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『東京カウガール』

2017-06-12 12:00:00 | 本の話・読書感想





『東京カウガール』 小路幸也 著(PHP研究所)
 今年も快調に飛ばしてらっしゃいます月刊小路先生。最新刊最新刊w小路ファンにはウホウホです♪
 さて、小路作品でタイトルに「東京」と付くのは何作目になるでしょうか(苦笑)。でもそれぞれに違う東京なんです。世界やキャラクタのリンクはしてない。いつも新鮮な東京の一角の物語です。
 

わたしはまったく連載を追いかけていなかったので、この新刊、単行本を見たとき、結構分厚いな?と思いました。
ぱらぱらしてみると、章立てもなく、少しずつ緊張感の高まる脇目もふらない長編です。
でも面白いからぐいぐい読めました。

主人公・英志くん。
カメラマンとしての資質に溢れているからか、観察眼に優れていてるからカメラマンが天職なのか、卵が先か鶏が先かみたいな感じですが、ともかく彼の目から見た周りの人達はもちろん、知らない人の立ち居振る舞いまで鋭敏に感じ取る一種の才能があって。
相手との距離感を決して見誤らないのって、そりゃ好かれるよね。

で、〈カウガール〉こと、奈子ちゃんですが。
強いお姫様ですねえ(笑)
この本の帯にある、「きみを知りたい/きみは知らない」っていうのは英志くんから奈子ちゃんに捧げた言葉で。
彼女は確かに闘ってるんですが、彼女の知らないところで彼女を守るためにナイト(騎士)達が文字通り命を懸けて頑張るわけですよ。彼女が事の全貌を知るのは、危険がぜんぶ去ってから。これをお姫様と言わずに何と言うw

奈子ちゃんが如何に危険なポジションにいるか、ということを、英志くんと読者は繁叔父さんの言葉ではっきりと認識するんですけど、……繁叔父さん何者(苦笑)

他にも屈強な男たちがわさわさ登場するので、かえって100%草食系の英志くんの存在が際立ちます。英志くんまでマッチョだったら読んでて息苦しくなってたと思う……。
正義感が強くてファイターな女性と、頭脳系というか引いて俯瞰で立ち回る理性的な男性の、しっかりラブストーリーでした。

『東京バンドワゴン』シリーズをはじめ、小路作品は「家族」や「友達」の物語が多いですが、この新作は今までとちょっと雰囲気違いますよね。「家族」のことなんですけど、境界線がちょっと溶けてる。
だから、英志くんにとってはお父さんと繁叔父さんだけじゃなく、協力してくれる人や年齢関係なく自分と対等に話をしてくれる人も、ある意味身内の感覚なのではないかと。
一方で、早くに亡くなったお母さんの面影は薄く。英志くんは常に前を向いて、今現在を自覚的に生きてます。母がいないことで、過去にいろいろ大変な目に遭ったことで、自分を哀れんだりしない。

自分を哀れんで、自己愛に過敏になりがちな最近の日本人。
でも、そんな暇があったら自分をもっと鍛えろと、小路作品の大人たちは言います。
未来を思うことに、幸せを願うことに、心の強靭さが無いとそれらは叶えられないと。
自立して、自覚して、自分の脚で立つための体力。それを支える精神力。

別に必ずしも筋肉に頼る必要はなく、ただ考えることを放棄しなければ、心が鍛えられるからと。
諦めるもんかと考え抜くこと、踏ん張ることに、フニャフニャの心では役に立たないと。

小路作品を読んでいて気持ちが良いのは、そうして考え抜く人達のすらりとした美しい佇まいや強さを見るからです。
誰だって美しいものが大好きなんですから。

眼と耳を塞いで、何も見なかった聞かなかった知らなかったことにして、気楽に生きていくことが悪いわけじゃないし、わたしなんかその典型的な生き方してますよ。
で、自立してる人や思慮深く強い人に、強烈な憧れを抱きます。
自分にはできないと思ってるから。

でもたぶん、わたしも、やろうと思えばできるんでしょう。
ただ勇気が無くてやらないだけで。
家のこととか年齢とかを理由にして自分にはできないと、やる前に自分に制限をかけて諦めていなければ。

やる前から諦めてしまわない、できないことを自分以外の何かのせいにしない、小路作品に登場する人達はみんなそういう心の強い人。
今作のカウボーイならぬカウガールは、本質的に強い人なんですがたおやかな女性としての魅力もあります。ほとんどの男性が惚れそうな女性。
でも、同性として嫉妬は感じませんでした。
小路作品の読みやすさの理由のひとつですよね。


岡島さんと繁叔父さんとフクさんでスピンオフをお願いしたいんですがどうでしょう(どうでしょうってアンタ)

描かれる事件は現実にどこかで起きてるかもしれないもので、悲しくやりきれない毎日を、強く正しい人達が闇で懲らしめる仕事人っぽい流れですが、そこに小路さんの光を差してカラリと爽やかに。
もう若くはないわたしですが、つよく正しくありたいと、心を奮い立たせる物語でした。




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