ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

JVC・ケンウッドの「M-LinX」「RYOMA」が直面するネットラジオの課題

2009年09月30日 | ネットビジネス
というか、問題はラジオ放送をネット上に再送信する場合に、現行の法制度や業界の商慣行では制約が多すぎて実サービスとして提供できないというところなのだけど…、というのがJVC・ケンウッド・ホールディングスの「M-LinX(エム‐リンクス)」のリリースを見た最初の感想。既にネット上でのラジオの再送信を行っているIPラジオ研究協議会「RADIKO」がIPv6網に特化しているのも、あるいは「Kikeruツールバー」がネットラジオにしか対応していないのも、何も技術的にラジオをインターネット配信できないからではない。著作権法上の扱い、それにともなう業界団体との調整がつかないからこそ、そうした制約の中でしかできていないのだ。

[JVC・ケンウッド続報],ラジオ放送をネットで楽しめる「M-Linx」,テレビとラジオを一つに:ITpro
JVC・ケンウッドが乗り出すラジオを利用した新事業--「M-LinX」「RYOMA」を2010年春から提供:ニュース - CNET Japan

ラジオをネットで再送信する際の課題としては、

1 地域限定性(放送エリアへの配信を限定する)
2 法制度(著作権法、放送法)との整合性
3 業界との商慣行との整合性
4 ビジネスモデル

が考えられる。

例えば、東京都内でFM横浜が聴けるのは普通のことだけれどこれは「電波は止められない」からであって、本来は放送区域外の扱いになる。「放送区域」というものを「(最低限)聞こえなければいけない範囲」と捉えるか「(最大限)聞こえる範囲」と捉えるか――これによって扱い方は大きく異なる。「(最大限)聞こえる範囲」として考えるならば、ネット経由ではFM横浜の再送信は不可となる。

今回、「M-LinX(エム‐リンクス)」では独自の「放送サービス地域特定技術」を利用しているとのことだが、これはユーザーによるエリア登録やIPアドレスベースというよりは、TVチューナーのチャンネル設定と組み合わせたものと考える方が自然だろう。とすると「電波」では聞こえてしまう放送区域外の放送をどのように扱うのか、このあたりは気になるところ。

課題2の法制度との整合性は、先の地域限定の問題もそうだが、ネットラジオなどのユニキャスト方式を「放送」と認めるのかという問題がある。現状、一定の条件を満たした場合のみマルチキャストによる再送信は「放送」扱いとされるものの、ユニキャスト配信は「通信」扱いのままだ。仮に今回のサービスがの利用デバイスが「テレビ」だとしても、インターネット配信では「放送」にはならないだろう。

そうした前提で考えた場合、著作権の扱いも「放送」にならない可能性が高い。これは課題3とも絡むのだが、通常、ラジオ局が製作している番組は「放送」のためのものであり、その番組を「通信」で利用するのだとするとそれようの権利処理/コストが必要となる。今の法制度や解釈のままでは、ラジオ局は出したくてもインターネット配信できないのだ。

現在、RADIKOやKikeruツールバーがあぁいう制約の下で行っているのは、まさにこれらの問題に直面しているからなのだ。

また「課題4 ビジネスモデル」の関係でいくと、減収が続くラジオ局にとってこれらのサービスへの投資をする余力があるかという問題がある。「M-LinX」では音声とは別に画像などの付加データをつけることができるということだが、これもWEBアプリケーションの1つだとするならば、音声コンテンツとの同期の問題はあるものの、技術的にはそれほど難しい話ではない。

しかしラジオ局からすると、ネット配信のためのシステム投資、配信コスト、運用コスト、権利処理に関わる追加コストが発生するものの、このサービスが直接収入を増やすわけではない。結果的にクライアントがつきやすくなるかもしれないが、かならずしもバラ色の世界が待っているわけではない。

ただ個人的には、ラジオ好きなこともあって、このような取り組みは続けて欲しいところ。

ネットベースであれば、聴取率なども実数ベースでとれるためラジオ局/クライアント双方にとっても有益なマーケティング情報を手に入れることもできるし、「ながら」視聴、「コミュニティ性」という点ではネットサーフィンなどとも相性がいいだろう。

ネットを通じてラジオが利用できること、そしてPCだけでなくもっと簡単にリビングで利用できること、この2つはラジオが復権するためには必要なことだろう。




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