日々、雑多な日常

オリジナル、二次小説、日々の呟きです。

ケーキは奢りで、後にサバトへと繋がるのであった、そして彼女はバツらしい  4

2021-05-31 15:40:34 | ハガレン

 自分とノックスの講義は受けるといった彼女は必ず顔を出していた、ところが一週間前から姿を見せなくなった。
 住んでいるところも知らないし、何かあったのだろうかと思ってしまう、いずれバイトをするような事を言っていたが忙しいのだろうか。

 

 「ああ、姉ちゃんか、講義を受けに来ないって」

 その日、午前中の講義が終わって、昼食を食べていたとき、マルコーの質問にノックスは不思議そうな顔になった。

 「いや、いつも来てるじゃねえか」

 友人の言葉にマルコーは?という顔になった。

 「いや、ここ数日は顔も見ないから」

 ノックスは言いかけようとしたが、突然、おーいと手を振った。

 「奢ってやるぞ、こっちに来い」

 食堂に入ってきたのは白い髪の女性だ、最近、最近、講義を受けに来たイシュヴァール人の女性だ、知り合いかいとノックスに尋ねるとニヤニヤと笑っている。

 「やっぱり、気づいてなかったのか、おい」

 サングラスを取った相手の顔を見て、えっとなったのも無理もない。

 髪を染めたのかねとマルコーが尋ねると色々と事情があってという返事だ、だが、声も顔つきも元気がない、すると、丸刈りにするしかねぇなとノックスが呟いた。

 「黒に染めたらどうだ、まあ、髪なんていずれ伸びるだろうが」

 「やったんです、でも、洗ったら真っ白です、以前より、白くなった気が」

 「ものは考えようだ、いずれ白髪になるのか少し早くなったと思えばいいんじゃねぇか」

 友人の容赦ない言葉に、それは言い過ぎじゃないかと思った、だが、こんなのは錬金術でもどうにかなるもんではないだろう、その言葉にマルコーはぐっと言葉を飲み込んだ。

 「奢ってくれるんですよね」

 ノックスの皿を見た女は、ローストビーフサンドを掴むと女は、ご馳走様ですとかぶりついた。

 「おい、それは楽しみに取っておいた奴」

 


 こんな真っ白な髪なんて、駄目だ恥ずかしくて表を歩けないと思っていたのは十日程だ、慣れとは恐ろしいと思いながら帽子を取ると芝生の上にごろりと寝転んだ。
 
 「格好いいよ、ハルさん」
 「そうだよ、ここは外国、どんな恰好をしてもありだよ」
 「2.5ミュージカルのキャラみたいだよ」
 「そうそうアニメキャラの○○に似てない」
 
 励ましてくれるのは自分より年下の子供達ばかりだ、ありがとうというしかないだろう、顔を伏せたまま、地面に寝転んで、のの字をかきながら、もし、このまま元の髪色に戻らなかったらどうしようかと思う。
 子供の頃の髪色は茶色っぽくて、周りからは外人と冷やかされたものだ、だが今は、本当に外人だよ、そんな事を思いながら起き上がろうとして視線に気づいた。
 すぐそばには褐色の肌の男が立っていた、講師のスカーが自分を見下ろしていた。

 (な、何っ、睨まれている)

 「最近は講義に来ないが、どうした」

 そういえば、ここ数日、出てなかった、もしかして怒られている、自分を見下ろす男の鋭い視線は怖い、どんな返事をすればいいのだろうか、曖昧に愛想笑いで誤魔化すのは日本人特有の者だが、ここは外国、そんな事をしても意味がない気がする。
 

 

 「坊主にしろはまずかったな、まあ、言ってしまったもんは仕方ねえ、マルコー、頼む」

 慰めてやれと言われてマルコーは、はあっという顔になった。

 「ケーキでも奢ってやれば機嫌もよくなるだろう」

 また勝手なことを、友人の性格は分かっているつもりだが、さすがに坊主になんて、自分だったら絶対に口にはできないと思ってしまう。
 仕方ないとマルコーは席を立った。

 午後の講義の事もあるので帰ってはいないだろうと思い、建物の外に出て歩いていると見つけた、だが、一人ではない、傷の男スカーも一緒だ。
 だが、様子は変だと思ったのは彼女は地面に座り込んでスカーは立っているのだ。

 「スカー先生って、怒ると怖いんでしょ」
 「男子生徒、ぶん殴られたとか、女相手でも」
 「まさか、そこまでしないでしょ」
 「真面目に受ける気がない奴は出て行けって、追い出されて泣き出した子もいるって噂、知らないの」

 自分の近くを通り過ぎようとした女性の会話が何故か耳に入る、もしかして怒られているのだろうか、確かに傍から見ても、穏やかというか、普通ではないと思ってしまう。

 「すみません、スカー先生」
 
 いきなり、大きな声で叫んだ彼女は地面に額をつけた、つまり、土下座だ、近くにいた人間は何事と驚いた顔で足を止めて見る、無理もない。
 駄目だ、放っておけない、マルコーは二人に近づいた。

 「スカー君」

 何かあったのかねと、自分に気づいたスカーの顔は少し戸惑ったような顔つきだ。
 その時、グーッと音がした、それは明らかに空腹を訴える音だ、自分ではない、スカー、でもなかった、すると一人しかかいない。

 


