フツーの見方

フツーの論理で考えれば当然だと思うことが、なぜかマスコミでは出てこない。そんな意見を書き残しておきたいと考えてます。

FMチューナーはオワコンか 30T修復&改造編

2021-10-27 | Weblog

 それなりに経験も積んできたので、もしかしたら 30Tも直せるかもとTRYしてみた。
 当初全く音がでない状態だったが、試しに長時間付けっ放しにしてたら片chだけ音が出たので修復の可能性が出てきた。つまりRF~検波部は一応動作している訳で、MPX段以降に問題があると推定できる。
 ひろくんHPから回路図が入手できたので、各部電圧を比較した結果 +電源が正常に出ていない事が判明。たどっていくとPTに直接繋がっているケミCの劣化が疑われた。
回路図を分析すると本機の電源回路は極めてトリッキーな構成で、PTのAC9Vx1巻線からDC±12.7Vを作り出している。±の分離のためACに直接ケミCを繋いでおり、これでは電源オン時に短時間だがケミCに逆電圧がかかっている筈だ。さらに主電流が常時ケミCを通過して供給されるのでケミCに大きな負担が掛かる欠陥回路と思える。±独立巻線の回路に比べオーディオ的には何もメリットが無い筈で高級オーディオ機とは思えない設計だ。在庫のPTを流用したのだろうか?
 所が、ひろくんHPに30Tと同時期の YAMAHAの高級機 T-2の回路図もあったので見てたら同じようなトリッキー回路で±電圧を作り出していて驚いた。この回路に音質的メリットは無いと思うのだが、当時はPTの巻線を増やすのが相当コスト高だったのか?それだとしても普及機でなく高級機でケチるというのも妙な話だ。
 ともあれ問題のケミCを交換したら正常な電圧になり、安定して両chから音が出るようになった。外したケミCは容量が1/10程度まで劣化していた。これは酷い。こんな状態で片chでも音が出たというのも奇跡に近かった。

 本機では検波後の増幅に有名なOp-amp(NMJ4558DS)を使っていた。当初片chしか音がでない原因としてamp故障も疑って交換ICを手配したのだが、ついでにICを変えて音を比較してみようとソケットに付け替えた。そこに新品Op-amp(NMJ4558DD)を装着して一から調整をやり直した。RF感度やSメータの振れは改善。しかしVCOをいじってもSTEREOにならない問題が残った。
 最近たまたま携帯型オシロが4千円で買えることを知ったので波形や周波数チェックのため買っていた。帯域は200kHzと物足りないもののこんな価格・小ささでオシロが作れる事が驚きだ。中国恐るべき!  で、偶然買っていたこのオシロでVCOを19kHzに極力近づけたらSTEREOになる事が分かった。故障を疑っていたMPX-IC(AN363=入手不可)は壊れてなかったようでヤレヤレ。このVCO調整が結構シビアで、他のチューナーの様に適当にVR回しているだけではST.にならなかったようだ。

 セパレーションも調整で上がったが、本機ではSep-VRがL/R共通なので50dB位が精一杯。L/R単独であれば60dB以上いくのだが、まぁ実用上はこれで十分。Pilot Cancelも調整が非常にシビアだが19kHzピークは両chで-60dB位にできた。
 スペアナで観てたら、10kHzにも-50dB位のピークが立つ点が気になった。サブキャリヤ調整のCT701で10dB位変動するが消えない。ST-G560でも10kHzピークが立っていたので松下回路の特質なのかも。でも-50dBは耳では全く聴こえないので、これも気にしない事にした。

