新潮選書
2008年8月 発行
解説・富岡多惠子
底本 新潮社 1991年刊行
性が入れ替わったまま成長する男女を描いた、異色の王朝文学『とりかえばや物語』
かつて「淫猥」と評されたこともあった物語には、「性の境界」をめぐる深いテーマが隠されていた
男らしさと女らしさ、自我とエロス、性変換と両性具有
深層心理学の立場から、ジェンダーと性愛の謎を解き明かすスリリングな評論
わが国の中世に生まれた『とりかへばや物語』は全世界の中でも稀有な物語である
主人公となる男の子(弟)と女の子(姉)が、それぞれ性を逆転させて女と男として育てられる
そして成人したときには、男の子は女官として東宮(女性)に仕える身となるし、女の子は立派な男として結婚までする
性の逆転は天狗の仕業で起こったことで、その力が失せた後、男の子は立派な男として出世し、女の子は天皇の母として、元来の性に戻る、というお話
世の中の性は男と女に分けられているが、それだけでは満足できない人間はさらに「男らしさ」「女らしさ」という二分法がないと社会の秩序が保てないと思ってきた
現実は、そう単純なものではなく男の中にも女らしさがあり、女の中にも男らしさがある
さらに深層心理を探れば男も女も両性具有的な域を持っているのだということらしいです
日本の『とりかへばや物語』のほか、海外の「男女取り替え」の物語を題材に展開される男と女の問題についての提議と示唆
ユング心理学の大家だけのことはある奥深い一冊でした
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