 軍の建物を出たところにある喫茶店は軽食、デザート何でもありの店だった。
 女性なのでてっきり、オシャレのつもりで染めているのかと思ったとマルコーは事情を聞いて改めて納得した、気弱な少女の付き添いで変装して講義を受けたのか。
 
 「スカー君は見た目は怖いと思うかもしれない、強面だが、誤解されやすいというか、実際はそうじゃないんだ」
 
 後で自分からも事情を説明しておくからとマルコーは言葉を続けた、フォローしているつもりだが、彼女の表情を見るとできているのか、そうでないのか微妙なところだ。

 店員に手渡されたメニューを見て悩んでいる様子の彼女は頷くと、いいんですかと無言になった。

 「チョコとイチゴの濃厚フォンダンショコラ、カシスベリーのソルベ添え、でも、クラッシックストロベリーのショートケーキも美味しそうだし、迷います」
 
 どっちも七百円です、高いですよねという言葉にマルコーは無言になった、もしかして自分が選択、選べということだろうか、一度聞いただけではケーキの名前など、まるで魔法の呪文だ、こういうときは、あれだ、両方、頼みなさいというしかない。

 

 ケーキなんて久しぶりだと思いながら食べようとして、ふと視線を感じる、マルコーがじっと自分を見ている事に気づいた。
 
 「半分こしません」

 幾ら奢りだからといっても自分だけでバクバクと食べているのはよくない、一人で食べるより一緒に食べる人がいると、もっと美味しく感じますよと言いながら皿をマルコーの前にぐいっと押しやるとマルコーは遠慮するが、そこは強引にだ、結局、二皿のケーキは仲良く半分ずつ食べる事になった。

 
 「ケーキだけで足りるかね、他に何か頼もうか」

 断ろうと思いつつ、やはり物足りないと思ってメニューを見ると、カツサンドとアボガドとエビのベーグルサンドが美味しそうだと思い注文する、これも半分ずつだ。
 
 「マルコーさんは好き嫌いとかないんですか、肉が駄目とか、魚は嫌いとか」

 「あまりないね、肉、魚、野菜も殆ど食べるが、どうしたんだい」

 「食べ物の好みって大事ですよね」

 意味が分からずマルコーは不思議そうな顔になった。

 


 その日、ノックスとマルコー、スカーは軍の建物内のカフェで、講義の事を話していた。

 「最近、若い女の受講生が増えたらしいな」

 ノックスの言葉にスカーは、一瞬、むっとした顔になった、そういうことは関係ないと小声で呟くように返事をするが相手は聞こえてないのかわざとスルーしているのか、気にするそぶりもない、そんな二人のやりとりをマルコーは珈琲を飲みながら黙っている。
 そのときだ、ここでしたかと近づいてきたのは彼女だ。

 「あのー、マルコーさん、今日、夕飯、奢りますから食べに行きませんか」

 何故、自分を誘うのかとマルコーは不思議そうな顔になった、ケーキを奢ってくれたじゃないですか、そう言われても、半分ずつ、分けて食べてしまったのだ。

 「おい、何、企んでる」

 「嫌だなあ、ノックスさん、友人が集まって食事をするだけなんです、是非とも来てほしいんです、でも一人ではなくて、そのー」

 「おいおい、そりゃ、魔女の集会、いや、サバトだな、で、マルコーは生け贄か」

 スカー君に頼みなさいと首を振ったマルコーに、駄目なんですと彼女は首を振った。

 「実はケーキを食べてた時、見られてまして男と一緒だと言われてしまったんです、その時点で認定されてしまいまして、参りました」

 「おおっ、バツイチともなると女は怖いなあ、なあマルコー」

 「バツイチ、いや、私は」

 マルコーは何か言いかけて視線を動かしてノックスはニヤニヤと笑っているそして、ここまでくるとスカーも気づいたようだ。


講師と生徒、色々とあります キンブリー、スカー、オッサン二人とヒロインの受難 3

2021-05-30 15:34:41 | ハガレン

「うーん、粗悪な染料が混じっていたみたいですね、毛根まで染まってますよ、これ根元からばっさりと切った方がいいかもしれませんよ」

 えっ、もう一度、言ってくださいと鏡に映った女は嘘ですよねといいたげな顔で美容師を見た。

 「女性だから丸坊主ってのは、ちょっと駄目ですよね、ウィッグとか一日つけてたら、蒸れて、それこそ伸びるのも遅くなるだろうし」」
 
 どうする、今だって、おばさんって言われるのに婆様になってしまった、髪を染めるなんてするんじゃなかったと思うが、もう遅い。

 


 「木桜のお姉さん、一緒に講習を受けてくれませんか」

 日本人の少女に言われたのは数日前の事だ、スカーという男性の講義を受けたいのだが、怖くて一人では駄目だというのだ。
 肌は黒くて、髪は白くて最初はインド人かと思ったらしい、外国人が苦手だという、だが、それだけではない、顔が怖い上に講習の張り紙を見て友人達と悩んでいたら、その時の会話を聞いていたのだろう。

