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沢村凜「ディーセント・ワーク・ガーディアン」

2012年04月04日 | さ行の作家

 

双葉社
2012年1月 第1刷発行
364頁


The decent work guardian
適正な労働の保護者
 労働者が普通に働いて普通に暮らせるよう必死で保護する人

連作短編集です
主人公は労働基準監督官の三村
妻と息子は妻の仕事の関係で東京暮らし、三村はマイホームのある黒鹿市でひとり暮らしをしていますが、毎週末には妻がやってきて掃除や数日分の食事の用意をしていってくれるのでさほど不自由はない模様

「転落の背景」
建築足場の三階部分から作業員の男性が転落死
事故か自殺か他殺か
その時、他の作業員や監督者は何をしていたのか
黒鹿南警察署の刑事課に勤務する友人の清田との情報交換で男性の死の背景が浮かび上がる
「人は仕事で死んではいけない、誰だって働いているのは生きるためだ、だから仕事で死んではいけないんだ」


「妻からの電話」
夫の帰りが毎晩遅いし、かなり疲れている様子で過労死が心配だという相談が妻から寄せられる
夫の勤務先へは、わずか三週間前に臨検監督に赴いたばかりで違反はみつからなかった
ただ、社内に漂う雰囲気が妙に疲れている気がしたのだった
それが気になった三村は時間外に自己判断でその会社を観察することにする
結末は意外、というか相談を寄せた妻の本音がわかってガッカリでした
サイテーの妻です
もっと、働く夫を大事にすべきです

「友の頼み事」
友人・清田の頼み事はコンビニ強盗犯として目星をつけている食品工場の派遣従業員のアリバイを崩して欲しいというもの
臨検監督に出かけた三村が感じたこと、見たことから推理を働かせ清田にアドバイスしたことから強盗犯のアリバイは崩され逮捕、さらに食品工場の悪質な労災隠しが表面化する
派遣会社も契約を打ち切られては困るので労災隠しに加担していました

「部下の迷い」
部下の加茂の様子がおかしい
ひとりで出かけた商店街の惣菜屋の臨検監督以降、元気が無い様子
三村の手助けで問題は解決しますが、若い監督官が惣菜屋の女性店主に上手くまるめこまれた、というほろ苦い話です
何事も経験です
今のデフレ時代を扱った話で、消費者が安いものを求め過ぎることが結局は自分の首を絞めていることに気づいて欲しい、というメッセージが込められています

「フェールセーフの穴」
工場内で首を絞められた男性が発見される
殺人事件で調べが進んでいたのだが工場の産業用ロボットの下で死亡していたことから三村の出番となる
工場内の安全を高めるため(危険を避けるため)の様々な仕組みと、そこに必ずある落とし穴
ここでも三村の推理が犯人を自白に追い込みます

「明日への光景」
これまでの比較的穏やかな、最後は「解決」に向かう前向きな話とはやや趣向が違いました
ひとつは、妻からつきつけられた離婚話
長く離れて暮らしている間、気づかないうちに妻の内部に起きていた変化
三村の鈍感さには、ちょっとちょっと、と言いたくなりました
もうひとつは、中央から突然降って湧いたようにやってきた分限審議会の話
三村の、罷免に値するような行為に対し審議会が開かれるという
厚生労働大臣のパフォーマンスに利用されているだけのようだが、裏で誰かが糸を引いているらしい
誰かが三村を陥れようとしているのは明らかだが、捏造された証拠映像は誰が見ても三村に不利
八方塞の三村に打開策はあるのか


ジャンル分けすればミステリーですが、非常にソフトなので、本格ミステリーがお好きな方には物足りないでしょう

三村(沢村さん)の『働くひと』への切なる思いが伝わってくるお話でした

人生は、仕事を中心に成り立っている
人は、仕事により、生活のための収入を得る
そのうえ仕事は、生き甲斐やアイデンティティも与えてくれる
仕事には、苦労もあるが、だからこそ、達成感が味わえる
仕事とは、他人に何らかの価値提供をすることだから、誰かの役に立っているという喜びがそこにはある
人は仕事により成長し、仕事に拘束されたあとだから、余暇時間や引退生活では自由を満喫できるのだ
家事もまた仕事だ
そんな人たちの働きもあって世の中は回っている
仕事は世界を回している
ただし、それは仕事が本来の姿(ディーセント)である場合だ
現実には、達成感につながらない無用な苦労ばかり強いられる職場がある
生活を支えるだけの収入が得られない仕事をしている人たちがいる
それらは仕事のあってはならない姿だ
適切(ディーセント)な仕事が人生を成り立たせ、豊かにし、世界を回しているとしたら、そうした仕事は人間を損ない、社会に不幸をばらまいて、その機能を蝕んでいく
仕事はすべての土台だから
仕事がディーセントであっても、それだけで幸福は保障されない
災害や災難は、人や時を選ばずにやってくる
私生活の悩みも、いつどんなふうに起こるかわからない
それでも、土台があれば、きっと人生は立て直せる

 

 


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