フツーの見方

フツーの論理で考えれば当然だと思うことが、なぜかマスコミでは出てこない。そんな意見を書き残しておきたいと考えてます。

FMチューナーはオワコンか まとめ編-5

2023-05-09 | Weblog

・A&D DA-F930-GD '87 \44.8K

 A&D(AKAIと三菱Diatoneの共同ブランド)も有名な高級チューナーを出してるがオークション人気が高くて手が出ないので、安く出ていたこちらを参考として落札してみた。ソニーのシスコン最上級の ST-V9900TV はかなりレベルが高かったので、この機種でも音の傾向は解るだろうと考えた訳だ。
BLUESS氏のHPに一ランク下の DA-F830の調整記事があったので参考にできると思ったし、ランクの違いにも興味があった。
 セット価格369,800円というバブル期シスコン GX COMPO MC-930 のタイマー付FM/AM/TVチューナー。銀に近い金色=シャンパンゴールドで側板付の外観はカッコイイ。価格的にもソニーLibertyに対抗する最高級ランクの位置づけのはずだ。ネットで情報を探したが総合カタログしか見つけられず、単体のSpecは不明。
 サイズは実測=383Wx73Hx340D(mm) ←他のシスコン機と比べ奥行が長い。ANT入力はFM/VHF兼用のF型+UHFとAMは端子型になってる。当時のTV用ANTをそのまま使える様に合わせたのだろう。
 カバーを開けて見たら、何と基板は BLUESS氏掲載の F830の写真と全く同じであった。IC名も部品配置も同一。単にケースデザインを変えただけのようだ。バブル期ならではの水増し商法か。確かに F830より一見高級感があるのだが、プラ製のサイドウッドもどきを外すと急に安物に見えるから不思議。ある意味巧みなデザインだ。
まあAKAIの規模で大手と競合するにはこういう商法も仕方ないのかな。バブル期は商品を価格別に各種揃えて売りつけるのが優先。買う側も見た目重視だったのだろう。

 到着時の状態は、電源SWがやや不確実で表示が暗め。手動TuneしてもFM/AM共受信不可。MuteもST./Monoも切替ボタンは無い。局メモリは12ボタンでランダム12局。電源オフでもメモリは正常に保持されてた。

 P-SWはコンタクトスプレーで改善。パネルの内側を掃除したら表示は少し見やすくなった。基板は電源ケミCの一部とスーパーキャパシタで液漏れ跡があった。中古ではよくあるレベル。
 BLUESS氏の記事に沿って調整を試みたが、FEのVT電圧が 90MHzで一応7.2V出てるものの時々変動し非常に不安定。FE内にトリマがあったので回してみたが関係なし。
 同調点の T7を調整しても TP3-TP4間が0.73Vまでしか下がらない。かなり状態が悪い個体だった。
 多分IFT容量抜けだろうと推測し、点検口無いので苦労して基板を裏返し、IFTにセラCをパラに入れてみた。20pF~100pFで試した結果、47~80pFの時に 0Vに調整できた。結構敏感だ。取り敢えず 47pFを付けて調整を進めた。これで一応全局受信可能になり ST.ランプも点灯してヤッタ!と思ったのだが、高周波側が非常に不安定。82MHz以上の局をしばらく鳴らしていると突然ノイズまみれになり音が途切れる症状が発生する。高周波になるほど発生頻度が上がる感じ。ANT系の接触不良を疑ってコネクタ類を挿抜チェックしたがダメ。ノイズとVT電圧の不安定化に相関があり、ユニット型のFEが壊れかけてるという結論に達した。一日以上通電してみたが安定化する様子は無し。
FEはしっかりハンダ固定されていて分解困難だし、TV系も通っててかなり特殊な構造のようで私には手に負えない。それに頑張るほどの機種でもないし。

 という事で正式に音質を評価できるレベルではないが、折角ここまで直したので比較的安定な低周波側で音質比較してみた。
 重低音の量感は V9900より上で良好。静音部で少しジリジリノイズが目立つ点で負けるがこれは劣化FEの影響かも。
555ESと切り替えると、細かい音がよく聴こえる点で負け。本機は線太めで細部が丸まる印象であり高級機には勝てない。でもジリNを除外すれば、十分音楽鑑賞に耐えるレベルでキレや力強さはシスコン機として上々と思えた。一応上級機らしさは確認できたと思う。
ただとにかく受信が不安定で、数日通電してみたが全く改善せず、完全ジャンク品としてお蔵入りと相成った。
 なお時計はACを1分以上抜いても時刻保持してたので瞬断程度には耐えられそうだ。ただし時刻はその間停止してるみたい。リセットされるよりはマシか。
 時計の調整点は見当たらないが正確だった。クォーツだから当然だよね。V9900の方が特殊だ。
 タイマー系機能は、BLUESS氏の記事にあった AKAI/AT-M712 と同じ設定法で正常動作確認。従ってタイマーとしては使えるが、デカくて邪魔。現状タイマー自体使う事もないし。