 「やる気のない奴は講習なんて受けるな、そんな人間に教える義理はない」

 とドスのきいた声で、それで講習を受けたくても行くことができないというのだ。

 「顔もしっかりと見られたし、もし、教室に入って顔を見られたら、あの時の子だって、追い返されるかもしれません」

 半泣きの少女は見るからに子供だ、見ていて気の毒と思ってしまう。
 それにしても、女の子のグループに、もう少し、やんわりとした言い方はできないのだろうか。
 でも、行って本当に追い返されたら、それこそ本人は落ち込むだろう、何かいい方法はないかと考えたとき、変装を思いついた。
 髪を白く染めて、イシュヴァール人みたいに、それで講習を受ければ、同郷の人間のふりをすれば追い返されることはないだろう。
 ただ、染めるといっても一日だけのカラーや染め粉では手間もかかるし大変だ、だが、日本とは違う世界なので試しに自分が染めてみてということになったのだ。

 当日、少女はターバンと帽子を合わせたような、イシュヴァールの間で子供がかぶっている茶色の布をかぶり、眼鏡をかけて、そして隣には成人した白髪の女性、教室に入ると、イシュヴァール人とひそひそと囁きが聞こえてきたが話しかけてくる者はいない、完璧だと思ったのだ。
 ところが、授業開始と同時に入ってきた男は室内を見回すと、つかつかと少女の側にやってきた。

 「おい、帽子を取れ」

 少女は俯いてしまった、だが、その肩がふるふると震えている、まずい、フォローしなくては。

 「すみません、彼女、美容院のカットで失敗して気にしているんです、邪魔なら一番後ろの席に行きますから」

 ほんの数秒、教室内は、しんとなった。

 「そうか」

 ぼそりと呟くような声だ。

 (な、何、この迫力、無言の圧は)

 女は席を立ち、後ろに行こうとして幼女に声をかけた、ところが。

 「おい、動くな、授業を始めるぞ」

 こうして、一日目はようやくクリアした。

 数日が過ぎた、一緒に講習を受ける友達ができるまではしばらく付き合う事にしようと思っていた、だが、その役目は一週間もしないうちに。  
 


 予想外でしたとキンブリーは正直、戸惑っていた、今現在、政府は、軍は何をやっているんだ、管理体制がなっていないと世間から白い目で見られている、形見が狭いという奴だ。
 そんな自体を払拭するために試験の難易度を下げルだけでは駄目だ、国家錬金術師という存在の印象を変えるべく講座を開く事になった、そして自分は講師に選ばれたというわけだ。
 最初は十人にも満たない受講者の数にキンブリーは内心、駄目だ、この企画は長続きしないだろうと思っていた。
 ところが、一週間、十日と日を追ううちに受講者の数が増えてきたのだ。

 

 「キンブリー先生、質問があるんです」

 その日、講義が終わり、室内を出ると数人の女性が自分を追いかけてきた、またかとキンブリーは思った。
 講座が始まった当初、先生は恋人いるんですか、お茶を飲みに行きませんかと声をかけてきた女性が数人いた、内心、辟易していたが、その女性達はいきなり、あたし達、ドボジョなんですと声を張り上げた。

 「ど、ドボジョ、なんです、それ」

 聞き慣れない言葉にキンブリーが面食らったのも無理はない。

 「建設業です、先生は錬金術で爆発を得意とされるんですよね、習得したら工事現場で役に立ちます、だから試験を受けたいんです、ここで講座を受ける以外に、絶対に必要な勉強、習える施設とか、知りませんか」

 「試験、錬金術師の国家試験ですか、あなた方、本気ですか」

 三人の女性達の顔をキンブリーは思わず凝視した、驚きの方が勝っていたのかもしれない。。

 「この講座では初歩的な心構えのようなものを教えているのですが」

 「あたし達、前の国では現場で働いていました、この国で働くなら爆裂を習得したいたいんです」

 「軍に就職するつもりはないんですか
  
 それは、彼にしてみれば、ごく当たり前の質問だった、土木、建設業、女性の職人がいないわけではない、だが、少ないのだ。
 
 「現場で働いていたと言いますが、あなた方、歳は」

 「二十三です、皆、同期です」

 思わず言葉に詰まった、若く見えたからだ。

 「重機に触れないなんて嫌だ」
 
 「施行管理は自分でしたいです、絶対」

 断固として譲れないといわんばかりの力強い言葉にキンブリーは次回の講義までに調べておきますと半ば引きつった笑いを浮かべた。

 「あなた方は、この国の人間ではないみたいですね、シン国でしょうか」

 違いますと三人の若い娘は首を振った。

 
 

 講座では初歩的な事、心構えみたいな事を教えればよいというのがマスタングからの説明だったので、それほど堅苦しい内容にしなくてもいいだろうと思っていた。

 ところがだ、日を追うごとに受講者が増えてきたのだが、試験を受けたいので準備や必要な知識はどこで学べるのかという質問が出てきた。

 「マルコー、おまえさん、もしかして、試験の事、聞かれたんじゃねえか」
 「ああ、だが、そういうことは、まさか」
 「俺もだ、最初はびっくりしたが、しかも、この国の人間じゃねえのに、ちょっと無理があるんじゃねえかと思うんだが」
 
 ノックスは考え込むような表情になった、錬金術の事を知らない人間が一から習得など時間がかかりすぎる、大の大人だって、四、五年、続けて落ちるなんてことも珍しくない。
 軍の敷地内のカフェでノックスとマルコーは顔を見合わせた。
 
