フツーの見方

フツーの論理で考えれば当然だと思うことが、なぜかマスコミでは出てこない。そんな意見を書き残しておきたいと考えてます。

科学は生活の役に立つ (2)

2023-03-10 | Weblog

 さて誰もが生活上絶対に影響を受ける自然法則の具体例として、私は「熱力学第二法則」を挙げたい。表現法は色々あるが、いわゆるエントロピー増大の法則だ。
Wikipediaは余りに学者寄りな書き方で、非常に解りづらいので下記のサイトの方が解り易い。

熱力学第二法則 - 機械設計エンジニアの基礎知識 (ものづくりウェブ)
https://d-engineer.com/netsuriki/netudaini.html
※埋込リンクは悪意のあるサイトへの誘導もできてしまうので、疑いを避けるため止めました。面倒でも URL を選択→右クリック→移動 で参照して下さい。

日常生活においては、
熱は必ず高温から低温へ移動する
キレイな物は時間が経てば必ず汚れる方向へ変化する
エネルギーを使って仕事しない限り、上記と逆方向の変化は起きない
という様な観測事実は誰もが日常で経験していて、疑問すら持たないだろう。
より具体的には、
水が自然に温度分布を変えて湯と氷になることは無い。
整頓した物は時間が経つといつの間にか散らかってしまい、散らかった物は誰かがエネルギーを使って仕事(掃除)をしない限り勝手に片付く事はない。
 日照で湯になるのは太陽エネルギー吸収だし、濁った水が徐々に澄んでくるのは重力が仕事をしている訳で、無重力なら濁ったままだ。
 こういう経験則を科学的に定式化したものが熱力学第二法則だから、法則が破れれば誰もがすぐに気づくはず。人類史で反例の科学的記録がない以上、今後も世界はこの法則に従うだろうと考えるのが科学の立場だ。

「熱力学第一法則」~エネルギー保存則も当然重要だが、法則の前提となるエネルギー的に閉じた系(外部とエネルギーの出入りが無い空間)が日常生活で厳密に成立するケースは稀である。それにエネルギー総量が保存されるなら世間でエネルギー危機を騒いでいるのは矛盾に見える。つまり日常生活では「エネルギー」という用語を科学的定義ではなく、「人にとって使い易いエネルギー」と勝手に置き換えて使っている訳で既に科学から外れている。
地球全体でみても、日々膨大な太陽由来のエネルギーを吸収し、最終的にその全てを宇宙空間に放出している完全な開放系であり、地球全体においてはそもそもエネルギーは保存されていない。だからその一部を流用する形で、人類尺度での永久機関は作れても矛盾はしない。自然エネルギー発電は人類の実用レベルでの永久機関とも言える。太陽光発電を中世に持っていけば十分通用するだろう。風力発電はバレそうだが。

 第二法則に戻る。エントロピーは物やエネルギーの分散度合いを科学的に数値化する定義である。しかし日常生活では正確な定量評価は必要ないので、ざっくりとエントロピーの差が大きい(物の集中度が高い)場合は拡散が速くなるとでも考えておけば良いだろう。砂場をイメージするのが解り易い。砂山を高くすればするほど何かの拍子で崩れやすくなる。平らに分散すれば安定(平衡化)する。
但し真っ平らな状態だと今度はゆらぎ値の低エントロピー状態になるので必ず多少の凹凸が生ずる。自然界では適当なゆらぎを持ちながら平均値がバランスするのが安定状態だ。
注)ゆらぎをエントロピーで説明するのは正確ではないと思うが、私的には概念として連続してるように感じる。日常生活では科学的な正確さより概念的な解り易さで良いと思うのだがどうかな。要は何事にも必ずゆらぎ(曖昧さ,誤差)は存在するという事だ。現状がそのまま延々と続く事は寧ろ不自然=長くは続かない。

 日本語では、エントロピー=「乱雑さ」と昔教わったが、私は「均質さ」の方が本質に近いと考える。物が一点に集中した状態はエントロピーが低く、徐々に拡散して最終的に閉じた系の中でほぼ均質化すれば、その系内のエントロピーが最大となって平衡化するからだ。
日本では均質化と言うと良い印象で捉えられがちだが、エントロピー的には終焉状態だ。均質の中から飛び抜けたものは生まれづらい。日本人の価値観は終末思想好みなのか。
 余談はさておき、冒頭で汚れを例に揚げたのは日常生活における {掃除|洗濯|洗浄} は完全にこの法則に支配されている事を示したかったからだ。汚れが落ちるのは何故か。これは汚れが集中した物からキレイな物の方へ拡散する現象に他ならない。そして注意すべきは、一方的に移動するのではなく汚れが均質化した所で平衡状態になる。平衡化すればそれ以上いくら時間を掛けても一方だけがキレイになることはない。この「エントロピー平衡状態で終わる」点が第二法則の肝。
キレイ度を上げるのは閉じた系では不可能なので、系を一新し、よりキレイな物を用意してそちらに汚れを移す工程を繰り返す必要がある。

