うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

花弁と亡霊

2024年04月12日 | カズコさんの事

春の嵐は、

遠くから桜の花弁を運んで来た。

 

おはようございます。

強風から逃げるように足早に社内へ向かう途中、

水溜まりに、小さな花弁が3枚落ちているのを見つけた。

私の勤める会社の近くには、桜の木は見当たらない。

「ああ、川沿いに桜の木があったはずだ。

あんな遠くから、風に飛ばされてきたのか。」

せっかく花が咲いたというのに、風は何を怒っているのやら。

私は、私の髪をもぐしゃぐしゃにする風が憎らしくなって、

見えぬ風を睨んでやろうと目を見開いた。

すると、小さな花弁が、

荒れ狂う風をからかうように、ひらりひらりと舞っているじゃないか。

春の花は、なんとしたたかなのだろう。

 

実家のかずこも、春の嵐だ。

芽時枯れ時は、精神的に不安定になる。

特に認知症を患う人は影響を受けやすい。

爽やかな朝だというのに、起き抜けに、

「お前も、ジジィも、ぶち殺したらぁ。」

と叫びながらトイレへ歩いて行く。

「もう、目がいっちゃってるな。」

さて、今日はどう乗り切るか、あれこれ考えながら仏壇に火を灯す。

 

トイレから戻って来たかずこは、

仏壇に手を合わせる私の背中に罵声の矢を放ち続ける。

「お前もたいがいや。頭がおかしいわ。

こんなバカとなんて、とてもじゃないが一緒におれんわ。

頭おかしい。はよ死ね!」

私は自身を鎮めるために、ひたすら手を合わせ続けながら、

頭の中では、

この合わせた手で、かずこの脳天を思いっきりチョップする妄想が止まらない。

(ああ、殴り飛ばしてぇ。おお神よ、殴り飛ばしてぇわ!)

 

さすがに、手を合わせ続けるのも飽きてきて、

私は意を決して、くるりとかずこへ振り返った。

かずこは、目の周りが紅潮しており、髪はぼさぼさの落ち武者の亡霊みたいだ。

私の脳内は引き続き、チョップしてからキックして突き飛ばす妄想に進んだ。

「お前みたいなもん、半殺しにしたらぁ。」

と、かずこは私を睨んでいる。

私の妄想は、ついにチョップしてキックして突き飛ばした後の

かずこの状態にまで辿り着いた。

落ち武者の亡霊は、いとも簡単に突き飛ばされ、

独りでは立ち上がることも出来ず、ただ驚いた顔で私を見上げている。

「無理だ・・・。」

私は小さな声で呟いた。

「母さん、何をそんなに怒っとるん?」

我に返った私は、妄想の罪滅ぼしをするような気持ちで、

かずこにぴったりくっついて座り、かずこの背中を撫ぜた。

 

私ら母娘は、そもそも、そんなガラじゃない。

優しく励まして背中を撫ぜるような場面は、

テレビドラマに出てくる家族でしか知らない。

母親の背中を撫ぜるなんて、ハッキリ言って恥かしい。

ところが、かずこが認知症になって以来、

私は、歯の浮くような台詞や、

欧米のホームドラマばりの行動を取るようになった。

ボケたかずこには、分かりやすい言動でないと伝わらないからだ。

妄想に苦しみ亡霊と化したかずこの心を振るわせるには、

短くてキャッチーな名台詞と欧米のボディーランゲージなのだ。

コツは、女優になり切り、恥かしがらずにやるのみだ。

だから、父や我が家のおじさんには出来ない。

普通に「ごめんなさい」と言うのさえ憚る。

そんなガラじゃないんだ、私は。

けれど、そんな私でも、一度は言ってみたい言葉が幾つかある。

例えば、「おっしょはん、堪忍しておくれやす」だ。

何のドラマで聴いた台詞か覚えていないが、

我が人生で、この台詞が言える機会は、なかなかやって来ないだろう。

がしかし、

「ぼくは死にましぇん。貴方が好きだから」

これは、ボケた人には使いやすい台詞だ。

今度また、かずこが「死ね!」と言ったら、

耳に髪を掛けながら言ってみようと企んでいる。

 

かずこは、背中を撫ぜられながらも、まだ意味不明なことを話し続ける。

ただ少しずつ、言葉や内容が穏やかになっていくのを感じた。

「死ね!」とはもう言わない。

「わしは、はよ死にたい。」と言う。

私はかずこの背中のみならず頭も撫ぜ続ける。

落ち武者の亡霊は怒りの矢を放った後の顛末かのように

やるせなく萎んでいく。

私は、その肩を抱き寄せ、

最終的には抱きしめて撫ぜくり回していた。

もはや、ホステスに絡む酔っ払いみたいだ。

その時、かずこはようやく、ため息のように言葉を吐き出した。

「苦しいんや」

「うん、苦しいんだね。私も一緒に戦うから。」

その言葉をきっかけに、

私は、かずこのぼさぼさだった髪をちょんまげに整え直した。

 

やれやれと思ったが、心には棘が残る。

私は、まるで嘘つきだ。

一緒に戦うなんて言いながら、そのちょっと前まで、

かずこをチョップしてキックしてやりたいと思ってたくせに。

私は大ウソつきの偽善者だ。

その棘がチクリと刺さる。

そんな時、春の嵐に舞う花弁を見て、

狂風に遊ぶ花弁のようにしたたけであれと思い直した。

 

そんな我が家では、

最近、白湯がブームの白湯男子がいる!

おたま「やっぱり朝イチは白湯だ」

最近、巷でも白湯男子ってのが流行ってるらしいわね。

 

おたま「美容にもいいらしい」

美容ねぇ・・・

 

あやさん?

あや「ふん、朝はどんぶり飯かっくらってなんぼってもんよ!」

マインドが、どんどん、うんこに似て来たな?!

 

※皆様のブログを読み逃げが続いており、申し訳ありません。