まてぃの徒然映画+雑記

中華系アジア映画が好きで、映画の感想メインです。
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夢売るふたり

2012-10-20 21:54:43 | 日本映画(は~わ行)

ゆれる』『ディア・ドクター』の西川美和監督の最新作は、男と女の間の愛情を描いた作品。主演は松たか子と阿部サダヲ。

夫婦ふたりで小さな居酒屋を切り盛りしていた市澤貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)。ある夜、調理中の火が元で火事になり、全てを失ってしまう。生活費と、もう一度お店を開業するための資金を稼ぐために、里子はチェーンのラーメン屋でアルバイトをして、貫也は若いころ修行をさせてもらったお店で働くが、代替わりした若主人と衝突して辞めてしまう。

貫也は働かずに昼間っからビールをあおる日々、ある夜同じ駅で終電を逃した、お店の常連だった玲子(鈴木砂羽)と一夜を過ごし、玲子の不倫の手切れ金を受け取って自宅に戻る。こんな大金をどうやって手に入れたのか、厳しく追及して白状させた里子は、お店の再建資金を稼ぐために結婚詐欺を利用することを思いつく。

心に隙間のある女性をターゲットに、貫也が時には結婚詐欺、時には里子と兄妹を騙り、妹が大病で入院費用が必要だと持ちかける。結婚を焦るOL咲月(田中麗奈)や出会い系で遊ぶ人妻、田舎から出てきた人のいい風俗嬢紀代(安藤玉恵)、ウェイトリフティングでオリンピックを目指しているひとみ(江原由夏)など、次々と騙してお金を手に入れて、その資金を元手に新しい店の準備を進めるが、次の標的に定めたシングルマザーの公務員滝子(木村多江)に対して、貫也の態度が怪しくなっていき。。。

女性監督ならではなのか、松たか子演じる里子や、貫也に騙される女性たちの描かれ方が、鋭いというか厳しいというか、時には残酷なまでのえげつなさを感じます。大金を持って朝帰りした貫也を風呂場で里子が問い詰める場面では、せっかくの札束に火をつけてぶちまけて、さらに貫也を熱湯責めにします。差し水をしようと貫也が蛇口から水を出しても、爪先で浴槽の外側へ出すところなんか、松たか子からサディスティックで危険だけど艶っぽい香りがしました。

ひとみを騙すところでは、里子が貫也に「気の毒…」と言いますが、これは西川監督が同性だからこそ出すことができた台詞だなあ、と感心というか何というか。男性の自分だったら、ちょっと怖くて心で思ったとしても口に出しては言えないなあ、と思います。

主役というか、ストーリーの中心人物は間違いなく貫也と里子なんですが、ふたりを中心に話が回っていくというよりは、ふたりが狂言回しみたいな感じで、騙される女たちにも奥行きのある豊かな背景があり、むしろ騙される女たちの集合体というか、彼女たちの存在そのものが主役のような気がします。里子と貫也が詐欺を決心した時、心に隙間のある女性に狙いを定めますが、咲月やひとみ、紀代、滝子など騙される女性たちが持っている心の隙間は、実際に自分の隣の誰かが持っていても全然不思議ではない空虚さで、圧倒的なリアルを持って迫ってきます。西川監督が描きたかったもののひとつに、こうした現代社会の心の隙間もあったのかな、と思います。

阿部サダヲ演じる貫也が、次々に女性を騙して落としていくのは、よっぽどの美男子でもなくお金があるわけでもなく、どこが魅力的なのか自分には分からず不思議な気持ちでしたが、女性から見た魅力、男性には分からないフェロモンがきっと出ていたのでしょう。

里子も貫也も、決して悪い人ではなく、むしろ不幸のどん底からもう一度這い上がろう、という人生に対する誠実さを感じます。だからこそ、貫也は子供をかばって自分が堂島(笑福亭鶴瓶)を刺したことにしますし、里子は貫也が服役している間、早朝の市場、きっと前のお店のときに仕入れをしていた市場で、男勝りにフォークリフトを操って、騙し取った金を一人ずつ返していきます。ふたりがお店を火事で失って全てを失くしたからこそ、心の隙間という似た境遇を抱えるターゲットに安易に手を出したのかもしれません。

冒頭の火事の場面は一発ロケだそうですが、カメラのぶれ方やスローモーションなども駆使して、迫力満点です。説明調の台詞がまったくなく、自然な感じなのが西川監督の好きなところなんですが、女性の心理はなかなか見えなくて、意味のわからないシーンもいくつかありました。

公式サイトはこちら

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