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大江健三郎「個人的な体験」

2013年11月22日 | あ行の作家

 

新潮文庫
1981年2月 発行
2013年2月 35刷改版
322頁

 

 

鳥(バード)という渾名で呼ばれている男・27歳
義父のつてで就いている予備校講師の職だが、さほど熱意をもって生徒たちを指導しているのでもない
妻との間に生まれた初めての子供には「脳ヘルニア」という病気があった
頭部に異常をもって生まれてきた我が子を見てショックを受ける

長男・光さんの誕生に触発されて創作された作品ではありますが、私小説ではありません
念のため

 

 

赤ん坊は、数日で亡くなるか、今後生きたとしても植物人間のようなものかもしれない、本病院では対処できない為転院させてはどうかという医師の勧めを一度は断るバード
植物人間という重荷を背負って生きる自分の将来に対する恐怖から『死んでしまったほうが…』と考えたのです
自宅で、赤ん坊の為に用意したベビーベッドを見ながら一人過ごすことに耐えられないバード
大学時代から付き合いのある女性の部屋に転がり込み背徳と絶望の数日を送る
その後、義母の強い希望もあり転院に応じるのですが
ミルクではなく薄い砂糖水でも飲ませておけば数日で死んでしまうのだが…と考える
病院から赤ん坊の死を告げる電話を待ち続ける狂気
転院の数日後、医師からの呼び出しに病院へ出かけ、「手術をすれば助かるかもしれない」との言葉に愕然とする
手術を拒否し退院させた赤ん坊を、闇で中絶手術をしたり嬰児の処分をするという病院へ運ぶ

 

暗澹たる地獄めぐりの果てに、運命を引き受けるに至った青年の魂の遍歴を描破
人のアイデンティティ、倫理観、医療等々、様々なことを深く訴えかけてくるものがある作品ではないかと思います

 

苦渋にみちた経験に根ざすこの青春小説を書いたことが大江さんに根本的な浄化作用をもたらしたのだそうです

 

硬質で難解な文章表現が続く大江作品は一般向け娯楽作品とは大きく隔たっており決して読みやすくありませんが、読みなれてくるとスルリと心に染み入ってくるものがあります

時に、このような作品を読んでみるのも必要だと思いました

 

 

 

 

 


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