日々、雑多な日常

オリジナル、二次小説、日々の呟きです。

だから最後は一人になった(夫)そして誰もいなく、いや、信じられなくなった 

2021-10-26 19:37:17 | オリジナル小説

 それにしても、あなたって酷い男よねと言われて男は仕方がない、妻とはもう何年もないんだよと答えた。
 自分の部屋に彼女を入れたのは初めてだ、物珍しそうに男の寝室を眺めていた女は少し残念そうに、あまりセンスが良くないわねと呟いた。
 男は内心、むっとしたが、既婚者の男の部屋なんて、こんなものだろうと呟くと女は意外そうな顔をした。

 「奥さんにばれてない」
 「ああ、大丈夫だ」

 断言する男の顔を見た女は、本当にと念を押すように尋ねたが、ばれてるわよと呟いた。
 
 「隣の人、見てたわよ、窓からね」
 
 嘘だろうといいかけたが黙り込んだのは隣人の顔など、あまり見ていない、いや、覚えていなかったからだ。
 最近の近所付き合いともなれば珍しくないだろう。

 「気づいてなかったの、まあ、いいわ」

 女の言葉に何故という疑問が浮かんだのも無理はない。

 「だって、これで終わりよ、あなたと付き合うの、今週末、会社を辞めるの」

 「なんだって、突然だな」

 結婚するのよ、とってもイイ人、凄く素敵な人なのと女は続けた。


 「おいおい、俺の前で他の男のノロケかい」
 
 最初から割り切った関係のつもりだったので、嫉妬するつもりはない、だが、女の態度はあまりにもあからさますぎて、正直、いい気分ではなかった。
 
 「それにしても隣の家の人間が見てたって、本当か」
 「笑って手を振ったのよ、もしかして子供だったのかしら、どうするの、まあ、離婚するつもりならいいんじゃない」
 「いや、それはない」
 
 結婚して三年、子供はいない、夫婦二人きりの生活だが、夜の生活に不満はあるものの、それ以外は満足しているのだ。
 料理も掃除もちゃんとしてくれる、家の中は綺麗で、そう、家政婦と思えばいいんだと男は割り切っていた。
 
 「まあ、奥さんもほっとしてるんじゃない」
 
 何故という顔になった男に良くなかったんだものと言われて、男は内心むっとした。
 
 「おい、なんだ、それ、最初の時は」
 
 女は笑った、演技に決まっているじゃない。

 「ちょっと、どんなものかなって試しに味見してみたの」

 女の言葉が信じられなかった、だが、先に誘いをかけたのは自分からだ、自惚れがなかったといえば嘘になる、女も自分に多少はその気があったのだろうと思っていた、だが、今の言葉からすると、明らかに自分は。
 自分との事は、それほどでもなかったということか、内心、男はがっくりとした。
 
 「あたし意外にも相手はいるんでしょ、受付の子だったかしら」

 今度はもっと可愛げのある女にしようと男は思った。

 ところが、数日後。
 今、男はホテルの一室で裸のまま、ベッドの上で呆然としていた。
 自分の目の前で起こっていることが信じられなかった、女がルームサービスで何か食べるものを頼んで、それから数分後の、あっというまの出来事だ。
 てっきりホテルのサービスがきたのかと思ってドアを開けると、いきなり、数人の男が入ってきたのだ。
 腹を殴られて、女が羽交い締めにされた、そして今、部屋の中には自分と男たちだけだ。
 まるで、映画かドラマのような信じられない、あっという間の出来事だ。

 「か、彼女をどうした」
 
 「ノープレブレム、アイ、シット、オウッ、日本、難しい」

 長身の男は金髪でサングラスをかけているが大きな黒いマスクをしている為か、表情が分からない。

 「旦那、丁度、欲しがっていた客がいましてね」
 「んー、ソウ、売レル、需要アル」
 「受けるんです、最近は男のほうが」

 何を話しているのかわからない、だが、よくないことを言っているのは確かだ、自分はどうすればいいのかわからないまま、ただ、男は呆然としていた。


 「どうしたの、あなた」
 
 元気がないのね、具合でもよくないの、妻に言われて男は我に返った。
 一瞬、ぼんやりとしていた自分に、しっかりしろと言い聞かせて、食卓を見る。

 この数日、心が、気持ちが落ち着かない、それというのも数日前の出来事だ、ホテルでの愛人との情事、あの後、女とは会っていない。
 翌日、会社に行くと女は会社を辞めていた。
 両親の具合が悪くなり、突然のことで挨拶もできないということだ。
 連絡をしようとしたが、スマホは繋がらない。
 ところが数分後、彼女の番号から電話がかかってきた。