 「この国の人間じゃねえから、色々と考えるんだろうな」
 「つまり、こちら側へ来た人間というか」
 「姉ちゃんと同じだ、全く、扉を開いた奴を恨むぜ」
 
 ノックスの言葉に、安易に試験は勧められないとマルコーは呟いた。

 「一度、大佐に話をした方がいいかもしれねぇな」

 仕事が増えるかもしれないが、初心者講座で満足しろというのが無理だとノックスは友人の顔を真顔で見た。

 


 あの人、イシュヴァール人かな。
 髪は白いけど、目は赤くないから生粋って事はないだろ。
 知らないのか、移民とか多いから、混血とかで色々な容姿の人間がいるんだよ。
 彼氏、いるのかな。

 アメストリス人の青年達がひそひそと噂し合う、中には声を駆けようとした者もいたが、躊躇ってしまうのが女性が一人ではないからだ、周りにはいつも、黒髪の少年、少女達がいて熱心に話しているのは講義の内容だ。

 「理解→分解→再構築って、うーん、分かるような、そうでないような」
 「試験を受けて合格しないと分からないってことか、俺、馬鹿なのか」
 「あんた、模試では中ぐらいだったでしょ、勉強好きでしょ、なのに、さっぱりなの」
 「そういう、おまえは、どうなんだよ」
 「あ、あたしは、そのなんとなくというか、分解は分子を細かくしたというか」
 「ダメダメじゃんか、それじゃあ」

 講義が終わると難しい、お手上げといいつつも皆がノートを見せ合っている。

 「ハルさんはわかる」
 
 一番の最年長である彼女に視線が向けられた。
 
 「正直、ううーんと思うところはある、実は医療関係の講義を受けていたから、なんとなく共通するところはあるのかと」
 
 皆の視線が集まった。

 「何、それ、医療って、先生、二人いたよね」
 「他のところは講師が一人が多いけど、つまり、それだけ学ぶ事が多いって事」

 医療の講義を受けた方がいいんじゃない、少女の言葉に少年が、講義が重なっているところもある、よく考えないと真剣な顔になった。
 
 

 
 

 「君たち、アメストリア人、この国の人間じゃないだろう」

 教室を出た時、声をかけられた。
 
 「この講座は初心者ばかりだから物足りないじゃないかな、特に貴方、歳も皆より離れているし、良かったら紹介してあげてもいいんだが」

 女性は不思議そうな顔で紹介ですかと聞き返すと相手の男性を見た、自分もだが声をかけてきた相手も同じくらい、30代ぐらいの歳に見える。

 「ああ、そこなら、ここよりももっといい環境で学ぶ事ができる、国家試験への道も」

 「余計なお世話よ」

 女性のすぐそばにいた少女が叫んだ。

 「国家試験は云々として、あたし達はシロウト同然よ、いきなりそんな話を聞かされても胡散臭いと思ってしまうんだけど」
 
 その言葉に皆が顔や視線を交わした、明らかに、この男も話も怪しくないかといわんばかりだ。

 「そうだよな、それに一人だけに声をかけて、おかしいだろ、何かあるのかよ」

 少年の言葉に、相手はむっとした顔になった。

 「これだから試験の難易度を知らない人間は、君たち、日本という国から来たんだろう、アメストリア人でさえも試験に受かるのは難しいんだ」
 
 「そうだよ、先生だって現役の錬金術師なんだ」
 
 「僕らと一緒なら、先生も快く承諾してくださるよ」

 男性を援護するように側いた若い男性も口添えする、それはちょっと興味があるわねと女が笑った。

 「弟子や生徒をなかなか取らない先生もいるんだ、生粋のアメストリア人だって、でもね、僕らと一緒なら、その施設で」
 


 「おい、おもしれぇ、話をしてるじゃねえか」

 突然、割って入ったのは眼鏡をかけた中年の男性だ。

 「話を聞いてりゃ、試験に受かるのは確実だっていわんばかりだな」

 「詳しくは話せませんが、こういうことは公にしたくないでしょうし」

 「おい、聞いたか、マルコー、そんな施設や国家錬金術師の話、聞いたことあるか」

 男の後ろから現れた小柄な男性、マルコーという名前に男達は一瞬、えっという顔になった。
 もしかして、結晶の二つ名を持つ人じゃないか、本人か、小声でひそひそと話すが、周りには聞こえてる。
 
 「聞いた事はない、だが、そういう施設などが新しくできたというのなら軍に届けがあるはずだ」

 マルコーの言葉に男性達は無言になった。

 「講習を真面目に受けにきたらしいが、ナンパはついでか、度胸は褒めてやる、ところで、おまえ、試験を受けたことがあるみたいな口ぶりだな、詳しい話を聞く必要がありそうだ、おーい、そこの兄さん」

 軍服姿の男性が慌てて駆けつけてきた。

   
 「試験受ける奴の調査とか、してんのか」
 「いえ、そのようなことは」
 「誰でもイイって事はねぇだろ、訳の分からん奴の面倒までみるほどできた人間じゃねえぞ、俺たちは」

 若い軍人に背中をつつかれて去って行く男達の後ろ姿を見送っていると、一人の少女がノックスに頭を下げた。
 
 

 「先生、ありがとうございます」
 
 「知らせてくれてありがとな、ああいう奴は他にもいるだろう、何かあったら、俺たちや、軍の人間に言うんだぞ」

 「かっ、格好いい」

 少女がぽつりと呟いた。
 
 「先生、あたし看護婦になりたいんです、先生のところで助手は必要ですか」

 「あー、間に合ってるぞ、とにかく、ここで最低限の知識を覚えろ、おまえらもだ」

 ノックスはひらひらと手を振った。
  
 


