ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

2023年 第1回目のオンラインみるみる鑑賞会です。

2023-07-02 15:16:48 | 対話型鑑賞

みるみるの会6月オンライン例会 対話型鑑賞会 2023.6.17(土)20:00

参加者:みるみるの会メンバー:3名

ファシリテーター:津室和彦

鑑賞作品:「〈11時02分〉NAGASAKI」 東松照明 ゼラチン・シルヴァーー・プリント 1961

出雲文化伝承館でのリアル鑑賞会に続いての,オンライン鑑賞会でした。

3名の鑑賞者という最小構成ではありましたが,それぞれに沢山の発言をしていただけました。ファシリテーターとしては,ディスクリプションを重ね,思考の階層をシフトアップしたいと考えて臨みましたが,機を逸したのが反省です。

  

  • 話し合いを深めるための,情報提供

今回一番の反省点は,撮影された場が「日本」だという情報を提供しなかったことです。振り返りでも指摘していただいたように,情報を示す事によって,対話が大きく変わった可能性があります。

3名の鑑賞者それぞれが,ギリシアやローマの古代遺跡のような場所という見解を示し,そこに基づいて話し合いが進み始めた辺りが,情報を提示するタイミングだったように思います。次項,鑑賞の流れとともに記します。

 

  • 鑑賞の流れ
    • 像についての発言

・石の神殿の跡に顔の彫像が7つ 横に翼みたいなものがあることから,女神ではないか

・石が並んでるところからお墓っぽい 意図して配置された墓か石碑か

・怖いという第一印象 影が多く黒い部分が目に入ってくる

・顔だけ不自然に上を向いている わざわざ上に向けられているのかもしれない

・人の顔を潰したり塞いだりというのには心情的に抵抗がある 人間の顔を下向きのままにし

ておくのは気の毒に感じたのでは

・向日葵が太陽を向くのと同じような生理的なものを感じる 太陽を向くベストポジション

  • 周りの様子について

・自然に倒れた遺構のような感じ 恣意的に破壊されたのではない 宗教が変わったり侵略者

が他民族を駆逐したりしたのならば,もっと徹底的に破壊されるから

 文化的に源流を同じくする民族だったら,顔の崩れや破壊はいたたまれない

・遺構全体には手が付けようもないが,せめて顔は上を向けてあげようというもの

・石積みの建物が,風化等で自然と崩れたのかもしれない

・地震かもしれない(ヨーロッパでは地震は少ない)

  • 像と周りの様子を合わせてみて

・草が生い茂っておらず,それほど荒れていない

・遺跡で何世紀も放置された感じではなく,やはり配置されている

  • 写真作品としての撮り手の意図,そしてそれを超えて訴えかけるもの

・わざわざ写真に撮って作品として残す意図は?と考えると,やはり頭像の並び方に規則性や

意図的なものなどを感じる 顔を放置できなかった人の行いや気持ちをこそ撮りたかったの

ではないか

・倒れたり壊れたりした雑然としたものの中に,(偶然であっても)上を向いたものがあるこ

とで,前向きな気持ちになる 先を見るとかそういう心情に感じるところがあったから撮っ

・モノクロでわざと撮っている 光と影のコントラストを際立たせるため色を排除している

・やっぱり光の方向をみたいと人は思うんじゃないか こんな風に壊れたり崩れたり打ち棄て

られたりしていても,顔は光の方向を向いていたいとか,向いているといいなという撮り手

の気持ちとか,顔を光の方に向けた人の優しさとかが,にじみ出ている作品

 

3 全体を通して 

3名の鑑賞者それぞれが,②③でギリシアやローマの古代遺跡のような場所という見解を示し,そこに基づいて話し合いが進み始めたところで,「皆さん,海外に見えていらっしゃるようですが,この場は日本です。だとすると,そのことから,どんなことが考えられますか。」と問うことで,話し合いが再び活性化したのではないかと考えられます。

振り返りで,この場が「日本」であることを情報として示すべきだったと反省を述べたところ,鑑賞者の3名から次々に以下のようなコメントを得ました。

○(情報を知ったら,)大きく流れが変わっただろう

○ヨーロッパの遺跡というような第一印象から離れられたかもしれない

○西洋風の人物像が日本にあることから,キリスト教に関係があるかもと発展的に考えられた

○日本でキリスト教が比較的信仰されている地域として,長崎などが発想に浮かぶ

○長崎で,倒壊しているキリスト教関連の施設となると,更に原爆の影響も考えられる

○キリスト教の歴史や原爆の惨禍,長崎の人たちの心情を踏まえると,複合的に深く考えられたのではないか

鑑賞者の皆さんに共通していたのは,光に向かって生きていきたいという根源的な欲求や,像であっても上向きにしたいという優しさのような,人間の普遍的な心の在りようを感じていただけたように思います。

鑑賞者自身の気持ちや性格も,反映されたような鑑賞になりました。

「はじめは怖いという印象だったけど,みなさんとの鑑賞を通して,みえかたが変わりました。」という発言は,嬉しいものでした。


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