 「おお、裸のおっさんか」

 聞こえてきた男の声、思わずスマホを落としそうになった、体が震えて男は自分でも分からず周りを見た、何故か分からない。
 
 「この間は楽しかったよ、だから、いいもの送ってやったから楽しみにしてろよな」

 なんだ、どういうことだ、足、膝が震えた。


 「あなた、これ大事な書類かしら」
 
 その日、自宅に帰るとポストに入っていたのと、妻から手渡されたぶ厚い封筒に男は嫌な予感がした。
 しばらくの間、悩んだ、このままゴミ箱に突っ込んでしまいたいと思いながら、それでも見なければと自分の部屋で中を確認する為、封を開けた。

 中に入っていたのは写真だ、しかも男の淫猥な裸ばかり、女とだけでなく男同士での行為の写真に、何故と思った。
 数人の男に組み伏せられて写真、だが、犯されている顔は自分の顔を貼り付けてある、ところが、見ているうちに男の顔色が蒼白になってきた。
 全てではない、最後の数枚は自分が裸で縛られている写真だ。

 「奥さん、これを見たら笑うだろうね」

 一枚の紙に書かれた文字、だが、それだけではない、漢字や英語で殴り書きのように書かれている。
 自分は脅されているのか、警察にと思ったが、どうやって説明すればいいのかわからない。
 それに話すとなれば、浮気の事も説明しなければならないだろう。   
 妻に浮気がばれたら互いの両親の知るところとなる、できるなら、それだけは避けたいと思っていた。
 ふと浮かんだのは友人の顔だ、確か警察に知り合いがいたはずだ、以前、事故を起こしたときに親身になってくれたとを思い出した。
 といっても、自分もそれなりの礼をしたのだ、決してやすくはなかったが、それだけの価値はあった。

 「浮気したのか、あんないい奥さんがいて」

 仕方のない奴だなと笑った友人の顔を見て、ほっとしたのは力になってくれると思ったからだ。

 「妻はいないんだ、それに外で話せるようなことじゃないし」
 「ふーん、まあ、聞かれたくない話なら尚更だな、ところで」
 「なんだ、何か」
 「隣の家の人間と仲いいのか」
 「い、いや、近所付き合いは殆ど妻に任せているんだが、何だ」
 
 友人はそうかと頷いた後、恨まれたりしてないよなと男の顔を見た。

 「まあ、それより本題に入ろうか、俺も仕事があるしな
 「そ、そうだな」 

 隣人の事など関係ない、男は机の引き出しから取り出した複数の封筒の中身をためらいながらも男に見せた。
 先日、また、送られてきたんだと説明すると中を見た男は何だ、こりゃと笑い出した。

 「おまえ、こういう趣味があったのか」
 「馬鹿をいうな、俺が男になんて、笑うのやめろ」
 「ああ、すまん、だが、悪戯にしては、これから段々とエスカレートするか、外国人っていってたよな、おまえ、競売に、出てるんじゃないか」
 
 競売、意味がわからない、だが、答えはなくスマホを操作する友人の横顔を男は不安そうに見つめた。

 「ほれ、見ろ」

 そこには初めて男たちとホテルで会ったときの裸で床に正座させられているときの姿が映っていた。

 「おまえ、商品として登録されているよ」
 
 人身売買の闇サイトだと見せられた画面を見て男は驚いた。
 
 「販売前だが、多分、すぐに買い手がつくそ、閲覧のバロメーター見ろ、凄いじゃないか」
 「感心してる場合か、犯罪だぞ」
 「こういう連中は何だってするからな、買い手がつけばすぐに誘拐されて売り飛ばされる」

 友人の言葉に男は驚いた、闇サイト、人身売買、誘拐、現実にあることは知っている、だが、自分に、そんなものは関係ないと思っていた。


 「俺がいなくなったら妻が」
 「例え場だ、奥さんに多額の見舞金が払われる、すると警察に通報はしないから事件にはならないって、どうだ」
 「どうって、なんだ、それは」
 「被害者がいない、訴える人間がいないんだよ、おまえの場合、売られたんだな、ここに人型のマークがついているだろ、情報提供した数だ」
 「俺を売る、そんなこと」
 「おまえ恨まれているだろ、特に女絡みで、昔からだけどな」
 
 そんなことはないと言い切れない自分がいた、結婚してから浮気は何度か繰り返してる、妻にはばれていない、というかおっとりとして、自分が浮気なんて微塵も疑っていないだろう。
 
 「おまえ、学生時代もモテてたし、結構、ひどい別れ方をした相手だっていただろう、顔はいいけど中身は最低男って言われてたしな」
 「おい、昔のことだろ、今は関係ない」
 「尾崎、だっけか、隣の表札」
 「なんだ、隣って」
 「昔、付き合ってた女、オザキって確か中絶したよな、おまえは知らんぷりして、結局、あの女、大学を辞めて、噂じゃ、もう子供は無理だって」