錬金術の講師として打診を受けたおっさん二人と飲み屋での出会い 2

2021-05-29 12:56:35 | ハガレン


 「錬金術師を目指す貴方へ、これだけは知っておきたいこと」
 「二つ名を習得するための必須条件」
 「禁止事項、これだけはやっていけない、錬金術師の心得」
 
 他にも色々なタイトルがつけられた本が積み上げられているが、ノックスとマルコーは内心、なんだ、これはと思ってしまった。
 数日前のことだ、二人の医師は突然の呼び出しを受けて、セントラルの軍本部に呼ばれた。
 至急 と言われて何事かと思ったのも無理はない。
  
 「つまり、我々二人に講師をして欲しいということかね」

 マルコーの言葉にロイ・マスタングは頷いた。

 「本業の医者の仕事も大変だろうが、ここは一つ、元、軍に勤めていたOBとしてお願いしたい、ちなみにお二方以外にも協力して貰う人選には話を通してある」
 
 錬金術師といっても皆、自分の研究や仕事に忙しくて、そんな暇などないだろうと思ってしまうのは無理も    ない。

 「ゾルフ・J・キンブリー、スカー、イズミ・カーティスは暇があるときの特別講師として迎える事に、勿論、この私も講師として錬金術師を目指す者達
に、他にもアームストロング家の長男、それから」

 知っている人間なら誰でもいいのか、こういうのを手当たり次第というのだろう、大統領選はどうしたんだとノックスが呟くと、勿論、両立させるつもりだとマスタングは豪語した。
 
 


 「で、引き受けるという事にしたのか、まあ、俺にしても簡単に断る事はできんな」
 
 ノックスの言葉にマルコーは頷いた、退職したとはいえ軍で働いていたわけだ、一応というか恩もある、後になって分かったことだが、打診を受けた人間達も迷ったようだが、結局のところ全員が引き受けたようだ。
 マスタングの必死の頼み込み、大統領選に受かったら何かしらの便宜を図るなどと言ったのかもしれない。
 
 
 「診療所の方はどうなんだ、大丈夫なのか留守にして」
 「ああ、たまには休暇もいいものだよ」
 「将来的にはこっちで暮らすのか」
 「引退したら、それもいいかなと考えているが、先の事はわからんよ」
 
 おまえさんは働き過ぎなんだよ、医者の不摂生だぞとノックスに言われてマルコーは苦笑いをした。
 若い頃からの習慣はなかなか直りそうにない、仕事をしている方が楽なんだと思うときがあるくらいだ。

 「どうする、ホテルをキャンセルして、俺の家に泊まるか」
 「いや、今週一杯は、その後はもしかしたら泊めて貰う事になるかもしれんが」
 「そうか、だったら、今夜は飲みにでも行くか」

 飲みに行くか、その言葉を聞いてマルコーは迷った、付き合いが長いせいか友人の性格は分かっているつもりだ。
 若い頃から仕事で煮詰まると、反動からかはじけるというか、騒いで醜態を晒すということが何度かあった、しかし、お互い、いい歳だ、少しは落ち着いただろうと思ったのだ。


 店に入り、席に着くとボトルとつまみが運ばれてきた。

 「まあ、国家試験の難易度を下げるっていう案、大佐が躍起になるのもしかたねぇな」
 
 ノックスの言葉に、マルコーはマスタングの顔を思い出した、大統領選に出馬するというが、今は結局のところは中間管理と変わりない、上からの命令には黙って従うしかないのだろう。

 
 「少しでも世間の心証を良くしようってところなんだろうな、現役の錬金術師を使うというのも」
 
 「どれだけの人間が集まるかが問題だが」

 「ちょっと知ったかぶり、囓っただけのモグリの錬金術師が真理の扉を開こうなんてするから、大佐も余計な仕事を背負い込むことになった訳だ、まあ、気の毒といえばそれまでだが、多少は同情の余地ありってところだな」
 
 ノックスはぐいっとジョッキを空にした。

 
 「この話は置いといて、どうだ、綺麗な姉ちゃんに酒でもついで貰うか」
 
 ノックスの言葉にマルコーは、うっっと言葉を飲み込んだ。

 「い、いや、私は」
 「おまえは昔から頭が堅い、せめて下の方は、もう少し」
 
 話が別の方向にいきそうだと思った時だ。

 「こちらの席でよろしいですか」

 自分達の隣の席に案内されたのは女性、しかも一人だ。

 「中ジョッキでエールを、あと、食事をしたいんですが」
 
 サンドイッチ、カレーならすぐにできますが、店員の言葉に、女はお願いしますと頷いた。
 
 「おい、姉ちゃん」
 
 ノックスは声をかけた。

 「一人なら、こっちに来て一緒に飲まねぇか」

 「お、おい、いきなり」

 「奢ってやるぜ、美人の姉ちゃん」

 女は一瞬、きょとんとした顔つきになった。

 「お世辞が上手ですね」

 「オッサンだからな」

 女はマルコーを見ると、いいんですかと声をかけた、まさか、断る事などできない。

 
 こういう組み合わせはどうなんだろうと思ったら意外に話は弾んでしまうというか、会話が途切れる事はない。
 二人が医者だと知ると一瞬、考え込むような表情をした後、女はバッグから取り出したカードを二人に見せた、自己紹介はこれでいいですかと。
 