・日立Lo-D FT-303 '84頃 \38K

 中古店のジャンクコーナーで見つけ、外形サイズと外観の雰囲気があまりに ST-G5ソックリだったので、日立が松下のOEMを売ってたのか検証するため買ってみた。日立はまだ持ってなかったし。
 「足跡」にSpecが掲載されてた。定価から見るとST-G5に相当するのは上位のFT-505の方なのかな。でもサイズ的には303の方がG5に近い。
 購入時の状態は f=-0.1MHzズレで Auto-tuneし、ST.で音もクリヤ。局メモリも正常。中古状態は割と良い。
 計16局ランダムプリセットだが G5と違い 8ボタン+SHIFTキーで切替えるタイプで面白みは無い。ボタン選局後はch表示でボタン再押すると f表示に変わる。Pオン時もch表示で局が判りにくい。
 FM-ANTは同軸直結のみ。Tuneすると"LOCKED"が点灯するが SメータやdB表示は無い。この辺がエントリ級。IF切替機能は付いてた。
 カバーを開けると、基板の構成(PTの配置、SW類のパネル接続構造)は G5と激似だったが ICは全然違う。という事から推測すると、OEMではなく回路設計は日立が行い、パナと同じ組立工場に実装を外注したという所だろうか。当たってるかどうか不明だがメーカー間の関係もなかなか複雑なようだ。

 主要ICは下記の通りで G5とは全く異なる。
IC201:松下 AN278…FM IF Amp
IC251:松下 AN7273…AM tuner,FM/AM IF-amp
IC301:日立 HA1196…PLL FM MPX
IC502:日立 D1704C 531…データ見つからず→NEC UPD1704C=PLLコントローラーの同等品か?

(FM調整)
 調整記事は見つからなかったが、基板に(調整点の説明)も印刷されてて解り易い。TPとしてCRの足を指定してある所もあって生産性は低いかも。
FEはパック型で G5とほぼ同形状なので多分4連。ただし VT=7.90V@89.9M|1.61V@76.1MHz と電圧は低め。G5は約11V@90Mだった。正常値が不明だし、受信は良好なのでノータッチ。
TP2(FM IF OUT)≒1.3V ←ここが Sレベルのはずだが低レベルで飽和してしまうようで感度調整には使いものにならなかった。A-tuneに特化した仕様なのか。
FE内コア灰&T260赤 →感度調整点と推測するが、回してもTP2が殆ど変化しないので初期位置へ戻す。
T251黒&T252赤 →TP5(FM DISCRI CENTER)=0Vに調整 2コアあるので例によって音質調整も試みたが本機ではほとんど音質変化が感じられなかった。
R302(MPX. FREE RUN ADJ.) →TP6(76kHz)でfを測るのが正道だが例によって全局ST.になるよう調整…のつもりが、MPX-ICが優秀なのか回し切ってもモノにならなかったので中央にセット。
R309(MPX. SEPARATION ADJ.) →逆chレベル最小で LR共≧50dB達成
CP301黒 ここは説明がなく何の調整点か不明で触らず
CP302&CP303 説明は無いが形と位置からLPFと見て 19kHz min.調整で <-75dB達成
 なお電源部のP-TrがHS付いておらずメチャ熱(80℃位?)だったので手近にあった小さなアルミ板をネジ止めしておいた。10℃位は下がったと思う。メーカーも仕様に出ない所は手抜きだなぁ。

(AM)は低感度で音質も凡。少し調整を試みたがほとんど改善せず、早々に断念。

 FM音質は、他と比較しなければ特に不満なく聴ける。fレンジでは低音もよく鳴るがボンツキ気味で高域伸びはもう一歩。スペアナで見ると16kHzからユックリ低下してる。
 全般無難に再生するが KT1やFX711と比較すると線が太く繊細さ・分離で負け。アタック速度と飽和ピーク、キレ&SNも負けてる。
まあエントリ機だからこんなものか。メーカーもきちんと差別化してるのだろう。単に日立がチューナーには力を入れてなかっただけかも知れないが。

・ONKYO T-445XG '89頃 \39.8K

 本機は、ひろくんHPでは音質低評価だったが、検索したら長岡鉄男氏が優秀賞を出していた。ONKYOの高級チューナーは持ってなかったし、実際はどんな音なのか検証してみようと落札した。ONKYOのシンセチューナーは人気が薄いようで安く落とせた。
 T-445XGとT-445XXは全く同じ回路だとひろくんが分析していたが、長岡氏も双方に優秀賞出しているので、多分音も同じなのだろう。そもそもチューナーで振動対策なんてオカルトに近い。ただ長岡氏もスピーカーケーブルの振動で音が変わると主張してたので、超高級機器で耳の良いマニアが聴けば差が判るのかも知れないが。
私としてはクソ重いXXは扱いが厄介なのでXGを落札。