 何年前の、過去の事だ、少なくとも自分の中では、名前さえ覚えていない、言われてみて、ああと頷くぐらいだ。
 
 「なんだ、忘れてたのか、薄情だよな、まあ、恨まれても当然か」
 
 友人の言葉に多少なりとも気まずさと罰の悪さを感じて、少し視線を逸らした後、忘れてたと呟きを漏らした。 

 「じゃあ、その女が俺と付き合っていたことも知らないんだろうな」

 はっとして顔を上げると友人は笑っていた。

 「まあ、周りには付き合っているって言ってなかったし、それに昔のことだよ、正直、別れたいって思っていたから丁度、良かったんだ、渡りに船ってやつだな」
 
 その言葉に、ほっとして男はどうすればいいと呟いた。
 
 「安全で確実なのは情報提供者に競売を取り下げてもらう方法だ、恨んでいるから高い金を払って仕返しをなんて思っておまえを売ったんだ、自分は被害者なんだって思ってたら足下を救われるぞ」
 「恨みか、別れた相手とか、もしくは」
 「いや、まあ、そんなところだろうな(おまえの想像力だと)」

 パソコン、貸してくれるか、ウェブマネーが必要だと言われて男は自分がと言いかけた。

 「いや、俺が出す、おまえは商品だ、怪しまれるのがオチだよ、俺の仕事用のアドレスを使う」
 「すまない、世話をかける」
 「気が早いな、おまえの首は皮一枚だ、相手が競売の取り下げに応じなかったらどうする」
 
 警察にと言いかけると友人は首を振った、甘いなと。
 
 「警察に洗いざらい薄情するのか、最近のじゃなくて昔の女関係の事まで全部、オヤジさんは重役じゃなかたか、昔会ったけど、結構厳しい人だろ、一人で息子を育てて苦労した末が、これか、おまえが商品になったほうが皆、喜ぶんじゃねぇか」
 「おい、その言いぐさは」
 「事実だ、警察が動く事ができないから、俺みたいなのが呼ばれるんだよ、いざとなったら使い捨てにできるからな」
 「なんだ、それ、使い捨てって」
 「オザキの事も性欲発散した後は見向きもせず、今度はおまえが反対の立場ってわけだな、滑稽だ」

 助けてくれるんじゃないのかと男は改めて友人の顔を見た。
 パソコンに向かっている男の横顔に何を言えば、聞けばいいのかわからなくなる。

 「売った人間の事、知りたいか」
 「当たり前だ」
 「名前が出てきた、見ない方がいいと思うな、どうする」
 
 ローマ字で書かれた名前を見て男は驚いた。

 「実の父親に売られるとは、でも無理ないか、おまえ、散々、迷惑かけてるしな」
 
 迷惑、確かに金を工面して貰ったことは何度かあった。

 「裏口、揉め事の費用、親父さんが出したんだろう」
 「知ってたのか」
 「最悪なのは奥さんの妹、まさか、知られてないなんて思ってたのか、皆、陰で噂してたぜ、だから今回のことも」
 
 男の体が震えた、妻の妹のことを言っているのかと。
 一度きりのちょっとした浮気のつもりだった、それなのに姉と別れて自分と結婚してと言われて。

 「ああ、おまえの」

 友人の言葉に膝が震えた、本当にどうしようもない奴だよな、クズ以下だよと笑っている友人がモニターの画面から自分へと視線を向ける。

 「尾崎、彼女はな大学を卒業したら、一緒になるつもりだったんだ、なのにプロポーズの日に自殺なんて、どう思う」

 耳を塞ぎたくなったが、それができなかったのは、玄関から妻の声が聞こえてきたからだ、友人が囁くように、だが、笑いながら、おまえの奥さんもだよと言った。

 「随分、恨まれているよな」 


薬師(女)と魔物は同じだった、だから復讐したのです   

2021-10-23 16:14:32 | オリジナル小説

「は、早く、薬をくれ」

 男は叫んだ、このままでは出血ししてしまう、薬師のポーションがあれば助かる、ところが薬師は離れたところから自分を見ているだけだ。
 近寄ろうともしない、男は腕の傷を押さえながら近づいた。
 すると薬師はにっこりと笑い、男の持っていた剣を取ると大きく振り上げた。
 痛みに男は叫び声を上げた、だが、薬師は平然としていた。


 冒険者としては以前のような働きは期待てできないと言われて男は納得できずにいた、片腕がなくなっただけだ。
 だが、周りの目は厳しい。
 
 「あの薬師のせいだ、俺の腕を切り落とした」
 「説明を聞いていなかったんですか、それは逆恨みですよ、あの魔物は上位種というだけでなく、毒と魔法も使います、放っておいたら全身に毒が回って数時間もたたないうちに死ぬんです、それに魔物は子供がいたそうですね、規定をご存じでしょう」

