おぉきに。

気が向いたら読書感想を書き、ねこに癒され、ありがとうと言える日々を過ごしたい。

『隠れの子 東京バンドワゴン零』

2021-08-05 15:27:12 | 本の話・読書感想

 

『隠れの子 東京バンドワゴン零』小路幸也 著(集英社文庫)

連載が始まった当初、TwitterとFacebookでの私的ファンクラブ@tbwfcの管理人一号さんが大興奮していらして、堀田家がどうとか、えええ何ですかそれは!って、最近連載追いかけられる持続力が無いわたしは新刊発売をそりゃあ楽しみにしておりましたよね。
東京バンドワゴンシリーズの、堀田家の、ご先祖様。ルーツ。の物語。なんと江戸時代。スマホもタブレットも堀田家の蔵にあるお宝のIT化もさらさらと出てくる東京バンドワゴン、シリーズのスピンオフは小路先生初の時代小説です。大変がっつりど真ん中の時代小説でびっくりしました。

 

東京バンドワゴンシリーズは我南人さんの「LOVEだねぇ」が合言葉の、厳しくも優しい堀田家の物語。賑やかな朝食のシーンはファンにとってなくてはならないくらいの楽しみ。

それともう一つ、霊体となって堀田家にとどまっているサチさんと、勘が鋭い紺さんのラストの語らいがお約束ですね。最近は「視える」研人くんと、「視える聞こえる」かんなちゃんが積極的にサチさんとコミュニケーションを取って事態を進めていくこともあったり。

堀田家には、紺さん以前にもこういう能力者と呼ぶ人がぽつぽつ居たんだろうなあとは思ってました。

そのルーツが、「隠れ」ということなんですね。

紺さん研人くんかんなちゃんは、サイキックの種類でいえばえーと何だチャネリングかな?(スピ系のチャネリングはおそらく高次元の存在と繋がる云々だったと思うので、守護霊様というのともちょっと違うようなサチさんと繋がるのはチャネラーというか普通に家族との会話なような気もするけど)

この『零』では、堀田州次郎さんは五感、るうちゃんは……これはどういう風にカテゴライズすればいいのか分からないですがともかく「隠れ」の仲間の中でもるうちゃんただ一人しかいない能力。亡くなった家族と話せるというのとは若干隔たってるようにも思うんですが、たぶん「隠れ」の血はあらゆる可能性を秘めてるんじゃないかなと。ラストでの敵方との対峙のシーンでも、血は繋がってるのに能力は違ってましたしね。

で、東京バンドワゴンシリーズ本編を思うと、ご先祖様達はものすごく生きづらかったんだなあ。いや、州次郎さんは無自覚にほいほい話してたので生きづらさというより自分の能力を隠すものだったという認識が無かったけど、「ひなたの隠れ」という眩しい存在感は今後決してプラスになるばかりじゃないと思うし。

勘一さんや我南人さんたち現代の堀田家は、出会った人達をみなありのままで受け入れてくれる。やせ我慢をしてでも胸を張って、真っ当に堂々と生きていけと諭してくれる。太陽のような、山のような、海のような、そんな人達です。

でも江戸時代、るうちゃんは「隠れ」の能力が必要とされれば出向くものの普段は〈神楽屋〉という家で普通の人の中で能力を隠して平穏に生きる術を学んでいるし、佐吉さんも他の隠れの人達も自分の能力をあけっぴろげにはしていない。ただ迫害されないように、静かに生きていこうとする。ありのままの姿を、他人に見せないようにして生きている。闇に飲み込まれる恐怖と戦いながら。

るうちゃんの家であり、隠れ達の共同体としての「家」である〈神楽屋〉の闇の部分を思うと、現代の堀田家に至るまでの間に、州次郎さんに始まりその後も続く人々の人生がどれほど闇が深く切実だったのか、まさしく命がけで獲得したのが今の太陽のような堀田家なんだなとしみじみ思いました。勘一さんや我南人さん達を州次郎さんとるうちゃんが見たらどれほど嬉しく思ったことだろうかと。

紺さん研人くんかんなちゃんの能力を、勘一さんや我南人さんや藍子さん亜美さん青ちゃんすずみちゃんが知っても特に隔たりはできないと思えますね。いつか知られる日が来るのかな。

 

巻末に文芸評論家の大矢さんがすっきりと気持ちよく楽しい解説を書いておられるのでわたしごときがうだうだ読みどころやキモを感想に書くまでもないんですが…。

初めての時代小説とは思えない、見事な殺陣の描写とか。同心の心情とか。唸りましたよ本当に。

殺気と、血飛沫と、命の飛び散り方。

善と悪の真ん中の、社会を上手く動かす為のお上の知恵と、商人の知恵比べ。

お金と命の天秤の荒々しさ。

戦国時代が終わり平和な江戸時代が長く続いたとはいえ、現代の平和とは命の意味が違う暮らしは知恵のある強かな者が生き残る。そんな時代の中で、隠れ達の密かな闘い、お上にまで食い込んでいる闇の色の魂の持ち主といずれ対決するであろう州次郎さんとるうちゃん、佐吉さん達。

仇敵にも心があったし、情をかけて取り計らおうとする同心2人の心根の深さ。

江戸時代の人々と社会と犯罪に、異能力者のバトルを組み込ませて違和感がないのが凄いです。むしろ、こういう人達が居ただろうしこういう犯罪もあったかもしれないとまで思ってしまう。でも現代的なエッセンスは無くて本当に徳川の世の市井の人々の時代劇を見ているようで。

必殺シリーズをこよなく愛しておられる小路先生の、その愛の深さを読んだような気がします。というか、必殺シリーズって極端な話、殺しの能力者達の物語ですしね。

うん、時代小説、堪能させていただきました。

東京バンドワゴン零シリーズ、楽しみが増えて本当に嬉しいです!

本編の現代堀田家のシリーズ同様に、これからも楽しみにしています。



コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。