救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ーUnitedー for the Patient ー

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血漿分画製剤 急性期管理における使用法 NO.1

2009年03月27日 02時03分05秒 | 講義録・講演記録 2
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授
松田直之


はじめに
 血漿分画製剤は,血漿蛋白質を物理的かつ化学的に血漿より分離・精製した製剤であり,主にアルブミン製剤,グロブリン製剤,血液凝固因子製剤,アンチトロンビンIII製剤に大別される。このうち,血液凝固因子製剤は不安定性により採血後6時間以内に分離されるが,他の血漿分画製剤は新鮮凍結血漿より分離される。本稿では,これらの特徴や機能を実際の使用に照らしてまとめる。

【1】免疫グロブリン製剤

 免疫グロブリンは,細菌やウイルスなどの微生物や微生物の産生する異物を認識する糖蛋白であり,IgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5種類のサブタイプとそれらの各サブクラスからなる。リンパ節,脾臓,粘膜リンパ組織などの末梢リンパ器官や骨髄由来B細胞より産生され,生体内では抗体として働き,液性免疫として機能している。健常成人より集めた血漿より,1941年に開発されたCohnの低温エタノール分画法で分離精製したものが,免疫グロブリン製剤である。現在,本邦で臨床使用されている免疫グロブリン製剤は主にγグロブリン分画中のIgGを抽出したものであり,血漿1Lより約3.3 gのIgGが精製されている。海外ではIgGにIgMとIgAを含有した製剤も臨床応用されている。このように,免疫グロブリン製剤は健康成人の血清より抽出したポリクローナル抗体として世界各国で生成されており,その世界における需要は年間90トン以上と見積もられている。これらの機能は, Cohnの低温エタノール分画法の後の主な分離方法によって影響を受けるため,臨床研究における効能の評価にはどのような製剤を用いたかを評価する必要がある。

1. 免疫グロブリン製剤の種類
 免疫グロブリン製剤は,1)筋注用免疫グロブリン製剤(IMIG),2)静注用免疫グロブリン製剤(IVIG),3)特殊免疫グロブリン製剤の大きく3つに分類される。歴史的にはIMIGがはじめに開発され,IMIGの凝集性や補体異常活性化の欠点を克服したものとしてIVIGが開発された1)。Cohnの低温エタノール分画法よる回収のみでは,IgGの凝集体が存在し,抗原と結合しない状態で補体を異常に活性化させることが知られていた。このような初期の免疫グロブリン製剤は,静注には不向きであるとされ, IMIGとして筋注に限って使用されていた。しかし,それでもIMIGは筋注局所の疼痛が強いため大量投与できないばかりか,速効性に欠けるなどの制限があり,現在では麻疹やA型肝炎などに限って使用されている。
 一方,Cohnの低温エタノール分画法での分離の後に,化学処理,ポリエチレングリコール処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理などを行い,凝集体による補体活性化を抑制したものがIVIGである。開発当初は,ペプシンやプラスミンによる酵素処理をしたIVIGも臨床に頻用されていたが,これらの処置によりIgGのFc部分が分断されるため,細菌やウイルスなどの異物に対するオプソニン効果や補体活性化が抑制され,機能的ではない。これに代わり,スルホ化やアルキル化の化学処理により,抗体間のS-S結合を阻止し,IgG重合を抑制する手法が確立された。しかし,スルホ化されたIgGは生体内で正常機能に戻るまでに約1日を要するため,重症敗血症などの緊急時には不向きである。また,アルキル化されたIgGは生体内でもアルキル化されているため,オプソニン効果や溶菌作用が弱い。これに対して,副作用の原因となるIgG凝集体を除き,あるいは離解させる方法として,ポリエチレングリコール処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理が用いられている。さらに, HCVやパルボウイルスやHIVなどのウイルス混入を阻止する目的で,国内産のものは平均孔径19nmのナノ膜濾過処理がなされている。しかし,未だヒトパルボウイルスB19やクロイツフェルト・ヤコブによる感染の可能性はゼロとはいえない。
 現在,IVIGとして,ポリエチレングリコール処理ヒト免疫グロブリン(polyethylene glycol treated human normal immunoglobulin;ヴェノグロブリン-IH®,献血グロベニン-I-ニチヤク®),2)乾燥スルホ化ヒト免疫グロブリン(freeze-dried sulfonated human normal immunoglobulin;献血ベニロンI®),3)pH4処理酸性ヒト免疫グロブリン(pH4 treated human acidic normal immunoglobulin;ポリグロビンN®),4)乾燥pH4処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried pH4 treated human normal immunoglobulin;サングロポール®),5)乾燥イオン交換樹脂処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried ion-exchange-resin treated human normal immunoglobulin;ガンマガード®),6)乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried pepsin treated human normal immunoglobulin;ガンマベニンP®)などが臨床使用されており,1)無ガンマグロブリン血症または低ガンマグロブリン血症,2)重症感染症における抗生剤との併用,3)特発性血小板減少性紫斑病,4)川崎病の急性期に適応が定められている。これらの健常成人における半減期は約20~25日であるが,乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリンの半減期にみ約9日と短いことが特徴である。これらのIVIGは,血漿IgGの4~5倍に相当する50 mg/dLに濃縮されている。
 最後に,特殊免疫グロブリン製剤として,1)抗HBsヒト免疫グロブリン製剤(B型肝炎発症予防),2)抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤(破傷風の発症予防や治療),3)抗Dヒト免疫グロブリン製剤(Rh血液型不適合妊娠の予防),4)抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(再生不良性貧血の治療),5)抗ヒトTリンパ球ウサギ免疫グロブリン(再生不良性貧血の治療)の5種類の製剤が臨床使用されている。HBs陽性患者の血液の針刺し事故では,事故後7日以内に抗HBsヒト免疫グロブリン製剤を成人では1000~2000単位を筋注する。抗HBsヒト免疫グロブリン製剤には,ポリエチレングリコール処理をした静注用製剤(静注用ヘブスブリン-IH®)もある。また,外傷などで創部の汚染が強い場合や重症外傷では,抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤を投与する。テタノブリン®,テラノセーラ®,破傷風グロブリン®,テタガムP®などは,筋注として250 IUを用いる。テタノブリン-IH®は,ポリエチレングリコール処理をした静注用製剤であり,通常の破傷風予防には250 IU,重症外傷では1500 IUを静注することができる。