 この時期、森の中での魔物討伐には気をつけて、子連れのは場合は戦闘は避けることと言われていたが、男は魔物の持っている魔石を欲し、戦闘を挑んだ。

 「仲間の負傷ですが皆、ひどい、冒険者として復帰は難しいでしょうね、これはリーダーの責任だとは考えないんですか」

 ギルド職員の言葉に男は顔を歪めた、仲間の負傷は確かにその通りかもしれない、だが。

 「どうして、なぜ、あの薬師だけが無事なんだ」
 「それも説明しましたよね、彼女はガーディアンの石を持っているんです、魔物除けの石です」
 「聞いたことがないぞ、そんな石の話など」

 公にすることではありませんからねと職員は男を見た。
 そして、あなたの冒険者としてのランク認定は取り下げになりましたと告げた。
 規約違反ですよ、子連れを襲ったことで、今、魔物たちの動きが怪しくなっているんです、森の入り口付近で子供が襲われそうになったんです。
 あなた一人のせいで、責めるような口調と視線に男は黙り込んだ。

 「仲間も恨んでいるんじゃないですか、あなたの事を」
 「あ、あいつらだって、魔石が欲しいと、だから魔物が現れたときも」
 「薬師は止めたそうですが、このことについては」
 「あの女は、今回、臨時に雇っただけで仲間ではないんだ」
 
 お話になりませんね、これ以上の会話は無駄ですという相手の態度と表情に男は黙り込んだ。

 あの薬師のせいだ、仲間たちも怪我をしていた、だが、リーダーの自分の回復が一番、優先されるべき事ではないのかと思ってしまう。
 それに石、魔物除けの石の話など今まで聞いたことがない、少なくとも、この国では、そんな石の話など。
 

 その薬師の噂は瞬く間に広まった。
 いつも一人で行動し、森の奥深いところにも入って薬草を取ってくるのだが、魔物に襲われたことはないらしい。
 武器といえば採取の時の小刀一本だけだ。
 だが、最近になって魔物除けの石を持っているから、襲われないのだという噂が囁かれるようになった。
 噂を流したのは元、冒険者だ。

 「あの薬師は俺の腕を切り落としたんだ、回復ポーションを飲めば俺の腕は元通りになる筈だった」
 「しかしなあ、あんたを襲ったのは子連れの魔物、しかも上位クラスだろう、ポーションの効果が現れるまでに毒が回って死ぬ可能性もあったんじゃないか」
 「あの薬師は腕がいいということで雇ったんだ、なのに、まともな仕事をせず」
 「どうだかなあ」
 「それってやっかみ、逆恨みじゃねぇか」

 自分の言葉が信用されないことに元、冒険者は苛立ちを覚えた。
 回復ポーションで腕を元通りにと思ったが、駄目だった。
 どこの医者も首を振り、いや、それ以前にギルドから規約違反と冒険者の資格剥奪で相手にされないのだ。
 
 仕方ないと昔のコネを使い、男は城の高位貴族に話を持ちかけた。
 薬師が魔物除けの石を持っている、どんな魔物、高位、上奇種の魔物もそれがあれば近づかない。
 だが、そんな貴重なものを、ただの薬師が独り占めしていいわけがない、高貴な人間、貴族、王族が所持するべきではないかと。 
 貴族は男の言葉に、確かにと頷いた、そして、このことは王に進言しなければと頷いた。

 城に呼ばれた薬師は王と息子、数人の忠臣を前にしても臆することもなかった。
 魔物除けの不思議な石を持っているそうだが、それを見せてもらえないかという家臣の言葉に薬師は他人に見せるようなものではないときっぱりと言い切った。
 
 「まあ、たかが薬師のくせに」
 「立場というものを弁えていないと見える」
 「態度といい、いささか、生意気ではないか」

 「その石を見せてもらえないか」

 王の言葉に薬師は首を振り、見せられる者ではございませんと軽く頭を下げた。
 何故と王が尋ねると、石は自分の心臓に埋め込まれているからですと薬師は平然と答えた。

 「これは感謝の証です、ですが、この石の存在を知った者が悪しき心で近づいてこないとも限らない、奪われないようにと、その者が魔法で心臓に埋め込んでくれたのです」
 
 年老いた王は感謝のと呟いた、そんなにも感謝されることを目の前の薬師がしたのかと。

 「それほどに感謝される善行とは、薬師よ、聞いてくれ」

 最近、いやここ半年ばかり、自分だけではない息子や親族や森に出かけると森の中で魔獣に出会う事が増えた。
 戦う事もあるが、魔獣は逃げることが多い、最初は自分たちが強いから退けることができたのだと思っていた。
 ところが、最近になって、それが反対の情勢に、そして先日、一人の騎士が亡くなった。
 そして気づいたのだ、今までの魔物たちの行動は見せかけ、わざとではないかと。
 
