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その1より))
正直フェスとしてはいろいろと至ってない部分もあったとは思うんです。
観客数に対して会場が狭すぎたところとか、それに伴ってフードエリア
の椅子やテーブルの数だって圧倒的に足りなかったし。
そのわりに観客エリア後方部分まで人が密集してたから、後ろの方で
シート敷いてのんびり…という見方を期待したお客さんにとっては、もの
すごく窮屈だっただろうし。
中ほどのエリアにシートを敷いたり椅子を持ち込んだお客さんにも再三
注意を呼びかけてたけど、結局最後まで聞かないお客さんもいたし。
観客エリアに置くスタッフの数が、圧倒的に足りてなかったように見えた
んですよ。
あとユニコーンの中継の失敗とかもあったし。
だけど、もう、そんなことはどうでもいいんです。
気にならなかったわけじゃないけど、気にして批判するようなことでも
なかったというか、それをカバーして余りあるほどの内容だったと思うので。
今回わたしは県外の友人と参加したんですが、その友人は来る前にちょっと
心配してたんです。
「福島県の人達が盛り上がって頑張ろうっていうイベントに、よそ者の自分が
参加してもいいものか」って。
でもわたしは、このイベントは県外の人が多く訪れることにこそ意味がある
と思っていたし、何よりも同じように音楽が好きで、また福島に来たいと
言ってくれていたこの友人と参加したかったのです。
単純に好きな音楽が似てるから、純粋に音楽フェスとしても楽しみだし、
そんな大げさなものでもないけど、震災以降の思いというのも少なからず
あったわけだし。
地震や津波で大切な人の命を失ったり、帰る故郷を失ったり、いろいろな
人がいて、いろいろなことがあって。
悲しみに大小はないし、1番とか2番とか順番つけたって意味は無いけど、
誰かの命やふるさとを失わなかった人だって、自分が暮らす日常とか
大好きな風景とか、そういうものを以前と同じようには見ることができなく
なっていて、他県の人に自慢できていた福島県を、胸を張って自慢できなく
なっていて。
そういう悲しみはきっと県民の大多数が抱えていて、だけど日常は続いて
生活していて、それがこの瞬間にあふれたような気がしたのです。
あの場に家族や家を失った人もいたのかもしれない。けど、ほんの小さな
日常を失った人も、たくさんいたと思うのです。
それがあの大合唱になったのだろうし、涙になったのだろうと思うんですよ。
イベントの様子はネットで全世界に配信されていて、その会場の様子を
いろいろ言う人はいるでしょう。
でも、今日の相馬会場で怒髪天増子さんが言っていたように、まさに「福島
に来もしないくせにえらそうなことを言うな」ということです。
来る自由も来ない自由もある。
だけど、来なきゃわからないこととか、来なきゃ言えないことだってある。
今回福島県に来た人の中にも、いろいろな思いがあって当然ですよ。
ただ単純に見たいミュージシャンがいたから来た人、音楽はよくわからない
けどお祭りだから来た人、行きたいけど仕事とか距離とか、事情があって
いけなかった人、そして箭内さんをはじめとするこのイベントの中心人物
の意図に賛同した人、いろいろいるでしょうね。
だけど、共通したのは、あのステージを見たこと。音を、声を聞いたこと。
別に何でもいいと思うんです。
8月に福島市で坂本龍一などが出演したイベントがあったけど、あれに共感
していろいろ考える人もいるだろうし、映画でも本でもアートでもアイドル
でも、何でもいいんですよ。
たまたまわたしが共感したのが、箭内道彦という人の考え方だったという
だけで。
高みの見物ではなく、実際に何度と無く現地を訪れて、仰々しいことでは
なくて、自分自身が楽しめるイベントを。
避難者に炊き出しをしたりする姿も見てるし、そういう現場に立った
嘘でないこの人の本質。
箭内さんが一生をかけて福島を見つめていく、応援していくというならば、
今回のイベントでとてつもない濃い経験をさせてもらった立場としては、
その行動を一生かけて応援させていただこうと思う次第なわけです。
純粋に音楽フェスとしても魅力だったし、それが福島が立ち直るための力に
少しでもなるっていうなら、こんな素敵なことは無い。そんな感じで。
奥会津でも、鶴ヶ城でも、志田浜でも、磐梯熱海でも、相馬でも、いわき
でも、こんなに小さな地域に、こんなにたくさんの人がひとつの目的の為に
集まったことって無いと思うし、まだ明日の最終日を残してはいるものの、
大成功以外に言いようがないと思う。
昨日も今日も、箭内さんをはじめとする福島県出身の出演者が涙ぐむ姿を、
その場で見ていたわたしはたぶん一生忘れないと思う。
そして、手段は音楽であったけれども、それを共通項に持っていない
お客さんにもちゃんと届いてたと思う。
猪苗代湖ズの登場前SEで福島県民の歌を流したり、そういう層のお客さん
だって理解して、共感して、信じたと思う。
福島県出身でよかったって、本当にそう思った。
発起人である箭内さんら猪苗代湖ズのメンバー、主演してくれた方々、炎天下
の中準備をしてくれたスタッフの方々、協賛企業の方々、県外から来てくれた
お客さん、そして県民のお客さん。
わたしなんか別にそういうことを言える立場なわけじゃないんだけど、とにかく
このイベントに関わって作り上げてくれた全ての人に「ありがとう」という
気分です。それしか言えない。
いろいろな言葉として昔から使い古された表現だけど、自分の中で実感して
消化して納得できたのは初めて。
明日から何かが始まるって、別に大きな変化はないかもしれない。
だけど、たぶん、昨日とは違うよな。本当にそう思う。