 「おっ、初めて見たぜ、軍が出したのか、おい」
 
 ノックスは見ろとカードをマルコーに渡した。

 証明カード、木桜春雨(きざくら はるさめ)出身 日本、帰国する医師は現在なし、カードの書き換えは・・・・・・。

 「おい、俺たちは一応というか、軍の関係者だが、このカードは他人には、あまり見せるなよ」

 「偽造とかされますか、あっ、何か犯罪にとか」

 「今のところ、変な噂は聞かねえが、何かトラブルに巻き込まれないとも限らねえからな」

 
 

 目が覚めた時、ホテルの部屋、ベッドで寝ていたことにマルコーは驚いた、昨夜の事を思い出す、友人のノックス、それと途中から、記憶が少しずつ鮮明になってくる、そうだ、いつもより飲み過ぎて、彼女がホテルまで送ってくれたんだと思い出した。
 今度から飲み過ぎないようにしよう、そんな事を思いながら起き上がるとサイドテーブルのコップに気づいた、紙が挟んである、何かメモでもと思いコップを持ち上げると紙の間に数枚の札が挟んであった。

 

 「おおっ、マルコー、昨日は楽しかったって」
 
 診療所にやってきた友人の顔をノックスは不思議そうに見た、すると三枚の札とメモを見せられてノックスは、ああと頷いた。

 「いや、奢るっていったのはこっちだからな、そうか、おまえ、撃沈してたからな、まあ、いいだろ」

 「全然よくない、これを見てくれ」
 
 マルコーは上着のポケットから取り出したものをノックスに見せた。

 「財布だ、身分証明のカードまで入っている、ドアの前に落ちていたんだ」

 「ははっ、結構、ドジだなあっ」

 笑ってる場合じゃないぞと思いながら、マルコーは考えた、困っているはずだ、こういう場合、どうすればいいと考え、まずは軍の施設に行くしかないと考えた。


 

 「錬金術師という仕事、どんなこと、何ができるの」
 「興味があるけど、わからないと悩んでいる、あなた」
 「錬金術師を目指しているなら、まずは、この講座を受けてみないか」
 「国家試験の前に心得だけでも知りたいなら、この講座はぴったりだ」
 「何故なら、講師は全員が現役の錬金術師だからだ」
 「真理の扉を開く前に、自分の心の扉を開いてみるのもいいんじゃないかな」


 掲示板の張り紙を見ているだけで、萎えてしまうというか、疲れてしまうと女は思った。
 自分のいた世界にもあった、こういうのは。

 「ただ聞き流すだけでいいのです、あなたはいつの間にか英語がぺらぺらに。
 「講師は、あの難関大学を卒業した有名人ばかりです」
 「勉強のやり方が分からないと悩んでいるなら一度、講座を受けてみませんか」

 怪しいという雰囲気しかない煽り文句のオンパレードの講座、確か友人が受けて酷い目に遭ったなあと思い出す。
 こんな張り紙で人が集まってくるのだろうか、だが、ここは軍の敷地内だ、ネズミ講、怪しい講座の勧誘などは有り得ないだろう。
 錬金術というのは映画や小説でもかなり難しいというのを読んだことがある、講座で一般の人にも知ってもらって理解を深めようというやつだろうか。
 張り紙を隅々まで読んでいた女は、講師という部分を読んで、あれっと思った、確認しようと顔を近づけて見る。
 そのときだ、いきなりバシッと音がした、尻を叩かれた彼女は掲示板に顔面をぶつけそうになった。

 
 
 「姉ちゃん、いいケツしてるじゃねえか、いやあっ、もしかしてと思ったら予想は当たったな、なあ、マルコー」

 友人の行動に顔をしかめたのも無理はない、いきなり声もかけずに尻を叩くなどセクハラと言われても仕方ないぞと思った、だが、振り返り自分達の顔を見た彼女は驚いた声を上げただけで、マルコーは内心ほっとした。

 

 「マルコーさんが拾ってくれたんですか、よかった」
 
 「運が良かったんだ、感謝しろよ、俺たちに」

 店で落としたとい事にしておいたほうがいい、ホテルの部屋でなんてドジな話は笑い話にもならない、これからは気をつけろというとノックスの言葉に真面目な顔で気をつけますといった後、女は掲示板を見た。

 「ところで気になっていたんです、この講座って二人も講師として参加するんですか」

 

 掲示板の広告を見た二人は、互いに顔を見合わせた、興味あるのかとノックスが尋ねると。

 「この国の人間じゃないと駄目とか、講座なんて学生時代に戻った気分ですよ、ただ、この広告の文句は少し怪しいというか、笑ってしまうんですけどけど」
 
 ふーんと頷いたノックスは隣の友人を見るとにやりと笑った。
 
 「いいんじゃねえか、俺とこいつの講座なら問題ないだろ」

 「お、おいっ、いいのか、そんな勝手に」

 「いいんだよ、こっちも暇じゃねえ時間を割いて、講師やるんだ、もし誰も来なかったら寂しいだろ」

 マルコーは想像した、確かに、受講者ゼロなどという事はないだろう、だが。

 講義は週末からとなっていた。

 