 「魔獣は利口です、上位になるとわざと弱いふりをして相手を油断させようとします、ですが、長く続くとなると、遊ばれているのでしょう」

 薬師の言葉に、国王直属の騎士を侮辱するのか、王は武人としても、王子たちもそこらの冒険者に対してひけはとらないと反論する声が上がったが薬師は不快にさせたのなら亜やりますとかるく頭を下げた。

 「遊ばれるか、何故、そう思う」
 「王ともなれば恨みを買う事もありましょう」
 「確かに、綺麗事だけではすまない事も多いからな、ところでどんな恨みだと思う」

 薬師は顔を揚げてそうですねと独り言のように呟いた後、子殺しですかと呟いた。 
 
 「子供を殺された母親の恨みというのは、いかがでしょう」

 「ふむ、確かにな、だが、色々な罪を犯しても、それは断じて」

 薬師の唇がわずかに歪んだ。

 「私に石を下さった方は、そのとき怪我をしていました、自分は無理だ助からない、でも腹の子だけでも助けてくれと言われました」

 「なんだと」

 「母親の頼みを断ることはできません、ですが、子だけを助けても意味がないと思いました、私は多少、魔術の心得もありました、ですから決心しました、両方を助けようと」
 「なんだと、それは」
 「私とその母親を融合させたのてす、元々その母親も強力な魔力の持ち主でしたので問題はありませんでした、そして見つけたんです」

 薬師の姿が少しずつ変わり始めた、体は大きく膨れ上がり、その頭は人ではなかった。


 広間は血の海だ、王は手足を切断されて肉の塊となっていたが、死んではいなかった、ただ、長くはもたないだろうと自分でもわかっているわようだ。
 
 「な、何故だ、人ではない、魔獣を、助けよう、うっっ」
 
 人の姿に戻った薬師は自分は女ですと笑った、でも、その前に母親なんですよと呟いた。

 「そして、私の子供を、あなたはどうしました」

 このとき王は初めて女の顔を、まじまじと見た、そして声にならない叫びを漏らした。
 だが、それが最後だった。


王子と国王、その婚約者の選択と末路

2021-10-18 11:30:52 | オリジナル小説

この国の第一王子、エリックは周りの貴族令嬢たちを見て思わずにはいられなかった。
 若くて綺麗で愛らしい、それに比べて彼女はと思わずにはいられない。
 初めて会ったのは五年前だ、自分よりも年上の彼女の姿を見て、正直なところ、がっくりとして幻滅した。
 父親から、これから先の行動には気をつけるように、たとえ政略結婚といえどと、色々と言われたときには、まるで自分が信用されていない気持ちになり、内心、むっとした。
 互いに忙しくて、会うのも月に一度、そんな中、婚約者がいると知りながら周りの貴族たちは側室にと自分の娘たちを紹介してきた。
 最初のうちこそ、相手にはしなかった王子だが、一年、二年とたつうちに年下で甘え上手な娘達の誘惑に逆らう事が難しくなった、いや、気持ちがぐらりと動いたといってもいいだろう。
 自分は将来、国を継ぐのだ、だったら正妻以外に側室を持つというのもないことではない。

 自分は側室でも構いませんという彼女達の言葉と殊勝な態度を見ているうちに、心がほだされてくる。
 婚約を解消することは正直、難しい、好きな人ができたからといって、それを話して彼女が納得するだろうか。
 わからない、婚約して五年も経つというのに会った回数も両手の数と少しばかりだ。
 それだけではない、周りにはメイドや貴族たちが、しきたりや政に関しての事を色々と話していて二人きりの会話などあってないようなものだったのだ。
 彼女にも好きな男がいれば婚約解消が円満に婚約解消、結婚はなかったことにできるのではないか。
 そう思ったとき、ふと浮かんだのは浮気という文字だ、自分はいずれ王になる、不名誉な行動、言動は避けるべきだ、だが、彼女は貴族といっても自分とは立場も地位も違う、それなら。

 「ねぇっ、聞きました、あの噂」
 「ええ、殿下の婚約者でありながら、他の男性と」
 「本当かしら、信じられないわ」

 場内で自分の婚約者の噂が流れているという話を聞いたとき、うまくいったとエリックは思った、話が大きくなり国王だけでなく、婚約者の父の耳にも入れば婚約破棄に持ち込めるかもしれない、ところが、一人の貴族がおかしいと言い始めた。
 彼女は日々、王妃教育や教会、街の慈善活動に忙しくて、そんな暇はない筈、現に昨日も自分は彼女を見かけたが、数人の侍女と一緒に教会と城を行ききしていた、近々街中に病院を作る為に、忙しくしているというのだ。
 その言葉に他の貴族達も田鹿にと賛同した。
 
