01/03 私の音楽仲間 (548) ~ 私の室内楽仲間たち (521)
揺れる調、揺れる3度
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
『Beethoven の "Harp"』
音程の濡れ衣?
付き合いのいい音程、悪い音程
記号を "無視" する勇気
それを言っちゃあ…
拘りにも差が
Beethoven の ドッグ-ラン
長距離走に比べれば
解釈を左右する表現手段
理解が先? 表現が先?
揺れる調、揺れる3度
それは形式が決めるさ
変イ長調で始まった、ロンド形式の音楽。 曲は Beethoven
の 弦楽四重奏曲 変ホ長調 Op.74、その第Ⅱ楽章です。
譜例は、テーマ “1” の終わりから、テーマ “2” の
前半部分。 ViolinⅠのパート譜です。
[演奏例の音源]は、テーマ “1” の最後の3小節
から始まります。
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いきなり変イ短調で始まった、テーマ “2”。 調性
はこの後すぐ、変ハ長調へ移ります。
ダブル-フラット (♭♭) が頻繁に顔を出し、譜例の
終りでは、変ニ短調まで行き着きます。
音源は、この後で変イ長調を準備したところまで。
やがて最初のテーマ “1” が現われます。
“長調 ~ 短調” の往復は、第Ⅰ楽章の序奏部
でも、すでに見られました。
ただしそれは、“長三 ~ 短三” 和音の対比です。
曲の冒頭では、まず変ホ長調。
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そして三段目では突然、変イ短調の響きが!
聴く者は、本来なら変イ長調を予想する場所です。
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そこでの対比は、“ハーモニー間” に止まっていました。
しかしこの第Ⅱ楽章では “変イ長調 ~ 変イ短調” など、
“同名調” 同士の “転調” になってしまいました。 聴く者
に与える衝撃は直截的で、関わる時間も長くなります。
さて、この心理的効果を、さらに増幅しているものが
ありますね。 何でしょうか?
それは、上下する3度音程です。
特に、変イ短調、変ニ短調が鳴る小節では、突然の転調
効果を、さらに強めています。
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↑
ちなみに、二段目の中ほどには、あまり見かけない記譜法
が見られますね。
16分音符4つが、2つずつ “タイ” で結ばれている形です。
これは、もちろん “♪” の長さに相当します。
では、何が違うのでしょうか? ここから感じられるのは、
「拍の後半を大事に演奏しなさい」…というメッセージです。
ただの “♪” だと、演奏者が意識するのは音符の “頭”
だけかもしれません。 作曲者が意図しないのに、“減衰”
(ディミヌエンド) が生じる恐れがあるからではないか。
あるいは Beethoven 先生、こうおっしゃるかもしれません。
「そのとおりだよ。 お前たち演奏者には、何度も痛い目に
遭わされたからな…! 今後は、転ばぬ先の杖じゃ。」
Beethoven がこの記譜法を、弦楽四重奏曲で用いたのは、
これが初めての例と思われる。
以後は、また別の目的のためにも使われるようになります。
[音源サイト ①] [音源サイト ②]