ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

「山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展」のコラボイベント「対話型鑑賞のつどい」のレポート③(2017,7,8開催)です!

2017-07-23 21:33:04 | 対話型鑑賞

 浜田市世界こども美術館で7月9日まで開催されていた「山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展」で行われた鑑賞会のレポートが、会員の房野さんから届きました。


日時:2017.7.8(土)14:00~
場所:浜田世界子ども美術館  展示室
作品:山﨑修二作「竹迫の春」 1938年 F30 油彩  
ナビゲーター:房野   参加者:2名

 6月に続き、「山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展」(2017年6月3日~7月9日)から作品を選びました。浜田にゆかりのある山崎修二氏の作品は、これまでも何度かみるみるで鑑賞されてきました。そこで今回は、なるべく今までやったことのない作品の中から鑑賞作品を選ぼうと決め、展示室に一歩踏み込んだ最初の印象的な風景画に決めました。それは、近景に大きくアザミやキンポウゲなどの春の草花、その向こうに麦の穂が見え、遠景にはお堂のような建物と紅白の幟、藁葺き屋根の家がならんだ田園風景でした。季節感や地域の生活感が案じられて、対話が弾みそうだ、と直感したのでした。

 ナビをするからには「リッチな対話」をめざします。そのためには
①ナビゲーターの力量
②対話型鑑賞に向く作品
③鑑賞者の「みる目」や「語彙力」「表現力」 

などが融合することが必要だと思います。「①ナビの力量」を高めるために<みるみるの会>が結成され、日々研鑽しているわけですが、その際、ナビゲーションの上手下手に関わらず「②作品そのもの」に助けられることがよくあります。作品が対話型鑑賞に向く作品であれば、鑑賞者同士の対話がどんどん続いていき、自然に深まっていくということがあるのです。ですから、対話の良しあしを左右する作品選びはとても重要です。「①ナビの力量」には、短時間で「これだ!」という、「②の、よりリッチな対話のできる作品」を選定するスキルも含まれますので、私たちはナビをする時は必死で作品を選ぶのです。

 今回の参加者は、みるみる会員の春日さんと常連のNさん、お二人でした。作品をみる目もボキャブラリーも豊富な方々なので、「③鑑賞者のみる目や表現力」については安心です。あとは、作品とナビにかかっています。初見で選んだ作品をナビするときは作品選定のスキルも試されるので期待と不安で、毎回ドキドキですが、今回は予想通り、絶え間なく意見が交わされ、終盤、私の「作者のこの作品に込めた思いはどんなものでしょうか?」という問いに「春を描くことで、生命の息吹や、明るさ、祭りの賑わい、楽しさ」「山陰の冬の暗さから一変、春がきた、という喜び」「自然の生命の誕生と、お釈迦様の誕生を祝う花祭りが同時に描かれている」など、細やかにモチーフを読み取った上での解釈がなされたのでした。

 そんな中でこの作品では、なるほど!というおもしろい発見がありました。

 「麦の穂」「アザミなどの花」などから、「季節は春」と共通認識を持った後、描かれた「時刻」は?という話題になった時のこと。モチーフによって、光の当たり方、角度、色などが一定していない、ということがわかり、時刻が朝、昼、夕に特定できずにいました。その後、「制作年が1938年」という情報を示したところ、「昭和13年ということは、まだ、写真は一般的ではなく、きっと、この場で写生したはず。だから、写真のように一瞬を切り取ったのではなく、時間をかけて現場で制作したため、画家が描く時間によって、日の角度が低い朝方に描いたものもあれば、昼間のような表現もあり、山際の空のように夕方のような色になっているところもあるのでは。」という意見が出たのです。制作年という情報から、当時の社会情勢や絵画の歴史的な流れを根拠に、より深く作品を読み取っていく、という大人ならでは、美術に造詣が深い人ならでは、の鑑賞になったのでした。
 実際、今回は私があまりナビゲーションしなくても、作品と鑑賞者の力量に助けられ、楽しい鑑賞会となりました。先日、春日さんが東京で知人とお話しした際、「鑑賞者が成熟すると、ナビはいらない」ということが話題になった、と教えてくださいました。その通りです。感謝。

 反省点としては、
・今回のように鑑賞者が少ない場合は、ナビ自身も一人の鑑賞者として意見を述べてよいのではないか。
・今後、鑑賞に対して慣れの度合いが多様な参加者がいても、一緒に楽しめるようなナビの技術をつける。
ということがあげられました。毎回、鑑賞会後には反省会をしますが、それが一番の収穫になります。やりっぱなしではなく、反省会で意見を交わし、こうしてレポートを書くことでさらに意識化する。大切ですね。

 さて、8月のみるみるは「隠岐研修」です!
 また、例会以外に、「出雲文化伝承館」でも8月6日(日)、8月12日(土)、8月20日(日)、9月2日(土)、いずれも11時~みるみるメンバーによる鑑賞会があります。どうぞご参加ください!