 「これはもしかして、王子の継承を阻もうとする人間の仕業かもしれませんわ、本人ではなく婚約者から噂を流して貶めようとする、よくある手ですわ」
 
 その言葉に周りの貴族達は、はっとした顔つきになった。
 
 「確かに、言われてみれば王妃教育だけでなく」
 「もし、そうなら噂の元を突き止めなければ」
 「王家に対する謀反、反逆の意思表示かもしれませんわね」


 まさか、そんな噂が流れているとは、エリックは驚いた。
 
 犯人探しが始まり、あっという間に噂を広めた男は詰問、拷問を受けることもなくすぐに白状した。

 「まったく、どういうつもりだ」

 力なくうなだれるエリックは言い訳をする元気も気力もなかった。
 自分の婚約者が年上で気に入らないという理由が分かると王だけではない、周りの家臣達もどこか冷めた目で自分を見ている事に気づいたエリックは改めて自分のしたことを後悔した。
 言葉こそないが、周りの人間、皆が呆れているのがわかる。

 「それ程まで、この結婚が嫌なら解消を認めよう」
 
 エリックは驚いた。
 平民落ちか、別邸で外に出ることもなく一人で暮らすか、どちらかを選べと言われてエリックは迷った。
 王族の暮らしを捨てて平民になど自分には耐えられそうにない。
 だが、監禁同然で外出もままならない生活など、正直、耐えられるかと聞かれたら、それも嫌だと思ってしまう。
 迷った末に彼が選んだ、それは自分にとって最良の選択だ、そう思っていたのに。

 しばらくして自分の父親、国王が再婚したという話を聞いたとき、エリックは驚いた。
 先妻をなくしてずっと独り身だった、これから先もそうだろうと思っていたのだ。
 一体、自分の母親となる女性はと思っていると、ある日、面会したいと女性が尋ねてきた。
 父親と結婚し王妃となった女性を見てエリックは驚いた。
 今まで自分がどんな美女にも劣らない美貌の女性だったからだ。
 
 「ここでずっと一生、暮らすのですね」

 気の毒なことですわと呟く彼女にエリックは思った、自分を救ってくれるのではないかと、結婚してから市政や平民達からも慕われているという話をメイドや周りの世話してくれる者達か聞いていたからだ。
 優しそうな慈悲深い女性だ、血の繋がりがないとはいえ、息子が、こんな不遇な状況にいるのだ。
   
 「僕を救ってくれませんか」

 母と呼ばなかった、それというのも、こんな綺麗で若い女性が父親のような年寄りにはと思ってしまう、もし、自分が、ここから出ることができたら。
 
 「私にはそんな力はありませんわ」
 「いいえ、できます、あなたが父上に頼めば」

 無理ですわと首を振る彼女が慌てたように部屋を出ていく、だが、その後ろ姿にエリックは内心、笑みを浮かべた。
 大丈夫だ、あの人は自分を助けようとする、絶対にだ。
 自分が手を握った時、緊張したように、だが、わずかに顔を赤らめていたではないかと。
 
 ところが、その日の夕食後、自分を尋ねてきたのは父親だった。

 幽閉同然の身になって以来、会うことはなかったが、父親は以前より若く見えるとエリックは驚いた。
 やはり、若く、綺麗な妻を娶ったせいだろうか。

 「おまえの罰が決まった、正式にな、ここから死ぬまで出る事はない」
 
 その言葉にエリックは驚いた。

 「おまえは気づかなかったのか、間近で見ても」
 「何がです」
 「私の妻が、誰なのか、分からなかったのか、本当に」

 近づいた国王が耳元で囁くように言った。

 「彼女は、おまえの」

 エリックは声を上げた。

 
 

 男の絶叫が聞こえる、その叫びに可哀想に女は気の毒だわと呟いた。

 「何を馬鹿なことを」

 打ちひしがれたような女の姿に国王は呟いた、おまえのほうがと言いかけて言葉を飲み込んだ。
 毎日、寝る間を惜しんでの王妃教育、合間を見つけては城や街の事を気にかけて、だが、そんな努力を無駄にしたのは自分の息子だ。

 だから、この結婚は償いといってもいいのに、こんなにも綺麗な女だったのかと驚いた。
 ドレスに宝石、最上級の高価なものというわけではない、だが、少し飾りたてただけで、こんなにも変わるのかと驚いた。
 自分の選択は間違いでなかったと、国王は改めて実感した。

 

 「あの女が嘘だ、信じられない、ぼ、僕は」

 別邸では今夜も元、王子の叫びが聞こえていた。


最終回 イシュヴァールでの、その後  バツイチで○女ですからと言われて

2021-10-17 16:33:50 | ハガレン

 イシュヴァールに帰ると仕事に追われて、数日、一週間などあっというまに過ぎてしまった。
 その間は以前と変わらない生活サイクルだったが、時折、見られているなあと視線を感じ、顔を向けるとぱっと視線を逸らされてしまい、多少なりとも気まずさを覚えてしまった。
 