ブラッドレイ、渋いオヤジに、ハグとキスはお礼です

2021-05-28 17:02:28 | 二次創作

 Chromeのエラーのせいでブログを新しくしました。

 ハガレンの二次です、現在、pixivとハーメルンで投稿しています。

 

 

 確か自分は取り調べを受けていたはずでは、だが、目が醒めるとベッドの中だった、しかもふわふわというか、まるでホテル仕様みたいでシーツも気持ちがいい、びっくりした。

 「起きたようだね、気分はどうだい」

 低音、響く、まるで映画俳優みたいな声に思わず視線視線を向けて体を起こす。

 「自分が今どこにいるかわかるかな」

 


 「だから、俺は言ったんだ」

 思いっきり机を叩いたのは元、大佐、いや、現在は大統領選に向けて必死に動いているロイ・マスタングだ、彼は怒っていた、以前から国家錬金術師の試験が厳しすぎる、これでは将来、その道を目指す人間がいなくなるのではないかと危惧されていた。
 試験の難易度を少し下げてはどうかという意見が世間だけではなく軍内部でも囁かれだしてくると放ってはおけなくなった。
 最初は、そんな不満など放っておけば良いという意見もあったが、それに反発する人間が現れた。
 試験に落ちた研究者崩れの人間だ、ただのシロウトなら良かったのだが、なまじある程度の知識があるだけにまずかった、失態を犯したのだ。
 真理の扉を開く事だけをすれば良かったのだが、そのときに障害、アクシデントが起こった。
 
 「関係のない人間がこちらに来た、つまり召喚というやつか」
 「巻き込まれたようです、しかも一般人、市井の人間です」
 「これは、そう、軍の管理体制が問われても仕方ないですな」

 おい、試験の難易度を下げると決めたのはおまえ達ではないかとマスタングは高官達の顔を見た。
 だが、手のひら返しというか面倒ごとは若者に任せる、これは試練だという目で周りは睨みつけてくる、自分一人が悪役なのかと思ったのも無理はないだろう。

 「実は帰還させる方法があったのですが、こちらに残りたいと希望する者もいて」
 
 まさかと高官達は驚いた、どんな理由かと聞くと男は少し困惑気味な顔になった。

 

 な、なんだとー、マスタングは心の中で絶叫したい気分になったのはいうまでもない。
 テーブルの上の書類は召喚された人間の報告書だ、性別、年齢、家族、今まで自分がどんな環境で過ごしていたのかという事が書かれているが、中には結婚の文字もあるしかも驚いたことに、サンバノ、ジェルソ、ダリウス、キメラの三人だ。
 性格にいうとこの三人は普通の人間ではない、合成獣、キメラだ。

 「おい、知ってるか、ジェルソさんなんか、嫁を二人ももらったらしいぜ」
 「おい、それって重婚とかじゃねえのか」
 「キメラだし、軍人ってこともあるから特別待遇だろ」
 「おれ、見たぜ、ありゃあ、どう見ても十代だろ、しかも二人とも可愛いんだよ」」
 「子供が早く欲しいってせがまれてるらしい、信じられねえ、美的感覚が違うのか」

 人間ではない合成獣の姿の方が可愛くて一目惚れだと街中で可愛らしい女の子に両腕を掴まれて歩いている姿を見たという話を聞いたとき、マスタングはそんな馬鹿な話があるかと思った。
 だが、軍の所内でばったりと遭遇したのだ。

 「これで、あたし達二人とも、ジェルソさんの嫁、ですね、子供も早く作りましょうね、お姉ちゃんは」
 「あたしは働く、ジェルソさん一人の給料だと大変だと思うのよ、将来の事も考えないと、子作りは任せた、サポートするから男の子、女の子、最低でも二人ずつ産んでね、子供ができたら一軒家も視野に入れてる、勿論、持ち家をね」
 「お姉ちゃん、そこまで考えているの、凄い、あたしなんか」
 「子供は若いうちに産んだほうがいいのよ、ねっ、ジェルソさん」

 ジェルソは喜んでいいのか、少し複雑な顔だ。
 二人の美少女は虫類大好きで子供の頃からトカゲや蛇をこっそりと可愛がる、いや、内緒で飼っていた、将来は大型の外国産の蛙や蛇を飼いたいと思っていた、ところが、飼育には許可だけでなく、厳しい検査が必要だった。
 だが、問題は他にもあった、二人の親がいないこと未成年、姉は19、妹は16歳、家庭環境の問題、親がいないというだけで、これではペットもだが、結婚もできないと思っていた矢先、突然二人は、見知らぬ世界に来てしまった、そこでジェルソを見て一目惚れ、恋に落ちたのだ、ペットではない、話すこともできる、しかも大きいのだ、どこかの錬金術師がデブと言ったらしいが、姉と二人を両腕に抱えてもびくともしない力持ち、しかも軍人、普通のサラリーマンよりは高給取り、これを逃す手はない。
 そして、自分達姉妹二人を嫁にしてと猛烈アタックの末、無事に結婚までこぎつけた。
 
 若い女の子に腕を取られて歩いているいる太った蛙男を見たとき、マスタングは自分の目を疑った。
 若くてイケメンの自分は恋人、彼女はいる、だが、それだけだ、結婚したら一人に縛られると思っていたからだ、だが、二人は反則ではないだろうか。
 
 大統領選、もうどうでも良くなってきたと思ったのも無理はない。
  

 