 到着時の第一印象は、他のチューナーより奥行が長くて邪魔。中は無駄な空間が空いてるので他社並に短く作れたはず。フルコンポのAMPサイズに合せたのかも知れないが他のチューナーとサイズが合わず、設置が面倒だ。
 音の状態は、FM-St.受信可だが f=-0.1MHzズレ。局メモリは問題なし。
カバー開けたら電源部が 78M15主体で構成されており、このICが異常に熱く触れない程(90℃位か)。大丈夫かと思い、Spec調べたらTop=-25~125℃なので設計上は問題ないようだ。しかし周囲の影響も考えると良い訳がない。とはいえHSは既に付いてたので改善は簡単じゃない。入力側に抵抗を入れて電圧を下げる手も考えたが、点検口が無いので配線変えるのも面倒で、結局そのまま。そもそもオーディオで三端子レギュレータは邪道だと思い込んでいたが、プロが設計してるわけだし、チューナーは電流変動が少ないので問題ないのかも知れない。

 ひろくんとBLUESS氏の記事を参考にFMの調整実施。FEの電圧は 76.1Mで4.0V|89.9Mで23.0V と記されていたが、調整してみたら却って不安定になったので初期値に近い3.6Vと22.9Vにセットした。
 同調点は記事では TP1-2間≦±20mV指定だったが、L123は超敏感かつ温度依存もある。三端子ICの温度影響を見るため、一度調整後にカバーして暫く鳴らしてからカバーを開けて素早く電圧チェックしてみると、やはり結構ズレてる事が分かった。但しズレてても受信は問題ないみたい。という事で実際に fズレがなければ余りこだわらない方が良さそうだ。私がTRYした感じでは、カバー開けた直後に±0.1V位に入るように調整すれば十分と思われる。fズレはここで解消。
 L125の調整も TP8(DET OUT)≦±20mV指定だが、ここも超敏感&温度依存大なのでカバーしたら簡単にズレる。開けた状態で追い込んでも意味がない。また±0.5V程度ズレてても正直音の違いは判らなかった。ここもカバー開けた直後に±0.2V位に入るよう合せておけば十分と割り切った。この L125とL124 の2点で音質調整が可能だ。
 なお基板にTP8が2箇所あり、DET OUTと書いてある方と無い方で区別する必要がある。ひろくんHPでは特に記載してなかったので最初惑わされた。BLUESS氏の記事を見たらちゃんと区別されていた。設計段階で同じTP番号付けるハズはないので基板の印刷ミスだろうか。
 Sep.も超敏感で、本来の R231&R232だけでなくPILOT CANCELの L202でも大きく変わるので同時に調整が必要だ。しかしかなり頑張っても55~60dBが限界で公称Specの68dBは出なかった。測定系の限界か、或いはSpec詐欺か記載ミスか。但し55dBでも非常に優秀だし、実際聴いても分離は良い方だと思う。
 その他、BLUESS氏の記事にあった高調波歪補正やAuto-tuneレベル調整はスルー。Sメータは4点表示だがリニアな応答で強弱局の区分もしっかり出たので十分使える。ひろくん記事と同じくアクリルパネルの照明が切れてたが、パネルの分解が面倒だし、T445XXと違ってXGは文字が点灯するので修理は放棄した。

 さて問題の音質だが、最初聴いた時は細かい情報(ニュアンスや余韻)を削ぎ落としてしまった印象。応答速度(SR)は高い。クリヤだがかなり艶消しの音。ひろくんの言う「輪郭がハッキリしない」とは異なる印象だが、正直面白くない音だ。こんな音で長岡氏が賞を出すとは信じがたい。
 そこで L124で音質調整を試みた。これまでは線が細い方が原音忠実だろうと考えて極力線が細くなるように音質調整してきた。本機でもその方向で調整をしたから響きが無さすぎて上記の音になっていると考え、反対に極力響きが豊かに出るように調整し直してみた。まともな測定器が無いのでこの状態が「2次側波形最大」と合致してるかは不明。

 響きが付いてきたら透明系で良好な音と思えてきた。情報量は十分、SN&Sepも優秀で、高SRかつ線が極細=余分な響きが少なく分離が良い、正にモニター的な音。
 FX711と聴き比べると、FX711はキラキラ感があり T445は凄くスッキリしてる。
響きが一番豊かに出るよう調整したにも関わらず、KT1より響きは少なく線が細く聴こえる。ソニーと比べて無色と思ってたKT1もT445と切替試聴すると響き豊かに聴こえ、音楽性を意識した音作りがされてると解った。
 マランツ/ST54と対極に位置する音で、比較用として面白い。得意分野も真逆で、オケだと少し艶が減ってスケールダウン気味だが分離は良くなって室内管弦楽団風の印象になる。一方、PfやFlのソロだと澄んだ音で非常に気持ちイイ。PfやFlは楽器としては正弦波に近い波形を出すので響きが少ない方がキレイに聴こえるのだろう、と勝手に推測してる。
 但し、響きを抑えたモニター系のSPと組合せるとやせた音になってしまうので相性が悪いと感じた。響きの良いSPと組合せれば十分常用機として使える。後は分離の良いスッキリ音を好むかどうかだ。

 結局この音が長岡氏が評価した状態と合ってるのかも不明だが、潜在力は優秀なチューナーだと思う。
 それにしても ONKYOチューナーは型番でランクが判らないので損してるんじゃないかな。445って半端な数だし、T-443となると低Specのシスコン機で数字の連続性も無くて紛らわしい。何でこんな営業戦略を取ったのか理解に苦しむ。

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする