講談社文庫
2010年5月 第1刷発行
2012年1月 第13刷発行
解説・小中和哉
420頁
「グレイヴディッガー」のような骨太な作品を期待していましたが、表題作を初めかなりライトなのは残念でした
そもそも、ドラマ化を念頭に置いて書かれたものらしいので仕方ありません
全編に登場するのは大学院で心理学を学ぶ山葉圭史という青年
彼は周囲の人間の未来が見えるという特殊な能力を持っています
「6時間後に君は死ぬ」
原田美緒は友人との待ち合わせ場所に向かう途中、突然若い男・山葉圭史から声をかけられる
ナンパかと思ったのだが、彼は「6時間後に君は死ぬ」と不気味な言葉を告げるのだった
6時間後、日付が変われば誕生日を迎える美緒
その頃、若い女性が誕生日に殺される事件が何件か発生しており、どうやら美緒の過去に何か関係があるらしい
美緒と圭史は、6時間後の未来を変えるため夜の街を走り回ります
やさしめのタイムリミットジェットコースターでした
「時の魔法使い」
2002年、プロットライターとして生活費を稼いでいる朝岡未来(みく)
収入は不安定で将来の希望も見えない
今はもうない実家のあった町に足を向けた未来が出会ったのは、ミクという名の9歳の女の子
まるで子供の頃の自分を見ているほど瓜二つなのだ
未来とミクが同一人物でミクが20年後の未来にやってきた、ということは容易に想像できます
未来とミクが一緒に過ごした数日、ミクは自分がとても優しい大人になっていることを知り、未来はまだ何も知らない純粋な子供だった自分を思い出します
ここでは圭史はミクが過去に戻る前に、2002年の記憶を催眠術で消す大学院生として登場します
後催眠暗示をかけて、ミクをある行動をとるように仕向けることができる、と聞いた未来は眠りに入ったミクに語りかけます
「苦しい時や悲しい時には、自分の名前を思い出すのよ-未来(みく)、未来、希望にあふれた未来」
ミクが去った翌朝、未来は子供の頃からの魔法の言葉を自分に言い聞かせます
-未来、未来、希望にあふれた未来
ちょっと切ないけれど温かい気持ちになれました
「恋をしてはいけない日」
中学生の時から続いていた彼氏いる歴6年の記録が途絶えた女子大生の未亜
友達に紹介してもらった占い師に言われたのは「今度の水曜日、気を付けて、その日だけは恋をしてはいけない」
ここでの圭史は本人の意図と関係なく周囲から占い師に仕立て上げられている青年
未亜の未来が見えていて当たり障りの無いように告げた言葉ですが、それを軽く受け取った未亜はその水曜日に外出し、恋をし、とても悲しい思いをすることになります
オカルトっぽくて面白かったです
「ドールハウスのダンサー」
プロダンサーを目指しオーディションを受け続けているけれど、なかなか合格までたどり着けない香坂美帆
オーディション会場で踊っている時や道を歩いていると、時々デジャ・ビュの感触に襲われるのだが、はっきりとしない
ダンサーの夢を諦めた美帆が向かったのは「ドールハウス・ミュージアム」
その日、その時間、美帆がそこを訪ねることはずっと前から決まっていることで、そこに置かれていた八つのドールハウスには美帆の人生が描かれていた
過去も未来も
ドールハウス作家の孫が圭史で、死線を彷徨うような大病を患った後、人の未来が見えるようになった、という説明があります
「3時間後に僕は死ぬ」
最初の話に登場した原田美緒が圭史と再会しますが、なんと圭史は「3時間後に僕は死ぬ」と告げます
なんとか圭史を救いたいと必死になる美緒
二人にはどんな未来が待っているのでしょう
「エピローグ 未来の日記帳」
古道具屋さんで見つけた日記帳
そこに書かれていたこととは、自分の今日あったことだった
ということは次の頁には明日のことが書かれているのか?
自分の未来を作るのは自分
明日はいい日だと信じて進んで行くしかない
全編に流れるメッセージに、ふっと肩の力が抜けるような、高野さんの優しさが感じられました
主人公の女性の名前がすべて『み』で始まるのは何か意味があるのかしら
気になって仕方がありませんでした
←何やってるんだ、こいつ…あっ雨降ってきた…じゃまた
美術館でリフレッシュ出来ましたか?
10月の終わり、九段下あたりに行く予定で国立近代美術館に寄ろうかな、なんて目論見中です。
東京は小規模~大規模まで様々な催しがあって羨ましいです。