ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

嫌われ松子の一生:「物語」不在の時代の天才・中島哲也

2006年11月24日 | 映画♪
「下妻物語」の鬼才・中島哲也監督と中谷美紀がタッグを組んだ話題作「嫌われ松子の一生」。今年、何故か大ブレークしたBONNIE PINKが出ていたり、完成披露試写会の中谷美紀のコメントが話題を呼んだりと注目を集め、実際、その作品は所謂、「映画」の世界から出てきた監督では作り出せない中島哲也ワールドが繰り広げられている。物語自体はというと、教師からソープ嬢へ、更には殺人、アイドルきちがいのひきこもりとどうしようもない悲惨な転落人生を明るくコミカルに描いている。



【ストーリー】
昭和22年。福岡県でひとりの女の子が誕生した。お姫様のような人生を夢見る彼女の名は川尻松子。教師になり爽やかな同僚とイイ感じになるも、セクハラ教師のせいで辞職に追いやられる。ここから、松子の転落人生が坂を転がり落ちるがごとく、始まっていく。愛を求める松子の前にはさまざまな男が現れるが、彼女の選択はことごとく不幸へと繋がってしまうのだった。53歳、河川敷で死体となって発見された彼女の生涯を探る甥が見たものは?

【レビュー】
この作品が独特の映像センスに満ちていることについては、まぁ、「下妻物語」の時の感想に書いたとおり。今回、この物語を見ていて感じたことは、ある意味、やはりCM出身の中島監督だからこそ明確に感じたわけではあるのだけど、映画の感想は全くなくて、もっと大きな意味で「物語」は既に消費されつくされしまったのだろうかということ。

そもそも人の一生をわずか2時間余りで収めようというのだから無理があるのは仕方がないにしても、この中島哲也監督が描いた「嫌われ松子の一生」においては、様々な個々の出来事が非常に断片的に描かれている。

本来であれば個々の出来事にも、その前後を含めた一連の「物語」が存在し、例えば何かのきっかけで誰かに興味を抱き、それがやがて愛情にかわり、付き合い、やがて様々な葛藤や愛憎があり、何らかの結末を迎え、次の出来事や感情の変化につながるものなのだけれど、この映画を見ているとそうした一連の「物語」は既に共通了解事項として改めて描くことはなく、描かれるのは「物語」の象徴的なシーンだけとなる。「何故、こんな風になったのか」ではなく「ある出来事」だけが描かれる。「物語」が不在なのだ。

「新宿梁山泊」や「M.O.P.」、「時空劇場」といった芝居が好きだった人間からすると、例えこれまでに発表された数々の「物語」でその展開が読めたとして、無数の登場人物固有の問題が背景にある以上、そこで繰り広げられる物語はただ展開がわかればいいというものではない。様々な関係性があり、悲喜こもごもの物語がある。だからこそ「物語」は「文学」となり、人間の真理や性を追い求めるものとなる。しかし現在というのは既にそれらの「物語性」「ドラマツルギー」というものを消費しつくしてしまったのだろう。

だからこそ求められるのは観客の予想を裏切る「展開」であり「演出」となる。

おそらく多くの女性の誰もが持っている極当たり前の願望を何一つ実現できない「松子」の人生に、(その一部分でも)自らの姿を重ね合わせながら「共感」することで、実は「松子」という固有の人物が抱えた「物語性」などはじめから必要としていないのではないか。そしてだからこそいたるところで楽しめる「演出」と、スピード観あふれる展開で感情移入できるシーンだけをつなぎ合わせる必要があったのではないか。

そのあたりの観客の感覚、誰も「物語性」など求めていずただ「楽しめること」「感情移入できること」が必要なのだということを、CMクリエイターであったからこそ中島監督は理解していたのだろう。

この「物語性」の不在という映画は、おそらくまじめに「芸術作品」としての映画や演劇、小説を描いてきた人では実現することはできないだろう。今、映画界でCMクリエイター出身の監督が注目を集める理由もこの辺りにあるのだろう。


総合:★★★☆☆
演出力:★★★★☆
私は心は震えません:★☆☆☆☆


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DVD「嫌われ松子の一生」


下妻物語 : CMクリエイターが切り開いたぶっ飛びコメディ



1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
曲げて、伸ばして、観る映画。 (TATSUYA)
2007-03-21 15:56:29
初めまして、達也です。
やっとDVDで観ました。
予想を遥かに超えるサイケでポップなぶっ飛び映画ですが、
非常に計算されよく出来ている映画でした。
あれだけ悲惨な女の人生をストレートに描いたのでは、
観れたものではありません。
中島監督の曲げて、伸ばしたアレンジに才気を感じます。
急いで「下妻物語」も観ましたが、良かったです。
次回作が待ち遠しいです。

ドラバさせていただきますね。
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