今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

316 浅間(東京都)・・・日だまりにミレーとカラス同居して

2010-11-23 10:22:38 | 東京(都下)

東京・府中市の浅間山は、山とは名ばかりの標高80㍍にも満たない小丘で、大昔に多摩川の蛇行によって削られた崖線(はけ)が、あたかも独立した山のように残った街なかの貴重な自然地域である。私は今日、その山にいるのではない。崖線下の台地に広がる都立「府中の森公園」を目指している。その所在地が浅間町1丁目なのである。山にしても森にしても、中心市街地からほど近い距離に、よくこれだけ緑が残ったものである。

府中市が財政豊かな街に見えるとは、以前に書いた。都立公園に建つ府中市美術館に行き、その思いをいっそう強くした。晩秋の陽光が燦々と差し込むロビーで屈託なさそうに談笑しているお年寄りたちは、恵まれた街生活を謳歌しているように見える。美術館は「市立」とはいえ本格的な施設だし、展示内容も充実している。折りしも開館10周年のバルビゾン絵画展が開催中だった。

地域の美術活動とも連動している美術館のようで、1階はそうしたスペースに活用されていた。市民絵画クラブの作品発表会は、入場者が誰もいなかったせいか、私は大歓迎された。絵が好きな皆さんが、一生懸命描いた作品ばかりであったが、一般の鑑賞を求めるのはほど遠い水準であった。それでもこうした館があることは、府中市民の楽しみを大いに助長していることだろう。

とはいえ市財政の豊かさと個人の幸福度に直接的な連動はない。例えば公園の中ほどに噴水のある円形広場があって、その回りをたくさんのベンチが丸く取り囲んでいる。3人が腰掛けられるベンチだが、そのいずれにもおじいさんが独り、腰を下ろしている。黙然と動かず、お年寄り同士の会話が始まる気配もない。だからといって彼らが屈託を抱え悩んでいるとは限らないわけだが、日差しが明るいだけ、むしろ寂しそうに見える。

超高齢化社会なのだろう、こうしたお年寄りを見かける機会が多くなった。かく言う私も、平日の昼下がりにのんびり自転車を漕いでやって来ているわけで、間もなくその世代に仲間入りするわけだから、日だまりのベンチにじっと座り続ける高齢者には身が詰まされる。社会が豊かになって公園が整備され、ミレーの名作が展示されている美術館が近くにあって、過ごし方の選択肢がグンと広がったのだろうに、一人で時間を潰す人々・・。

紅葉が始まった桜のトンネルを抜けると、私の好きなカラスがいた。カラスが好きなわけではなくて、柳原義達のブロンズ像だ。公園を抜けて住宅街を縫って行くと、ほどなくケヤキ並木が現れて大国魂神社に行き着く。このあたりが府中の中心だから「本町1丁目」だ。境内の脇では往事の官衙跡が発掘され、遺跡公園として柱穴が復元されていた。どれだけの人が足を停めるか知れたものではないが、街の歴史を知るには貴重な遺構だ。

改めて地図を見ると、府中の森公園の東側には自衛隊の基地があって、全体が人工的な区画であることが分かる。戦前は陸軍の燃料廠として厳重に管理され、戦後は米軍の司令部が置かれた。そうした土地の履歴が市民に広大な緑地を残すことになったのだけれど、街は長く、中心域をフェンスに閉ざされていたわけで、地図は豊かな街に残されたケロイドの傷跡のようにも見える。

公園からまっすぐ南へ、甲州街道に至る道が新設され、「平和通り」と名付けられた。その道をさらに下ると府中競馬場に至る。つまり芸術とギャンブルを《平和》が結んでいる、ジョークのような構造である。(2010.11.12)
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