MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

急いては事を…

2012-08-29 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

08/29 私の音楽仲間 (417) ~ 私の室内楽仲間たち (390)

              急いては事を…



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



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                 悲しみは尽きず
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               化粧を排したブラームス
                 ホ短調のアガ―テ




 恋人に、ほぼ二年ぶりに再会する…。 もしそんな状況
に置かれたら、誰しも多少は胸が時めくことでしょう。

 私もそうでした。 つい先日のことです。 でも、相手は
“人” ではない。 ましてや、女性ではありません。

 正確に言うと、“ある女性” と因縁の深い室内楽曲です。



 ある真夏の午後、6人が一室に集まりました。 これ
から六重奏が始まるのです。

 メンバーは、Violin 私、I.さん、Viola W.さんI.さん
チェロ Si.さんY.Su.さん




 ブラームスの弦楽六重奏曲第2番については、この場
でも何度か取り上げてきました。 「曲の成立には、恋人
アガーテとの別離が深く関わっている」…といわれます。

 譜例はこれまでもご覧いただいた、“アガーテ音型” で、
ドイツ語の音名として、AGATHE…の各文字が使われて
います。 第Ⅰ楽章の提示部に、初めて現われます。



 「ブラームス自身はこの音型について何も語っていない
…そうですが、アガーテとの関連無くしては、今やこの曲を
考えられない私です。

 譜例は最初に現われた際の例で、Vn.Ⅰ、Va.Ⅰが一緒に
3回、次いで二つのチェロが1回繰り返します。



 [譜例





 “t” は “d” に置き換えられ、“Re の音” として、他の
パートが同時に鳴らしています。




 [譜例 ]は、そのすぐ後で、提示部の終りの部分です。

 この音型を Va.Ⅰ、チェロⅠ、チェロⅡ、Vn.Ⅱが何度も
奏でています。 スタートの音は、いずれも “Mi” です。

 Vn.Ⅰは “La” の音から、控えめに繰り返しています。







 演奏例の音源]は、この譜例の最初から始まります。




 この後は、楽章冒頭のモティーフたちが登場し、展開部
へと入っていきます。



 4度、5度の跳躍音形を、6人が呼び交わしながら、
展開部の最初のクライマクスへと向かいます。

 これと共に聞かれるのが、8分音符の執拗な往復
音形
です。

 この二つは、いずれも“アガーテ音型” と深い関連
があることを、これまで見てきました。



 次の[譜例 ]は、楽章の冒頭部分で、これらが
すでに登場しています。








 なおこの楽章は、“Allegro non troppo” と指示されている
とおり、あまり速すぎてはいけません。

 しかし技術的な問題が幾つか絡んでいて、どうしても速く
なりやすいのです。 色々な音源を聴いてみても、“解釈”
と言うよりは、“無意識にそうなっている” ように感じます。



 私たち6人の場合も、もちろんそうでした。 そして、
今回は全員が男性だったからかも。

 アガーテ、アガーテ…と歌おうとすると、つい気持が
はやり、落着きが無くなってしまうのです。




           音源ページ