終戦の日、上野に出かけた。とはいっても戦争とは無関係の『少女』に会いに行ったのである。東京都美術館のリニューアル記念展として、オランダの「マウリッツハイス美術館展」が開催中なのだ。目玉はフェルメールの描いた『真珠の耳飾りの少女』である。混雑は覚悟していたとはいえ、お盆だから、東京人の多くは地方に散って、都心はむしろ空いているのではないかと期待していたのだが、甘かった。やはり混んでいた。疲れた。 . . . 本文を読む
ダムサイトの説明板には「シナキ」とルビがふられているものの、土地の言い方では「シナギ」と濁るのかもしれない。群馬の西北部、旧六合村の入山地区の小字名で、草津温泉から流れ下る湯川の強酸性水質を中和させるためのダムがある品木だ。シナの国・信濃に近いことから、元は「科木」とでも書いたのではないかと私は想像するのだが、地名はともかく、かつてこの谷で営まれた品木集落はもはや無い。ダムに沈んだのだ。 . . . 本文を読む
廃村、廃校、廃炉、廃鉱と、「廃」は実に哀しい文字である。世間の都合で消えて行く人の営みを、その文字面だけで冷徹に指し示す。なかには「廃線」のように、哀しみに甘酸っぱさが加わるものもある。暮らしに密着しながら街の匂いを運んで来た鉄路の記憶が、ひとしおの喪失感をもたらすからなのだろう。群馬県西北部の山間地・六合村を、わずかに街と繋いでいた太子(おおし)線も、廃線となって40余年が経過した。 . . . 本文を読む