”奄美物語・久永美智子シリーズ”
まだ奄美の音楽の右も左もまるで分からぬまま(今だって分かっちゃいないのだが)、ただ我が心の中に突然生じた、行ったこともない南の島々へ寄せる熱病のような憧れの命ずるままに、手探りで奄美の音楽を探り始めた頃。
サイフをカラにしつつかき集めた奄美方面のCDやらカセットで出会った奄美のミュージシャンのうち、なぜか気になる人の一人が、この久永美智子という人だった。
彼女は奄美の、いわゆる”新民謡”の作曲家であり、彼女の作曲作品を集めたオムニバスCDがいくつも、奄美のレーベルから発売されている。また自身も歌い手として少なくないレコーディングも行なっている。奄美の新民謡界の現時点での最前線にいる人と言っていいのではあるまいか。
彼女のペンになる歌は決して高度なテクニックなど使ってはいないし、革新的な何があるとも感じられないのだけれど、どれも独特の魅力を秘めていて、聴き終えた後に妙に心の底にコツンと何かが残って忘れられない。そして、沖縄のそれのようにあからさまではないものの、音楽のその奥に仄かに、そして確かに響いている南の島の潮の香。これもたまらない魅力だ。
そんな人だったから彼女の足跡なりとも知りたく思ったのだけれど、あまりたいした資料にも出会えない。この人ならば、まあ、それほど年配と言うわけでもないけれど、それなりのキャリアも積んでいる人であろうし、まだまだ知らない名曲があるであろうと期待したが、実際あるのかないのか、それらにも出会えぬままだ。この辺り、なかなかもどかしいが、まあ、気長に追いかけて行こうと思う。
新民謡と言うのは、いわゆる民謡とは直接の関係はなく、大正末期から昭和の初期頃まで日本中を巻き込んで盛り上がった、大衆文化運動だった。新しい時代に即した新しい日本の民謡を作ろうという趣旨で、その実は地方の産業キャンペーンであったりしたのだったが。
有名無名の作詞家作曲家が運動に加わり、今日でも”日本の郷愁歌”などと呼ばれて愛唱されるいくつかの大衆歌が生まれはしたが、やがて”流行歌”の成立と共に新民謡は下火になって行った。
そんな新民謡が奄美の地にのみ生き残り、人々に普通に愛好されていると言うのもずいぶん不思議な話だが、それに関しては私も良く分かっていないので、また後日と言う事で。
ここでは、昭和30年代に全日本規模で大ヒットし、奄美ブームを作り出した、”島育ち”や”島のブルース”と言った曲が、つまり元々は奄美製の新民謡であった、と言う事だけ押さえておく。
久永美智子の経歴を調べて意外だったのが、私はきっと歌謡曲の作曲家の教えを受けた、つまり専門的教育を受けた作曲家だと彼女を思い込んでいたのが、まったく的外れだった事。
彼女は単なる歌好きな少女であっただけで、奄美は瀬戸内町の叔父の家で見つけた古いギターに手を触れてみるまで、作曲などに興味を持った事のない人だったようだ。
そう知ってみると、先に述べた彼女の作曲家としての魅力の底にあるものも判るような気がしてくる。久永美智子の織りなすのは、まったくの市井の音楽愛好家が、大衆の嗅覚だけを頼りに手探りで紡ぎ出して来たメロディ群なのだった。
今日、奄美の新民謡がどのような機能の仕方をしているのか、現地での扱いがよく分からずにいるのだが、こちら”内地”で奄美の音楽に興味を示す人々も、新民謡にはあまり関心を持ってはいないように思えて、残念な気がする。独特の奄美ローカルの歌謡曲としての味わいも心地良い今日の新民謡、私は好きなんだがねえ。
もうちょっと応援してみようよ、何か新しい展開も生まれてくるかも知れないし、もう一度”化け”させられたら楽しいじゃないか、とか言いたい気分の私なのである。
マリーナ号さんがそうおっしゃるのなら、一度は聴いとかないと!ですね。奄美新民謡。
なかなか微妙な存在である新民謡ですが、それゆえ、見守ってゆく気分はなかなかにスリリングな気がします。民謡と新民謡を繋ぐ奴とか、妙な動きが出てきたら面白いかと思うのですが。(その一方、奄美島唄系アイドル?の城南海ちゃんの現在製作中のデビュー・アルバムが気になる、気になる)
一般の人の方が歌が上手い。ああそれも、よくある話ですねえ。
奄美の新民謡を探していたらこちらのサイトに目が止まり投稿しました。
私は最近になり新民謡に興味が出てきました
五十四歳を過ぎてから奄美に戻り、初めて奄美の歌謡(新民謡)があるのを知り好きになりました。あまりにも新民謡の情報が少ないのでせめて奄美の演歌歌手の紹介したいです。
久永美智子は歌、上手いですよ。
性格は知りませんが。。。
トルコの音楽も説明されているので気にいりました。トルコ音楽が大好きな私は動画サイトでよく聴いています。
奄美の新民謡には、私も興味があるのですがねえ、なにしろ情報もなく、どのような動きがあるのかも分からず、興味は沈滞してしまっています。
奄美に戻られた、とのこと、もしそちらでご研究が進まれましたら、ぜひ、新民謡等紹介のブログなど立ち上げていただきたく思います。期待しております。
歌の上手い下手には、実は私、あんまり興味がないのです。自身の世界を表現しきれれば、それで十分なのであって、それが他の人に「うまい」と聞こえるかもしれない、「下手」と聞こえるかもしれない。でもそんなこと、どうでもいいことではないかと思います。自分が歌いたいように唱えばそれで十分です。他人からの評価なんて・・・