 薄暗い天井を見上げながら目を閉じるのだが、なかなか眠ることができないことに正直、参ったなと思ってしまう。
 今のところ、寝るのも別々で彼女の方から何かを言ってくる訳でもないが、期待しているのだろうかと思ってしまう、だが、そのときのことを考えると自分のほうが落ち着かないのだ。

 
 夕食後に紅茶を飲むのは彼女の好みだ。
 仕事中、日中はコーヒーなら、何倍でも飲めるが、気分が落ち着くのは紅茶だと思ってしまう。

 「なかなかですね」
 「なんだい」
 「帰ってきてから進展というか、何もないですよねー」

 間延びした声で言われ、内心、マズイと思いつつ、言い訳を考える。
 
 「ああ、色々と、その、準備というか、すまない」
 「そうですか、準備って避妊の用意とか」
 
 生々しい話に思わずどきりとする、歳の差があろうが、男と女だ、余程の事が限り妊娠、子供ができる可能性はあるのだ。

 「子供なんて、この歳で欲しいなんて思いません、それよりマルコーさんが側にいてくれた方がいいですよ」
 
 彼女の言葉に、ほっとしながら長生きできるように頑張るよと答えるのが精一杯だ。

 「贅沢は言いません、でも一緒に寝るぐらいはセックスはしたくないならいいです、でも、同衾はしたいです」
 
 一緒に寝る、か、同衾、頷きながらも少し不安になる。
 
 「なんだか、悩んでいる様子だし、凄く困ってません」
 
 そんな事はないと思いながら、いや、端から見たら、そんな封に見えていたのかと思いながら視線を移して、おいでと手招きをした。
 少し緊張しながら、これぐらいならできると思いつつ、目を閉じる。

 唇のチューじゃないんですねと言われて、マルコーは、ああ、まあと言葉をの濁した。

 「膝に、乗っていいですか」

 返事を待たずに自分の膝の上に乗ってくる重みに慌てたのは無理もない、小さな子供なら余裕だが、ずっしりとした重みに落としたらと両手でしっかりと支えると首に腕が回された。

 「振られなくて良かった」

 ほっとしたような声に自分も助手がいなくならなくて良かったと呟いたが、その瞬間、しまったと思った。
 慌てて言い訳がましく訂正すると、いいんですよと笑いを含んだ声が返ってきた。

 「大人でバツイチですからね、許します、大抵のことは、でも、振られたり、捨てたりするのはなしですよ、あと浮気もできたらしないでください」
 「いや、私は、そんなにモテないというか」
 「ノックスさん、飲みに行くと美女が、いつもセンセーって集まってくるし」
 
 その言葉に、ふと友人の顔を思い出した、客商売というのもあるが、確かに女受けはいいなと。
 
 「ところで、降りてくれないか」

 重いですかと聞かれて、すぐには返事できない、女という生き物はこういうとき、素直に頷けば怒るか、気分を悪くするんだろう、そのどちらかではないのかと思ったからだ。
 
 「気持ちが、何というか」

 「いいじゃないですか、バツイチ女なんですから」
 「なんだね、それは」
 「甘えたいんです、それに○女ですよ、この歳で」

 その言葉に、えっとなった、今のは聞き違いかと思ってしまう。

 「まあ、途中まではいっても、なんというか、結果、最後まではいかなかったんですよ、肉を食べる女とセックスなんてできないと言われたんですよ、ショック、でした」
 
 いくら菜食主義のベジタリアンとはいえ、どういう理屈だと思いながら、自分の肩に頭を持たせかけている女が気になった。

 「恥ずかしい事、言ってしまいましたね」

 いや、そんな予想外の発言を聞かされる自分の方が、別の意味で恥ずかしく感じる、しかも、この体勢でと思いながら、マルコーは息を吐いた。


 「大丈夫かね」
 
 ベッドの上でうつ伏せになった女の背中、いや、腰をマルコーは摩りながら尋ねた。

 マルコーさんは平気なんですかと聞かれて、彼女ほどではないと思いつつ、大丈夫だよと返事をすると、恨めしそうな目で見られてしまう。

 「足の間が、ひりひりというか、大きいんですか、マルコーさんのって」
 「い、いや、普通だよ」

 他人とアレを比べるなど、この歳では滅多にない。

 「今更だけど、週末にすれば、ううっ」

 こうなったのは、自分からだ、悪いと思いながら明日の午前中は休んでと言うと女は、いいえと首を振った。

 「助手が休むなんて、しかも戻って来たばかりなのに」

 こういうところは真面目なんだなと思いながら、自分の腰に手を伸ばす、やはり、少しは疲れを感じるなと思いながらマルコーはベッドに体を横たえた。
 眠気を感じる、自分も疲れているのだ、だったらいいだろう。