2. IVIGの機能と適応
 IVIGは,1951年に臨床応用され,その使用目的は,1)IgGの低下を改善させる補充療法,2)免疫変調療法の2つである。IVIG補充療法としては,原発性免疫不全症,重症感染症における抗生剤との併用,低γグロブリン血症,慢性リンパ性白血病,骨髄移植,小児HIVが保険適応である。免疫変調療法としては,自己免疫疾患に対して特発性血小板減少性紫斑病,川崎病の急性期,Guillan-Barre症候群,多巣性運動ニューロパチーを含む慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の筋力低下の改善に用いられる。使用する製剤によっては適応が限られているため,製剤の確認が必要である。

1) 免疫不全,慢性リンパ性白血病,骨髄移植における補充療法
 X-連鎖無γグロブリン血症などの原発性免疫不全症候群においては,3~6週ごとに200~400 mg/kgの免疫グロブリン製剤を点滴静注し,血清IgG値のトラフ値を500 mg/dL以上に保つことで,感染症や慢性気管支炎や気管支拡張症の発症を軽減できる。また,小児心臓血管外科術後に乳糜胸を合併すると低γグロブリン血症となりやすい。IgG 200 mg/dL,IgA 5 mg/dL以下は,免疫低下や免疫不全を疑い,感染症罹患を予防する必要がある。また,正常血清のIgGの4つのサブクラスは,IgG1(60~65%),IgG2(20~25%),IgG3(約10%),IgG4(約5%)の存在比であるが,これらの1つあるいは2つの欠損により易感染性となる。成人ではIgG3欠乏症,小児ではIgG2欠乏症が多く,IgG値が正常域でも,IgG2,IgG3サブクラスの欠損が易感染性の原因となることもある。慢性リンパ性白血病に低γグロブリン血症を伴う場合や骨髄移植後においても,血清IgG値のトラフ値を500 mg/dL以上に保つことで感染症合併率が低下することが確認されている。

