MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

飛び交う手裏剣

2014-05-20 10:00:00 | 私の室内楽仲間たち

05/20 私の音楽仲間 (586) ~ 私の室内楽仲間たち (559)




             飛び交う手裏剣



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                  飛び交う手裏剣
                泣くチェロ、笑うチェロ
                   ソロも揃って
                 ホラ吹き Violin





 今回の譜例も、Mozart の Violin、Viola のための
協奏交響曲 変ホ長調 K364
、その六重奏版から。
Vn.Ⅰのパート譜で、第Ⅰ楽章の冒頭です。


 たった一段しかありませんね。 前回の譜例ではこれ
が抜けており、次の段から始まったことになります。

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 演奏例の音源]は、私が編集したインチキなもの。

 今回の主役は、最初の5つの音符、特に2小節目の
リズムです。


          2  3  4

           ↓ ↓  ↓


 
 さて単純だが難しいですね、このリズム…。

 演奏の現場でよく起こる例は、音符4が、後ろに寄って
しまう現象です。 本来ならば、後ろの音符との間には、
かなり空くはずなのに。
 
 
 これが難しい原因は、先立つ音符がどれも長いことです。
休符書いてないからといって、“ベタベタ”…最後まで重く
延ばしてしまうと、次の音符のスタートが遅れ、次々に尾を
引いていくのです。
 
 その上、1、2、3…と、徐々に短くなっているので、これが
また危険を誘発しやすい。 音を延ばしながらも、「“語尾を
軽くするタイミング” を前へ移動できるかどうか」…が、成否
の鍵になります
 


 もう一つは、sfp の存在でしょう。 p のときに、弓が軽く
なってくれるかどうか…。

 またそれに伴って、「弓の位置を駒から若干遠ざける」、
「弓の速度を落とす」…ような “細工” も、同時に必要に
なります。




 とは言え、アンサンブルの場では、自分が正確に弾こう
とするだけで精一杯です。 余計な解説などしている暇は
ありません。

 この曲でこの6人が顔を合わせるのは、今回だけなの
です。 いわば、一期一会の場。


 でも、この形が現われるたびごとに、6人は試行錯誤を
続けています。 お聞き取りになれないかもしれませんが、
各回のタイミングには、微妙な差が生じているのです。


 こういう目に見えない関係が、音楽のアンサンブルでも
実在するんですよ? ときには、裏で手裏剣が飛び交って
いることさえ!

 たとえば3小節以後に、降りて行く短い音符がありますね。
そのうち二回目では、「私がブレーキをかけている」…ように
聞こえるかもしれない。

         同じ演奏例の音源]です。

 

 

 ところが実際は、そうではありません!

 事の詳細はこの場では記しませんが、もっと微妙で鋭い
やり取り” が、裏で行われているんです。 何往復も!


 一旦やられたように見えて、実は密かに返り討ちを
狙っていたりして…。 “たまには”…ですけど。 

 怖いですね、恐ろしいですね? 遊びの場とは言え、
真剣勝負です。

 

      1    2  3

     ♩    ♪  ♩


 さて、上の同じ譜例には、小さな音符を3つ書き足してみました。
順に四分音符、八分音符、四分音符ですが、これ、何のことだと
思われますか?

 実は “f を鳴らしている時間” のつもりなんです。


 最初の1、2は、長い音符。 もし “f の時間” が短いと、鋭く
聞こえすぎる。 でも長すぎると、“f のイメージ” が残りすぎる。
私の好みでは、このぐらいがちょうどいい。

 一方、音符3は f のままですが、次に短い、つまり “スピード
の速い” 八分音符がある。 先ほど記したように、語尾を軽く
する必要があるのです。

 

 本来は、ここまで意思統一する必要があるのでしょう。



 さて、この協奏交響曲。 解説にあるとおり、複数のソロ
楽器を伴って進行します。

 通常の協奏曲に比べれば、「ソロとオケとの “やり取り” に
緊迫感がある」…というのが、私なりの印象です。 もちろん、
管弦楽だけの部分や独奏楽器だけの部分 (カデンツァ)
存在しますが。


 今回は “5つの音符” から成るモティーフを取り上げました。
その間、音程はまったく動きません。 どの楽器でも。

 この形、2つのソロ楽器には、原曲では一度も出てきません。

 



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