 
「明日は午前中、休もう、私もだ、たまにはいいだろう」

 医者にも休みが必要ですねと言われてマルコーは頷いた。


告白、玉砕はしませんでしたが、幕引き、診療所に帰ります

2021-10-15 15:13:52 | ハガレン

「顔色がよくないな」

 ホテルに戻ったマルコーの第一声が、それだった。
 ちょっと寒いですかね、わずかに顔をそらした彼女の表情と態度に、どこかぎこちなさを感じて、薬を貰ってきたからとビタミン剤を飲ませる。

 「ノックスさん、何か言ってませんでしたか」

 別にと言いかけて言葉に詰まってしまったマルコーは自分が、ひどく緊張していることに気づいた。
 
 「もし、もしもですよ、助手を辞めたら困りますか」
 
 すぐには答えることができなかった。

 「なんだね、いきなり、あー、その、なんだ」

 自分を見る彼女の視線が、もしかして知っているのではというような目つきでたまらなくなって、この際だ、どうせならと思ってしまった。

 「もし、もしもだよ、その好きな相手に振られたからといって助手を辞める必要はない」
 
 返事はない、代わりに沈黙だ。

 「ノックスさん、全部、話してくれなかったんですか」
 「途中で息子さんが帰ってきてね」

 話す雰囲気ではなかったんだよ、その言葉に彼女は明らかにがっくりと気落ちしている。

 「思いきって告白してみたらどうだね、振られることが前提な言い方をしていたが」
 「バツイチですよ、あたし、しかも、この国の人間じゃないし、不利な条件が多すぎて」

 声が少しずつ低くなり、途中で途切れた。
 消極的だと思いながら、大丈夫と励ましたところでカラ元気を出せと言っているようなものだ。

 「相手次第だろう、誰だね、その、いや、言いたくないなら無理にとはいわないが、その」

 自分が援護してなんとかうまく取り持ってと思ったが、首を振られてしまった。

 「もう、言ってしまおうかな、このままだと、ぐだぐだで、気持ちが」
 
 ぶつぶつと呟く彼女はマルコーをじっと見た。

 

 「おいおい、じゃあ、ネェちゃんは自分から言っちまったのか、まあ、それで、おまえさんどうすんだ」
 「正直、予想もしなかった」

 「まあ、なんだ、ここでおまえがネェちゃんを振っちまったら、助手がいなくなって、一人で診療所に帰ることになっち
まうが」

 「それは正直、困る、今、患者の数も増えているし、その」
 
 気まずそうな顔のマルコーをにやにやとした笑いでノックスは楽しそうに見た。

 「真面目だなあ、相変わらずよぉ、少しぐらい狡くてもいいんじゃねぇか、おまえさんは」

 その言葉にマルコーは神妙な顔つきになった、自分の性格など今更変えられるものではない、だから困っている、その為に相談に来たのだ。

 「悩んでる時点で答えはでてるようなもんだろう、それとも、あっちの方は使いもんにならねぇとかいうんじゃねえだろうな」
 
 何を言い出すのか、返事に困ったマルコーはわずかばかり、俯いたまま無言になった。

 (確かに、他人に相談したところで、答えを出すのは自分だ)

 自分の事なのに答えは出ていると言われても正直、それがわからない。

 「おっ、帰るのか」
 「ああ、それに診療所をずっと留守にする訳にはいかない」

 
 ホテルに戻ると、どんよりとした表情の彼女に、私、振られるんですかと聞かれ、マルコーは言葉に詰まった、そんな言い方をされると困ってしまうというか、大弱りだ。
 
 「生理痛はどうだね、良くなったら帰ろう、長く留守にするわけにはいかない」
 
 自分の言葉に驚くというよりあっけに取られたような呆然とした表情の彼女を見て、慌てて部屋を出ようとしたマルコーだが、引き止められた。
 
 「あの、それって、もしかして、今夜一緒に」
 「駄目だっ」
 
 即答でマルコーは返事をした。

 「あっ、いや、と、とにかく、数時間前だぞ」

 顔をあげると自分の目の前にはドアがある、もし鏡があったらどんな顔をしているのだろうと思いながら、気になってしまい後ろを振り返ると、すみませんと言われてしまった。


 「謝らなくても、いや、その」

 ベッドに近づいて、どんな言葉を書けたら良いのかと迷う。

 「とにかく、帰ってからだ、正直、こういう事は、あまり」

 半身を起こした彼女の背中に手を回して軽く背中をぽんぽんと叩くのが、このときのマルコーには精一杯だった。

 

 

 

 シリーズ、最終話です。

 次回は帰ってからの事は短編か、突発で書こうと思います。