、彼女が抱えてる問題がナンなのか、何が特徴なのか、ということが全く分からず、「そんなの知ってるよ」という話をするだけに終わっている。
これでは、興味のもちようがないのである。
抽象的な話をするつもりなら、それだけで面白い、インサイトのある、新しい話をすべき。
そうでないなら、具体的な話を挿入すべき。
5.Q&Aでの質問の答えが「質問を封じ込める」のが目的の回答→聴衆の興味を喚起し深める建設的な応答をすべし
最後に一応Q&Aが行われたが、これがまた、とてもつまらなかった。
というのは、質問がどんなに良くても、彼女はその質問を終わらせるための答えしかしないのだ。
まるで質問を封じ込めることが目的の、株主総会での質疑応答みたいだ。
講演など、議論を深める場での理想的な質疑応答は、聴衆から新たな疑問点が沸いて議論になり、興味を更に深められるようなものだと思う。
それを、それ以上疑問が出て、会社のイメージを悪くするようなことにならないよう、封じ込める、という感じのことをやられると、もうつまらない。
講演者の器の大きさが問われると思う。
6.聴衆の立場から見て、このプレゼンをどれだけ面白いものにするか、と言うことを考えてない→考えろ
彼女は話を聞いていて、いいとこのMBAをでて、学校では優等生だったのだろうな、という人だった。
しかし、聴衆に対する興味や、熱意や、人としての器の大きさを全く感じないのだ。
上のQ&Aで見られるように、完全に守りに入ってしまっている。
これじゃどんなにプレゼンスキルがあったって、全く面白くないのだ。
精神論をやるつもりはないが、「プレゼンを面白くしよう」という意識が強いかどうか、
そのためには努力を惜しまず、自分の使った時間をSunk costだと思える器の大きさは重要だと思った。
よく映画や小説で
「プレゼン資料を用意してきたが、今日の皆さんを見て、使わないことにしました」
という人がいるが、あの心意気が非常に大切だと思う。
どんなに良い資料を作ってきたって、それが刺さらなければ意味がないのだ。
プレゼンをやる以上、100%聴衆が楽しみ、何かを得られるようによーく考えるべきだと思う。
以上、自分でも気をつけないと陥ってる罠かもしれないと思うので書いてみた。
エントリを理解するための「事例」として。
ん?それは皮肉を込めた冗談かな?
まあ、プレゼンした本人を特定するような内容は書けません。
プレゼン手法についての問題点は具体的に書いてあるので、そちらで想像を補ってくださいまし(笑)
ある時教授が、他人に説明する際に相手を子供と思ってプレゼンをしてみろと、おっしゃっていたことがあります。
意図は2、3、4に書かれていたことであったと推測します。
プレゼンはあくまでも聴衆との対話のツールであって、プレゼンの内容に拘っている自分としては本末転倒な考え方だなと思えてきました(笑)
そういったことを考えて、プレゼンする度に緊張していた自分からしてみると、緊張する理由なんて本当は無かったんだなと思えてきます。
>他人に説明する際に相手を子供と思ってプレゼンをしてみろ
工学・理学などのアカデミアにいる方は、普段専門的なことに入り込んでいるため、「誰にでも分かるはず」という思いで、ついプレゼンでも難しい言葉を使ってしまうのでしょう。
実際には、(他人の発表を考えれば分かりますが)自分で考えてることって誰にでも分かるわけではないんですよね。
だから、先生のおっしゃる「子供と思って」というのはその通りと思います。
>プレゼンはあくまでも聴衆との対話のツールであって
まさしくおっしゃる通りだと思います。
ただ、内容が良くなければ、どんなにプレゼンスタイルが良くても、ただのエンターテイメントとなって後に残りませんので、今までどおり内容にこだわるのは大切かと思います。
その上で、プレゼンスキルを磨くというのが重要ですよね。
非常にやる気がわいてくる記事が多くて,ためになっております
僕は日本の私立大学院生ですが,最近学生の(教授も)プレゼンの下手さについて同じように感じております
僕は勝手に,それは日本の教育のせいだと思っていたのですがw
つまり,相手の気持ちよりも,自分がどう思われてるか,ということを意識しすぎて,コミュニケーションであることを忘れる,ということが原因だと勝手に思ってました
また,これから就活を控える身として,なんとなく世界が求める学生像と,日本のアカデミックな教育で形成される学生が,全く真逆な気がしていて,なんとかならないものか,と勝手に思ってます
日本には,僕も含めてですが,議論の練習も,プレゼンも,何かを形にする経験もしてきてない学生がごろごろいます
まあそれが日本文化,といわれてしまったらおしまいですが何かできたらな,と思っています
思ってるだけで,僕も形にできてませんがw
私は,私の大学という小さい規模からでも,有志を集めて,日本にいる外国人の学生と共に,何か1つのことを議論し,アウトプットする機会が,これからビジネスに駆り出される日本人学生にとって必要ではないか,と勝手に感じてます
なんとなく,記事を読んでの推測ですが,MBAの授業は,クラス内で生徒同士が協力して,何かを進めていく,という形が多いのでしょうか?
もしそうなら,国境を越えて何かを形にする,っていう経験はとても有意義なものなんだろうな,と思います
お時間あるとき,MBAの授業の形式を大体でいいので記事にして頂けたらとてもうれしいです
これからもおもしろい記事楽しみにしています