ウォリス展を観た日は、もうひとつ所用を済ませたあとで、義理の伯父夫婦の家に泊った。
兄嫁の父母、すなわちまる子(姪:中1)の母方の祖父母にあたる。
夕食は、近くの鰻屋。鰻だけでなく、酒肴も豊富な店だ。
伯父は鰻を好むが下戸なので、両方にとって好都合である。
ガラス戸を開けるとすぐカウンター、右手にテーブル席。
3人は、間を通って奥の座敷に上がった。
店に入るとき、カウンターの一番手前に座っていた男性が、私の顔をじいっと見上げたので気になったが、
その理由は、後に知れる。
伯父「まる子ちゃんはさ…アタマがいいんだよね。オレなんか子どもの時分はさ…鉛筆をなめなめ、
ゆっくり考えないと答案が書けなかったんだけどさ…まる子ちゃんはさ…サササッと書いちゃうんだよね。」
私 「そうですね。アタマの回転が早いんですよ。」
『ろくに問題を見ないからですよ。よく単位を書き落として兄に叱られています。早くても間違ってたら
意味ないでしょう。』
カギカッコ内は、心の声だ。
しばらくして、頼んでいない冷しトマトが運ばれてきた。
カウンターのお客さんからだという。
伯父は座敷からカウンターを覗き、戻ってくると硬い表情になって、料理に箸をつけなくなった。
そして、地震が起きたときのようにガバと立ち上がり、熊の子みたいに座敷を行ったり来たりし始める。
「K沢さんだ…。」
伯母に尋ねるとお隣さんだという。関係も良好らしい。
なんだ…因縁のある相手かと思った。
「○○さん(私のこと)。すぐにお礼に行ったほうがいいかな。それとも後の方がいいかな。」
真剣に悩んでいるのである。
「そりゃ、すぐに行った方がいいでしょう。」と私。
伯父は、少しほっとした顔で戻ってきたが、今度はお返しをすべきかどうか、おろおろ思案をし始めた。
「○○さんは、こういうことに詳しいから。」と伯母は泰然としている。
…別に詳しくはない。
「いや、今日はいいでしょう。好みも分らないし、あちらは先に呑んでいるのだから、お腹がふくれているかも。
それに3人連れです。お一人だけにお返しというわけにも行かないし。後日でいいのではないですか。」
納得したのか、伯父はようやく鰻に箸をつけ、あっと言う間にたいらげてしまった。
なにしろ去年、町内会の班長が回って来たときに胃炎を患って入院した人である。
なんでも受け止め方が素直で真面目なのだ。
翌朝。
私が出発するときに、ちょうどK沢さんが庭に出ていらした。
そこで私が何者であるかを述べ、昨晩のお礼をした。
その日もやや寒く、伯父はコートを貸してくれ、伯母と犬とでバス停まで見送ってくれた。
そのコートは「ゆき」がたいぶ短かったけれど、暖かかった。
ところで、冷しトマトのお返しには何が相応しいのだろうか。
兄嫁の父母、すなわちまる子(姪:中1)の母方の祖父母にあたる。
夕食は、近くの鰻屋。鰻だけでなく、酒肴も豊富な店だ。
伯父は鰻を好むが下戸なので、両方にとって好都合である。
ガラス戸を開けるとすぐカウンター、右手にテーブル席。
3人は、間を通って奥の座敷に上がった。
店に入るとき、カウンターの一番手前に座っていた男性が、私の顔をじいっと見上げたので気になったが、
その理由は、後に知れる。
伯父「まる子ちゃんはさ…アタマがいいんだよね。オレなんか子どもの時分はさ…鉛筆をなめなめ、
ゆっくり考えないと答案が書けなかったんだけどさ…まる子ちゃんはさ…サササッと書いちゃうんだよね。」
私 「そうですね。アタマの回転が早いんですよ。」
『ろくに問題を見ないからですよ。よく単位を書き落として兄に叱られています。早くても間違ってたら
意味ないでしょう。』
カギカッコ内は、心の声だ。
しばらくして、頼んでいない冷しトマトが運ばれてきた。
カウンターのお客さんからだという。
伯父は座敷からカウンターを覗き、戻ってくると硬い表情になって、料理に箸をつけなくなった。
そして、地震が起きたときのようにガバと立ち上がり、熊の子みたいに座敷を行ったり来たりし始める。
「K沢さんだ…。」
伯母に尋ねるとお隣さんだという。関係も良好らしい。
なんだ…因縁のある相手かと思った。
「○○さん(私のこと)。すぐにお礼に行ったほうがいいかな。それとも後の方がいいかな。」
真剣に悩んでいるのである。
「そりゃ、すぐに行った方がいいでしょう。」と私。
伯父は、少しほっとした顔で戻ってきたが、今度はお返しをすべきかどうか、おろおろ思案をし始めた。
「○○さんは、こういうことに詳しいから。」と伯母は泰然としている。
…別に詳しくはない。
「いや、今日はいいでしょう。好みも分らないし、あちらは先に呑んでいるのだから、お腹がふくれているかも。
それに3人連れです。お一人だけにお返しというわけにも行かないし。後日でいいのではないですか。」
納得したのか、伯父はようやく鰻に箸をつけ、あっと言う間にたいらげてしまった。
なにしろ去年、町内会の班長が回って来たときに胃炎を患って入院した人である。
なんでも受け止め方が素直で真面目なのだ。
翌朝。
私が出発するときに、ちょうどK沢さんが庭に出ていらした。
そこで私が何者であるかを述べ、昨晩のお礼をした。
その日もやや寒く、伯父はコートを貸してくれ、伯母と犬とでバス停まで見送ってくれた。
そのコートは「ゆき」がたいぶ短かったけれど、暖かかった。
ところで、冷しトマトのお返しには何が相応しいのだろうか。