まてぃの徒然映画+雑記

中華系アジア映画が好きで、映画の感想メインです。
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九月に降る風 九降風

2009-09-11 00:00:00 | 台湾映画(あ~な行)
また一つ、素晴らしい青春映画が台湾から届けられた。

いつも教官室に呼び出される7人組。一緒にプロ野球の応援に行ったり、真夜中のプールに忍びこんで真っ裸で泳いだり、学校をさぼって近くの大きな木の下でたわいもない話をしたり、野球と煙草とバイクと女に興味津々な高校生活を謳歌していた。

ずっと変わらないと思っていたあの日々。しかし、ほんの些細なことがきっかけで7人組の関係が壊れていく。そんなことになるなんて、一年前は思いもしなかった。

背景となった1996年は、台湾プロ野球の八百長事件が発覚して台湾中が揺れにゆれた時期に重なる。信じていたものが裏切られたこの事件は、その意味合いが映画のストーリーに重ねあわされているかのよう。この映画の登場人物たちも、信じていたものが脆くはかないものだったとほろ苦く思い知らされる。

プレイボーイの彦(イェン)の軽々しい行動は、恋人の芸(ユン)には許しがたいものだった。彼女は別れの手紙を書くが、それを彦が読むことはない。湯(タン)にとって、グループのリーダー格だった彦とその恋人芸は秘かな憧れであり、芸に数学を教えているときについ意識してしまう。彦の浮気をめぐるいざこざが原因でグループから距離をおくようになる湯だが、教室の中で昼食を食べるときに居場所がないことに気づく。そしていつもの屋上へ向かったが入り口には鍵がかかっていて、外からは仲間たちの愉快そうな声。戻ろうとしたときに戻れなかった湯の気持ちはどれほど寂しく悲しい、あるいは悔しいものだろう。

そしていつでも燦然と太陽のように輝いていた彦が、湯のバイクに二人乗りしていたときの転倒が原因で意識不明の重体で入院し、いつもつるんでいたグループも自然とバラバラになる。全校集会のときに湯が集合をかけて、みんなで彦の見舞いに行こうと提案しても、6人揃っていく必要はないと拒絶される。あんなに親密でこの先もずっと一緒と思っていた関係が実はとても脆いもので、彦のリーダーシップで保っていた関係だと明らかになり、綻びが見えはじめる。

そんなふうにグループがバラバラな状態のときに志昇(チーション)がバイクの窃盗で逮捕される。そのバイクは博助(ボーチュー)が乗ってきたものだったが、退学を恐れる博助は真相を黙っていて名乗り出ない。頑なな志昇は博助のことはおくびにも出さず結局退学となり、せっかく部活に入れて悪い先輩たちから引き離そうとした委員長の培馨(ペイシン)の心配したとおりになってしまう。実は彼らが屋上にたむろしないよう鍵をかけたのも培馨だったが、その心遣いも通じなかった。

博助が黙っていたのが許せなかったのは2回落第している曜行(ヤオシン)。バット片手に学校中、博助を追い掛け回し、最後にはあの鍵がかかっていたときに屋上に出た女子トイレに追い詰めて、溢れんばかりの激しい思いをバットに乗せて、博助にぶつけるわけにもいかず女子トイレのドアをぶち壊す。それまでのうっぷんを晴らすかのようなやり場のない怒りのぶつけ方。その中には、彦への思いも、志昇への思いも、そしてなんであんなに仲がよかった自分たちがこんなふうになってしまったのか、といったやるせない思いがあったのだろう。

湯は意識を戻すことなく亡くなった彦の部屋を訪れて、失敗したサインボールの山を見つける。あえて卒業式の日にそのボールを持って屏東へ訪れたのは、生前の約束でもあるけれど、きっと彦と二人だけの卒業式をしたかったのだろう。自分が運転していたという罪悪感は消えないものだし、彦が一生懸命に練習して嘘までついてサインボールをくれたことが、なによりの親友の証なのだから。
9wind1

林書宇(トム・リン)監督の長編デビュー作は、監督の高校時代のエピソードをかなり盛り込んだ自伝的作品なだけに、あるある、と自分も懐かしく思えるようなシーンが盛りだくさんで、郷愁も感じさせてあの頃の儚く壊れやすい感覚を思い起こさせる。高校生だから自然と爽やかで、でも不安定な心の動きがそれぞれの登場人物すべてに描かれていて、映画は彦と湯を中心に回っていくんだけど、それ以外にも彼らの高校生活全体があって、その一部を映画として画面で見せてみました、みたいな感じ。

曾志偉(エリック・ツァン)が共同プロデューサーになっていて、この脚本に触発されて男子7人女子2人の高校生という設定で香港、中国でそれぞれ映画を作っているのも興味深い。映画のビデオルームで流れている画面は侯孝賢の『恋恋風塵』。パンフを読むまでわからなかったけれど、そんなマニアックな設定に少しにんまりしたり。

次の作品が楽しみな中華監督がまた一人、増えました。

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