2) 重症感染症と炎症の軽減
 IVIGには多種多様なIgGが含有されており,これらは細菌やウイルスの認識抗体だけではない。Tumor necrosis factor-α(TNF-α),interleukin-1(IL-1),interleukin-6(IL-6),macrophage migration inhibitory factorなどのサイトカインや,外因系アポトーシス誘導リガンドであるFasL,さらにはTNF-α受容体などのサイトカイン受容体などの,炎症とアポトーシスに関与する分子に対する抗体が含まれている2)。これに加えて,IVIGには,サイトメガロウイルス,アデノウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,麻疹ウイルス,風疹ウイルス,ムンプスウイルス,インフルエンザウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルスなどの抗ウイルス抗体や,抗菌薬活性の期待しにくいメタロ-β-ラクタマーゼ産生緑膿菌,バンコマイシン低感受性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),バンコマイシン低感受性腸球菌属,メタロ-β-ラクタマーゼ産生セラチア,多剤耐性緑膿菌,カンジダ属などを認識する抗体が含有されている。本邦では,これらのウイルスや細菌に対する抗体価について,IVIGのロットごとに報告を受けることができる。ウイルス感染症や重症敗血症ではIVIGロットの有効性を確認し,十分に投与されれば理論的には免疫機能の補助手段となる。2006年までの敗血症患者に対するIVIGのランダム化比較試験をまとめた2007年のTurgeonら3)による報告では,20研究における2,621名が評価され,敗血症全般でIVIG療法は95%信頼区間0.62~0.89に対して相対リスクが0.74と,有意に敗血症罹患後の生存率を改善すると評価された。この敗血症における報告では,1)IVIGの投与量は1g/kg未満でも1g/kg以上でも生命予後を改善させること,2)IVIGの投与期間は2日以下では生命予後を改善させず3日以上が有効であること,3)IVIGは初病日からの投与でなくとも投与により生存率を改善させること,4)単なる敗血症ではなく,臓器不全を伴う重症敗血症や敗血症性ショックで生存率が高まることが,サブグループ解析として確認されている。しかし,海外での投与量は本邦より多いものであり,重症感染症に対するIVIGの役割は今後の本邦における十分な評価が必要である。

3) 川崎病
 川崎病におけるIVIGには,炎症症状の早期消退と冠動脈病変の併発を低下させることが確認されている。IVIGは原田スコア4)の白血球数≧12,000/mm3,Hct<35%,血小板<35万/mm3,アルブミン<3.5g/dL,CRP≧4.5 mg/dL,男児,年齢<1歳の7項目うちの4項目以上を満たすときに適応があるが,IVIGの使用には臨床症状を含めた総合的判断が必要とされる。治療開始時期は第7病日までが望ましいとされているが,使うならば早い時期からが望ましい。川崎病では,200 mg/kg/日の5日間投与が健康保険適応であるが,IVIG 400 mg/kg/日により冠状動脈病変の発生頻度が低下するとの報告も多い。米国では2 g/kg/回の投与が標準的である。IVIGの実際の投与には,半日~1日かけて緩徐に投与するのが良いとされている。

4) 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎およびGuillan-Barre症候群
 献血ベニロンI-ニチヤク®は多巣性運動ニューロパチーを含む慢性炎症性脱髄性多発根神経炎に,献血ベニロンI®はGuillan-Barre症候群に適応を持つ。これらは,1日投与量400 mg/kgを5日間投与する。

5) 副作用に対する注意
 免疫グロブリン製剤は,IgA欠損症や抗IgA抗体を持つ患者において,アナフィラキシーを生じやすいことが知られている。血清IgAが5 mg/dL以下の日本人は0.03~0.05%の頻度と評価されており,大部分は病的な症状を呈さないため,免疫グロブリン製剤投与においては投与初期から十分に患者観察が必要である。慢性肺疾患ではIgA欠損症の合併頻度が高いことも知られている。IgA欠損症患者にIgAを含んだ血液製剤を投与すると,抗IgA抗体が産生され致死的なアナフィラキシー・ショックとなる。このような重篤な反応とはならないまでも,アレルギー反応が生じる可能性に十分に留意する必要がある。副作用の発生は,注入開始後1時間以内に起こることが多い。


