何とも豪快な地名である。紀伊半島の東端、熊野と遠州の灘を分けて複雑に入り組んだ海岸線の先端、大王崎のことだ。かつて九鬼水軍が砦を築き、列島有数の船の難所を仕切った岬である。その城山に守られた漁師町・波切(なきり)は、静かな昼下がりを迎えていた。男たちは漁から帰り、まどろんでいるのだろう。街は、コトリとも音がしない。だから女たちは、満開の河津桜に埋まる大慈寺で、心行くまで花を愛でているのだった。
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