MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

揺れる調、揺れる3度

2014-01-03 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/03 私の音楽仲間 (548) ~ 私の室内楽仲間たち (521)



            揺れる調、揺れる3度



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



            Beethoven の "Harp"

                  音程の濡れ衣?
             付き合いのいい音程、悪い音程
               記号を "無視" する勇気
                 それを言っちゃあ…
                   拘りにも差が
              Beethoven の ドッグ-ラン
                長距離走に比べれば
               解釈を左右する表現手段
               理解が先? 表現が先?
                揺れる調、揺れる3度
                それは形式が決めるさ





 変イ長調で始まった、ロンド形式の音楽。 曲は Beethoven
の 弦楽四重奏曲 変ホ長調 Op.74
、その第Ⅱ楽章です。



 譜例は、テーマ “1” の終わりから、テーマ “2” の
前半部分。 ViolinⅠのパート譜です。

 演奏例の音源]は、テーマ “1” の最後の3小節
から始まります。

                    






 いきなり変イ短調で始まった、テーマ “2”。 調性
はこの後すぐ、変ハ長調へ移ります。

 ダブル-フラット (♭♭) が頻繁に顔を出し、譜例の
終りでは、変ニ短調まで行き着きます。



 音源は、この後で変イ長調を準備したところまで。
やがて最初のテーマ “1” が現われます。




 “長調 ~ 短調” の往復は、第Ⅰ楽章の序奏部
でも、すでに見られました。



 ただしそれは、“長三 ~ 短三” 和音の対比です。

 曲の冒頭では、まず変ホ長調。

      



                    

 そして三段目では突然、変イ短調の響きが!

 聴く者は、本来なら変イ長調を予想する場所です。



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 そこでの対比は、“ハーモニー間” に止まっていました。

 しかしこの第Ⅱ楽章では “変イ長調 ~ 変イ短調” など、
“同名調” 同士の “転調” になってしまいました。 聴く者
に与える衝撃は直截的で、関わる時間も長くなります。




 さて、この心理的効果を、さらに増幅しているものが
ありますね。 何でしょうか?

 それは、する3度音程です。



 特に、変イ短調、変ニ短調が鳴る小節では、突然の転調
効果を、さらに強めています。
                              


                                   




 ちなみに、二段目の中ほどには、あまり見かけない記譜法
が見られますね。

 16分音符4つが、2つずつ “タイ” で結ばれている形です。
これは、もちろん “♪” の長さに相当します。



 では、何が違うのでしょうか? ここから感じられるのは、
「拍の後半を大事に演奏しなさい」…というメッセージです。

 ただの “♪” だと、演奏者が意識するのは音符の “頭”
だけかもしれません。 作曲者が意図しないのに、“減衰”
(ディミヌエンド) が生じる恐れがあるからではないか。




 あるいは Beethoven 先生、こうおっしゃるかもしれません。

 「そのとおりだよ。 お前たち演奏者には、何度も痛い目に
遭わされたからな…! 今後は、転ばぬ先の杖じゃ。」



 Beethoven がこの記譜法を、弦楽四重奏曲で用いたのは、
これが初めての例と思われる。

 以後は、また別の目的のためにも使われるようになります。




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