 一通り調整した結果、イイ音が出るようになった。遂に復活、捨てなくてヨカッタ~と喜んだ所でKT2と音質比較。SNは悪くないが吸込まれるような静寂感は無く室内的な静かさ、レンジや音の分解も僅かに負け、という印象でやはり時代差もあって勝てないのだろうと思った所で、ここからOp-amp(IC501と701)を交換して比較実験してみた。
 今回は4558互換で安価かつ定評のある3種を準備。最初に付いていた石も無事に音が出たので併せて試聴。
NMJ4580DD…4558DD比で少し分解が良くなった気もするが大差はない印象。KT2比で高域が鈍い。あとIF=Wide自動判定が不安定する傾向が少しみえた。4558より高ゲインが影響か。
NMJ2114DD…スッキリした音で分解が上がりレンジも広がりKT2に接近。低音が少しボンつく印象もあり。
NMJ4558DS…元々の石。表面に光沢が有り、ネットで「艶あり」と呼ばれる物に相当か。4558DDより音がクリヤで分解が良い印象。これが本来の音かな。レンジはKT2より少し狭めで2114に勝てない。不正電圧が長く掛っていたためICが劣化してる可能性もあるが、艶あり新品は最早入手不可で験証できない。少なくとも発売当時(KT2より7年も前)としては非常に高音質だった事が再確認できた。
 いずれも実際は僅差で、KT2と切替試聴しないと判らない程度だが、「艶あり」の違いもネット評に近い印象で面白かった。
 正直Op-ampで音が変わるかは半信半疑だったが、何度も入替えて一応再現性もあると感じられた。将来的に別のICも入手して比較してみたいものだが、当面は2114が最適と判断。
ICを2114にした結果、レンジや分解もKT2に負けない高音質になった。さらに切替え試聴してたら、驚いたことにKT2より弦や声では艶がある音に感じられた。これも比較してようやく気づく程度だが、KT2の方がクール&フラットな印象。ここを意識して聴くとKT1もKT2よりは艶感がある。音の艶とは主に倍音成分≒高次歪なのでKT2では歪が高度に抑えられていると言えるのかもしれない。
 以後、本機を30T改と呼ぼう。音域バランスとしてはKT2の方が安心感がある。30T改はエレキベースがややボンつき気味で耳障りに感じる時もあるが、クラシックでは弦の艶が増して好印象。遂にKT2のライバルが現れた。
 あと本機では可変と固定の2出力があるが、スペアナで見ると固定出力側はLPFが入っており、上記の19kや10kのピークが抑制される一方、音も一枚ベールを被る感じで空気感が落ちる。比較試聴して可変出力の方が原音忠実である事が確認できた。昔は気付かなかったこの違いが判ったのも大きな発見だ。判定音源としてNHK「音の風景」の自然音は自分で聞いたことのある音も多く、繰り返し放送してくれるので非常に有効だった。

 バリコンだと局の切替はやはり面倒でシンセの容易さには敵わない。固定局で使う前提で30T改をメインの一台にしても良いと思ったが、使ってたらWideとSTEREOが時々切れるトラブルが発生。この原因がはっきりせず保留。ICの問題なのか、それとも電源が不安定なのかもと思い、大容量ケミCを全て交換してみようと外した所で現在中断。なお外したケミCも全部がほぼ容量半減していた。よくこれでイイ音が出てたものだと逆に感心。昔のケミCは容量誤差+100%/-50%とかだったから設計余裕が大きく取ってあるのだろうか。

(オマケ)
 音質の表現はどうしても抽象的になるが電気特性として見たらどうなのか推測してみる。定説がある訳ではないのであくまで私の推測。

アタックに対するクリップやレンジの広さはDレンジ、f特との相関として理解できる。ただし私には原音の質は分らないので(余程酷いチューナーでない限り)2台を比較してどちらがどの点で良いか悪いかの判断しかできない。
情報量が少ないと感じるのは主に高域(倍音成分)が落ちてる、過渡応答が悪い、ピークが丸められてる等の総合的な印象か。
低音がボンつくと聞こえるのは低音部でピークがある状態で、ピークの先は急激に落ちるので真の重低音は不足している事が多い。締まりのない低音もボンつく印象になるが、これは低域の立下りが悪い現象でチューナーよりはスピーカー原因が多いだろう。ただし、締りの良い低音となるとチューナーによる差があって、ダンピングが強く効いてる印象だ。
線が細い音は純音に近いという事だろう。しかし不純音が含まれると推定される線の太い音も音楽によっては魅力がある。
消えるような静寂感はSNが高いことは前提条件として、立ち下がりが速くてアンダーシュートが無い状態だろう。室内的な印象を受ける時はアンダーシュートの振動を反響と感じるのかも知れない。
楽器が分離良く聴こえるのは混変調が少ない事か。
キレが良いのは立上り/立下りが速い状態で、ヌケは混変調が少なくて静寂感が良い状態か。
音に艶があるのは二次高調波がきれいに出ている状態かな。本来歪成分だが、人の耳には適度な高調波は心地よく聞こえる。
音に深みを感じるのは適度な時間差のある残響か、低周波側の歪成分が効くのか、これはまだよく解らない。
しっとりした音も何に起因するのかよく解らない。語感は逆のドライな音は残響の少ない音というイメージだがそれだけでもないような。実際、残響を長くした場合にしっとりした音になるという印象はない。やや響きが暗めの印象だからマイナー調の高調波が付く状態だろうか。
少し似た感じだがちょっと異なるシルキーな音は主に高域で絹を触っているような滑らかな感触を音で感じるとしか言い様がない音質。これも何の特性が効いてるのか解らない。メーカーはどうやって音色を作っているのだろう。
 これらの音表現は昔のオーディオ評論家の発明と思うが、科学的には不明瞭でも聴き比べるとそう表現するしか無い違いを感じる。