【2】血液凝固因子製剤

 本邦で臨床使用されている静注用血液凝固因子製剤は,1)第VIII因子製剤,2)第IX因子製剤,3)プロトロンビン複合体製剤,4)活性化プロトロンビン複合体製剤,5)活性化第VII因子製剤,6)フィブリノゲン製剤,7)第XIII因子製剤の7種類である。これらの適応は,先天性欠損であり,第XIII因子製剤のみがシェーンライン・ヘノッホ紫斑病や外科的縫合不全および瘻孔に対しての適応を持つ。

1. 血液凝固第VIII因子製剤
 第VIII因子製剤は,遺伝子組換えによるオルトコグアルファ(コージネートFS®)とルリオクトコグアルファ(リコネイト®),および乾燥濃縮ヒト血漿製剤であるクロスエイトM®が血友病Aに使用されている。第VIII因子に加えてvon Willebrand因子(vWF)を含有した製剤として,コンファクトF®とコンコエイトHT®があり,血友病Aおよびvon Willebrand病に使用されている。
 血友病5, 6)は先天性出血病態の一つであり,第VIII因子の欠乏する血友病Aと第因子の欠乏する血友病Bがある。これらの凝固因子はX染色体上に遺伝子が存在するため,X連鎖劣性遺伝の形式をとり,保因者の女性から出生した男児の50%には血友病が発症する。血友病Aでは,隔日あるいは週に3回,25~40単位/kg/回を静注し,定期的な補充療法とする。第因子は一般に1単位/kgの投与で血中濃度が約2%増加する。また,血友病患者の外傷による出血や手術の際には,止血のための補充量法を行うことになる。第VIII因子の血漿半減期は8~12時間程度であるため,前日までの補充療法に加えて,手術中は単回補充ではなく,2~4単位/kg/hrの持続投与とする場合が多い。出血が多量となる場合は,新鮮凍結血漿で代用する場合も多い。さらには,血友病の補充療法においては血友病Aで10~20%に補充因子に対する同種抗体(インヒビター)が出現することが知られている6)。救急領域などの緊急時には,インヒビター評価が最近いつどこで行われたかを確認する必要がある。第VIII因子製剤投与後の第VIII因子活性期待値(%)は,第VIII因子投与量(単位/ kg)× 2で計算し,止血には第VIII因子活性期待値を>20%に増加させ,手術や外傷による出血症状の際は>50%を目標としている。
 von Willebrand病は,vWFの減少あるいは機能異常による血小板の粘着障害に起因する先天性出血性疾患である。この内容により,大きく1型(量的減少),2型(質的異常),3型(完全欠損)の 3 病型に分けられている。1型は酢酸デスモプレッシン(0.4 μg/kg/回)の静注で対応できるが,2型および3型では酢酸デスモプレッシンは無効であり,vWF含有第VIII因子製剤を補充療法とする。VIII因子に比較してvWFは血漿半減期が24~36時間と長いため,投与間隔は血友病Aより延長することができる。

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血友病A患者に対する第VIII因子製剤の投与例

1 慢性滑膜炎,膝関節内出血
  1回10単位/kg 1日1回静注 1~2日
2 腸腰筋内出血
  1回20単位/kg 1日1回静注 5日間
3 頭蓋内出血
  初回50単位/kg,以後1回25単位/kg 1日2回静注 1週間
4 手術に際して
  術前日50単位/kg,術中2~4単位/kg/hrの持続投与
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2. 血液凝固第IX因子製剤
 第IX因子製剤は,乾燥濃縮ヒト血漿製剤としてノバクトM®とクリスマシンM®が臨床使用されている。適応は,血友病Bに対してである。投与方法は,1回500~1000単位/kgの緩徐な静注とする。血友病Aに準ずるものであるが,第IX因子の血漿半減期は12~24時間と個体差があることに留意する。第IX因子製剤投与後の第IX因子活性期待値(%)は,第IX因子投与量(単位/ kg)×(1~1.5)で計算し,止血には第IX因子活性期待値を>20%に増加させ,手術や外傷による出血症状の際は>50%を目標とする。手術に際しては,前日までの補充療法に加えて,手術中は4~7単位/kg/hrとする。

3. プロトロンビン複合体製剤,活性化プロトロンビン複合体製剤
 プロトロンビン複合体製剤は,血友病Bの適応としてPPSB-HT®,プロプレックスST®が臨床使用されている。これらには,第IX因子以外に第II因子,第VII因子,第X因子が複合されている。投与方法は,1回50~100単位/kgの緩徐な静注であり,詳細は第IX因子製剤の投与に準じる。
 一方,活性化プロトロンビン複合体製剤(ファイバ®)は,第II因子,第VII因子,第IX因子,第X因子に加えて,それらの活性化体が含まれている。血友病Aおよび血友病Bにおいて,第VIII因子および第IX因子のインヒビターをもつ患者に適応がある。手術や多発外傷に際しては,活性化プロトロンビン複合体製剤はトロンビン活性を高め,血栓傾向や血管内皮細胞障害を増悪させる可能性があり,インヒビター保有患者以外には用いることはなく,インヒビター保有患者においても慎重投与となる。手術や多傷に際しては,保険適応量として50~100単位/kgを8時間ごとに投与し,3日間に留めた連続使用としている。

4. 血液凝固活性化第VII因子製剤
 活性化第VII因子製剤(ノボセブン®)は遺伝子組換え製剤であり,その適応は活性化プロトロンビン複合体製剤と同様に,血友病Aおよび血友病Bの第VIII因子および第IX因子の阻害物質保有患者である。保険適応は初回量が90μg/kg(4.5 KIU/kg)であり,その後,止血が得られるまで2~3時間ごとに60~120μg/kg(3~6 KIU/kg)を追加投与できる。血漿半減期が3時間レベルであるため,調節性が良いのが特徴であり,血友病Aおよび血友病Bの第VIII因子および第IX因子のインヒビター保有患者の手術や外傷における出血コントロールに用いることができる。海外の症例報告では,戦時中の負傷や腹部外傷を含む出血コントロールに優れているとの報告があるが7),海外でも未だ十分なエビデンスはなく8),本邦ではインヒビター保有の血友病患者以外に適応はない。

5. フィブリノゲン製剤
 フィブリノゲン(血液凝固第�因子)はAα鎖,Bβ鎖,γ鎖のS-S結合として存在し, N末端でさらにS-S結合した二量体として血漿分画に存在する。このフィブリノゲンの合成部位は肝臓であり,血小板凝集による一次止血やフィブリン網形成による二次止血に不可欠な凝固因子である。
しかし,現在,フィブリノゲン製剤(フィブリノゲンHT®)の保険適応は,先天性低フィブリノゲン血症の患者に限られており,肝硬変や産後出血に適応はない。さらに,保険適応量は,1回3 gまでである。先天性低フィブリノゲン血症の患者の手術では,術前より約30 mg/kgのフィブリノゲン製剤を投与し,血漿フィブリノゲン値を100 mg/dL以上に高めておく。フィブリノゲンの血漿半減期は3~4日レベルであるが,術後3日までは適時投与とし,血漿フィブリノゲン値100 mg/dLを目標とすることが望ましい。
周術期の投与に際しては,様々な血液製剤と同様にアナフィラキシーの発症に加えて,代用血漿製剤やデキストラン製剤などとの同一静脈路からの投与で沈殿が生じることや,発熱の可能性に注意が必要である。

6. 血液凝固第XIII因子製剤
 第XIII因子は,凝固反応の最終産物であるフィブリンモノマーを架橋形成することにより,安定したフィブリンポリマーを産生するための二次止血に不可欠な凝固因子である。この第XIII因子製剤(フィブロガミンP®)の保険適応は,1)先天性第XIII因子欠乏症,2)第XIII因子低下に伴う縫合不全および瘻孔,3)シェーンライン・ヘノッホ紫斑病である。
先天性第XIII因子欠乏症では1日4~20 mL,第XIII因子低下に伴う縫合不全および瘻孔では1日12~24 mLを5日まで,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病では1日1回12~20 mLを3日までが,保険適応である。これらは,血漿第XIII因子濃度を評価しながら用い,縫合不全および瘻孔では基準値の70%以下,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病では90%以下を投与の適応とする。
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