 「気分はどうだね」
 
 眼帯をした男性が自分を見下ろしていた。
 
 「あいにくと珈琲しかなくてね、すまない」

 手渡されたカップを受け取ると女は少し不思議そうな顔で男を見上げた、聞きたい事は色々とあるが、まずは飲んで気持ちを落ち着けようと思ったのかもしれない。

 「融通の利かないところがあってね、軍人というのは仕事熱心といえば、それまでだが、色々と状況を聞いているうちに君は」

 まるで警察の尋問みたいに色々と聞かれた事を思い出した、そして一番嫌な事を思い出して惨めな気分にになってしまった、泣きたくても、それもできなくて、机に突っ伏してしまって、それからどうしたんだろうと思って顔を上げて男性を見た。

 「その、恥ずかしいところを」

 ほんの少しの沈黙の後、女性なら無理もないという言葉が返ってきた。

 「君を元の世界に帰る事もできるらしいが、だが、そうしたくはないだろうね」

 「その、仕事辞めて、アパート引き払って」

 口からこぼれるように淡々と出るのは自分の話は赤の他人からしたら興味はない、つまりは他人ごとだ、だが、吐き出したいという気持ちがあったのかもしれない。

 「すみません、こんな他人の事情なんて」

 男はベッドの端に腰掛けると続けてと促した。
 
 「話した方が楽になることもあるだろう」

 「心機一転、新たにやり直そうと、つまり、仕事も男もアパートも引き払って、気分を変えようと旅行に行こうと思ったんです」

 「そうか、それで、今の気分はどうだね」

 訳が分からないうちに知らない場所に来て、警察、軍人に色々と質問されて怖いという気持ちになってしまった、だが。

 「今は、そんなに悪い気分ではないです」

 「ほう、何故だね」

 「愚痴を聞いて貰ったら、悩んだって仕方がないだろうって気分になってきました」

 ははっと男は笑った、それはいいことだと。
 
 「貴方がいい男だからですよ」

  
 何か困った事があったら軍の移民サポートセンターに来ればいいと言われて女は、ありがとうございますと頭を下げた。

 「ブラッドさんでしたね、軍人さんなんですよね」

 「退職したばかりなんだよ、だから、わかるだろう、周りの目が、用もないのにオヤジが来ているといいたげな」
 
 廊下を歩いているとすれ違う人たちが皆慰霊して頭を下げている、退職したというが、もしかして偉い人ではと思いながら女は隣を歩く男性を見た、貫禄があるというか、どう見ても下っ端の役人には見えないのだ。

 「色々とありがとうございました」

 自分の愚痴、たまっていた不満を吐いてしまった後、ブラッドレイと名乗った男性は色々な話をしてくれたのだ、殆どがオヤジギャルというやつだ、十代の少女なら訳がわからないとスルーするだろう、だが、三十路のアラサー、おばさんには丁度よかった、大笑いして腹が痛くなるくらいだった。

 「まさか、この年になって女性を泣かす事になるとは思わなかった」

 とブラッドさんのあっさりとした言葉を、それも真面目な顔でいうものだから、また笑いたくなった、これもギャグなんだろうか、ついさっきも涙が出るくらいオヤジギャグで大笑いしたばかりだというのに。
 軍人という事もあるだろうけど、廊下ですれ違う人は皆、背も高い、日本ではないんだと言うことを改めて実感してしまう。

 もうすぐ建物の外に出るというところまで来た。

 「ブラッドさん、色々とありがとうございます、愚痴を聞いてくださって、元気づけてくれて、何かお礼をしたいんですけど」

 旅行鞄には最低限のものしか入っていない。

 「気にしなくていい、移民もだが、君のような巻き込まれて来た人間は、これからが大変だ、礼などは」

 ブラッドさんは言葉を切った。

 「そうだな、この年になると男も図々しくなってくる、お礼のキスぐらいはいいかな」

 どこか楽しそうな笑顔だ、オヤジ、おじさんの笑い顔が素敵、可愛いと思えるのは自分もギャルや少女ではなくなったんだろうと思ってしまった。

 持っていたスーツケースを床に置いて、両手を伸ばすと大柄な男の体を抱きしめる、自分がハリウッド映画のボンッ、キュッ、ボンの女優さんみたいなら絵になるんだけど思いながらハグをした後、両方の頬にキスをした。

 

 「なっ、何やってんだ、あのオッサン」
 「引退したって言ってたけど」
 「非常勤じゃなかったのか」
 
 これを見ていたのは若い軍人だけではなかった、ロイ・マスタングもだ。
 
 木桜 春雨(きざくら はるさめ)性別女性、年齢36歳、年寄りは少し若く見えるらしい、日本人。
 真理の扉のアクシデント、錬金術師の不始末ということで、こちらに来ているのが殆どは女性らしいということが判明したのは後のことだ。


やっと、なんとか

2021-05-28 16:15:55 | 日記

 ここ最近というか、今朝からChromeがエラー続きで困ってしまった、noteやブログ、Twitterは、ブラウザによって反映しないのだ、一体どういうこと、もう少ししたらエクスプローラーも終了するっていうから、どうなんだと正直、焦ってしまったわ。
 ブラウザーによって、正常に動く、反応しなかったりと色々とあるみたいで訳が分からん状態だ、pixivもちょとあれれという感じだし、でもハーメルンは変わらずでホットしたわ。