(追記)しっとり感のあるSONYは響きが結構豊かである事が判った。線の太さとは異なる繊細な高調波の出方がこの特徴となって表れるようだ。シルキーな音も多分スペクトルが違う高調波成分の響きが効いてるのではないだろうか。高級チューナーの歪率は0.1%切ってるから(音色の違いは主に混変調歪成分と思うので測定値も正確ではないが)、どちらもf特では見えない微小レベルだろう。人の耳は微細な変化には実に敏感ということだ。KENWOOD系だって少し響きを出してるが、かなりニュートラルな成分なのだろうと思う。
最近入手したONKYO T-445が極端に響きの少ないチューナーで、これと比較試聴してようやくこの推論に至ったが、当たってるかどうかは不明だ。

 総合で見ると、線が細くて分解が良く静寂感の優れるTRIO/KENWOOD系が原音忠実という意味では一番HiFiなのだと思う。実際KT2やKT1はどんなジャンルでも不満なく聴ける印象。パナやビクターの廉価機でも傾向としては似た印象を受けた。
SONY、Technics、SANSUI、Victor、YAMAHAは原音忠実よりも音楽表現重視の方向性で、KENWOODより魅力的な音と感じるケースもある。特にYAMAHA上級機はシルキーな高域が音楽にマッチすると非常に魅力的で、これがヤマハトーンなのかと感心した。
この辺はTRIOが元は通信機メーカで、後は家電やオーディオ、ヤマハは楽器が出自だという事と関係してるのかも知れない。当然設計者に依存するので松下のような大手で多数の設計者がいればバラつくのだろう。
マランツの太い音は米国人好みなのかな。最近聴き直して音楽として非常に気持ち良く感じた。細かい音質より音楽を楽しめと言う主張かも。
DENONとONKYOは安物しか聴いてないので未判定。バリコン時代には定評があったが、レビューの少なさからもシンセでは今一な様だ。
東芝/日立/三洋はチューナーのレビュー自体がほとんど見つからない。同社製のICはほとんどのメーカで使われているのに不思議だ。東芝Aurexのチューナーを最近オークションで何種か見つけたが、正直デザインから完全に外してる感。統一感も系統性も感じられず、全然興味をそそられない。アンプは注力してもチューナーはオマケ的な扱いだったのか?
歴史を調べたらAurexは 1974年に国産初(Victorと同年)のシンセチューナー ST-910を出してた。技術的には先進的だったようだ。しかし技術者趣味的なデザインで定価28万円とか、殿様商売だったのだろう。営業もどうせ一式で売れるからチューナーはOEMでも構わないという話になったのかな。ひろくんに拠れば ST-S07は KT-770のOEMらしいし、ST-S5は外観も仕様もパナのOEMとしか思えない。大手半導体メーカーなのでICを売るのが主でオーディオ機器は片手間でやってたのだろう。
PioneerはF-120では原音忠実だったが、後期のF-777はソフトで聴き疲れしない音になっていた。
KENWOODもKT-6040では少し線の太い音になっていたので価格帯や時期によって変化するのも確かだが、上級機においてはメーカ別の個性が存在するように感じられた。
 人間の耳は結構いい加減だが変化には敏感ということで、以上は全てKT2かKT1と切替えて聴いた時に初めて判る程度の印象だ。
トータルでの音質はアンプやスピーカーとの総合バランスだし好みもあるのでどれが一番とは言えない。
 大まかに言って80年代の5万クラスの機種であれば情報量としては特に不満なく聴けると思う。90年代になると高級機があまり出なくなって玉石混交となり、3万クラスでも情報量の高い機種もある。ただし廉価機は安い部品を使ってるためかやはり安定性が劣るようだ。中古で狙うなら80年代中期の5万超の機種が良いだろう。余程状態が悪くなければ少し調整するだけで現在の安物よりはずっと良い音のはずだ。

コメント
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