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「山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展」のコラボイベント「対話型鑑賞のつどい」のレポート②です!(2017,6,10開催)

2017-07-02 23:07:00 | 対話型鑑賞

お待たせしました!
6月10日の「対話型鑑賞のつどい」での、第1作品目のレポートです。


6月10日(土)浜田市世界こども美術館  山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展にて
作品名:「冬日」(1938年 山﨑修二)
鑑賞者:5名(内みるみるメンバー2名)
ナビゲーター:金谷直美

<はじめに>
この作品を選んだ理由として
・「山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展」のコラボイベントとしての鑑賞会でしたので、まずは山﨑氏の作品から選びたいと思いました。
・題名には冬がついているのに、作品をみたときにあたたかな印象をもったことが不思議でした。また、作品の前側に描かれている野菜から何ともユーモラスな感じを受け楽しい気持ちになりました。対話を通して、この作品のことを皆さんと一緒に楽しく深く味わいたいと思い、この作品を選びました。

<鑑賞会から>
・野菜が植えてあるから、手前は畑。中央は稲が刈り取られた跡があるから、田んぼではないか。
・田んぼに氷が張っていて、そこに空が映り込んでいる。
・土の部分と空をみたら、土の部分が広いが、映り込んでいる空の部分も含めると、空の面積がかなり広くなる。作者は空の美しさも描きたかったのでは。
・空が青くて澄んでいるし、稲が刈り取られているところから、季節は冬では。
・雲が赤くみえるところから、夕方ではないか。
・瓦が赤く輝いているようにみえるところから、赤瓦といえばここ石見の地を描いた作品ではないか。
・右側の山は、茶色くそして線が入っている。自分の経験から段々畑ではないか。冬に草木が枯れて茶色い土の色になっている。左の山はそのままの山で青々としている。
・家並みをよくみると、煙突があって煙が出ている。時代は今よりも古いのでは。人の営みがうかがえる。

<鑑賞会をふりかえって>
・ナビゲーターとしての基本の役割、特に話をよく聴き、鑑賞者の発言の中の一番大切な所をとらえてコンパクトにかえすことを意識しました。
・みる場所や話題が散逸になる、ということが今までの自分のナビゲーターとしての課題の一つでもあったので、「次は上の部分をみていきましょう」とみる場所を焦点化するような言葉掛けを意識的に入れました。
・「冬だけどあたたかい感じ」「動と静」「橙色と青緑」など、感覚的なものや色彩においても、対照的な要素が豊かに詰まった作品でした。

<みるみるの会メンバーから>
・ナビには、多様な見方や意見を引き出すような言葉がけが必要。1つの見方で終わらずに、最低でも2~3の意見が出るように「もっと他の見方はないですか?」等、揺さぶりをかけることも大切。
・複数の可能性が出ることで、鑑賞者はよりよくみる。よりよくみて考え、対話することで、納得しながら意見が集約されていくのではないか。
・作品下部に描かれた野菜などの話の後、「上の部分」へ焦点を移すようナビゲートしたが、それは不必要だったのではないか。もう少し、じっくりと野菜や中央部の田んぼの部分をよくみることができるよう、話題提供をしたらどうか。冬ということは共有できていたが「何月くらいですか?」などときくことで、より豊かな冬のとらえができたのではないか。じっくりその部分をみて話して納得できれば、鑑賞者の側からみる場所を変えていくのでは。
・はじめて参加された方も、ご自身の経験を交えながら楽しそうに話され、最後まで一緒に鑑賞してくださった。鑑賞を楽しんでいただくことはできたのではないか。

<おわりに>
 ナビをするたびに、「きくこと(聴・訊・効…)」の難しさと自分の「浅さ」を痛感します。もう少し、具体的にきくことができれば、鑑賞会をもっとリッチで楽しい時間にすることができたのにと、反省しきりです。こころのポケットに小さなシャベルを入れて、鑑賞者の方の意見を、そして作品を深く掘っていけるように、日頃から精進していきます。
 鑑賞会に参加してくださったみなさま、ありがとうございました。


7月の鑑賞会は、8日(土)14:00~浜田市世界こども美術館にて
企画展「山﨑修二と山﨑に学んだ女流画家展」の作品を鑑賞しますよ!
本物の作品には、やはり力があります!みるみるメンバーといっしょに、リッチな時間を楽しみましょう!
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