 洗濯の例で言うと、多くの洗濯機では 洗い/すすぎ1/すすぎ2 という様な工程表記になっていると思うが、実際は、すすぎも洗浄の一環であり、汚れ落としの観点で言えば 荒洗浄/中洗浄/仕上洗浄 と書く方が実態に近い。
 汚れは洗剤の力で落ちると考えていたら完全に洗剤メーカーに騙されている。水だけで洗っても水溶性の汚れはほとんど落ちる。
 洗濯機の原理は、水を撹拌して布を揉んだり洗濯槽に叩きつける衝撃で汚れ物質を布から剥がし、エントロピー差でその汚れ物質がキレイな水の方へ拡散するものだ。
では洗剤(主成分は界面活性剤)は何のためにあるか。油性の汚れに対し水との親和性を高める効果もあるが、一番は静電気の影響を弱める効果が大きい。一般的な汚れ物質は微小な絶縁体であり布地の方も帯電しやすい物だから静電力が強く働く。ミクロな世界では静電力は他の力(重力や分子間力等)より強く働くので、衝撃で汚れが浮いても静電力でまた布に付着してしまうと拡散されない。界面活性剤は布や汚れを取り囲んで静電気をシールドするから、再付着が抑えられスムーズに拡散が進む。
 洗濯機の工程としては、荒洗浄では洗剤の効果で静電気を抑えながら汚れを大体落とし、中洗浄では少し残った汚れと洗剤を入替えたキレイな水に拡散させ、仕上洗浄で再度入替えたキレイな水で汚れ&洗剤の平衡レベルを大幅に低減させる、というのが一連の流れだ。
 記事を書くに当たって、我が家の洗濯機を改めて観察してみたら、各工程で非常に細かく制御していて感心した。すすぎの前には軽く脱水を掛けてから注水して水の清浄度を保つようにしているし、すすぎも貯めと注水を切り替え、回転数も細かく変動させて汚れを拡散し易くしているようにみえた。多くの実験を通して最適化プログラムしてるのだろう。ここは全自動に任せた方が良さそうだ。

 洗剤の酵素パワーは洗濯機内ではあまり効果ないと思う。酵素はぬるま湯でないと働きが悪いし反応は遅いからだ。事前の浸け置き洗いに使えば効果があるかもしれないが。酵素は動物性蛋白質のウールやシルクにもダメージを与えるから余り強力な物も使えないだろうし、まぁメーカーも全く効果がない物を売る事は無いと信じたいが…。
 洗剤内の香料は、キレイな衣類を化学合成物で汚染する事に他ならない。洗浄効果が優先だから香料の量は最適化されず、アレルギー源にもなりうるので健康の観点では害の方が大きいと思う。
 とは言え実際に使ってみて結果が良かったと思えるなら使えば良い。実験事実が優先だ。

洗濯条件の考察
 
洗濯物を入れ過ぎれば、十分な撹拌ができなくなって汚れを剥がす効果が弱くなるし、水の量も相対的に少なくなるから汚れ落ちが悪くなる事は原理的に明らかだ。洗濯機の最大容量は守らなければならない。水量は過剰な分には汚れ落とし上は有利だが、節水とのバランスになる。全自動に任すのが妥当か。
 洗いの時間を規定より長くしたり洗剤を多めに入れても、メーカは上述のように実験でその機種における平衡化までの最適解を出しているはずなので、それよりキレイになる可能性は低い。
 水温を上げるのは、分子運動の汚れを叩く力が強まるので低温では落ちにくい汚れの洗浄効果は上がると思うが、平衡状態で終了する事は同じなので平均的なキレイ度が大きく上がる事は無いだろう。だから、すすぎ段階で湯を使っても大きな改善はない筈だ。
 手を掛けるなら、洗濯機を回す前に汚れの酷い部分(襟ぐりとか袖口とか)を洗剤を付けて集中的に揉み洗いするのは有効だろう。洗濯機の水流より手でゴシゴシ揉む力の方が強いので汚れを剥がす効果は大きい。

 洗剤を洗面器等で予め溶かしてから入れるのは、溶け残りが微粒子として布に絡んで残留するのを減らす意味では有効だが、最近の合成洗剤は水でもよく溶ける様に作られているので大差ないかも。天然石鹸では差が出る可能性はあるので試してみても良いだろう。
なお天然石鹸も界面活性剤には違いないので、量が多ければ自然環境に与える影響は大きい。洗濯回数を減らして洗剤使用量を減らす方が自然保護になる。

 節水狙いですすぎ1回にするのは、原理から見て汚れが少ない場合かつ拡散の速い洗剤でなければ洗浄不足や洗剤が残留するリスクがある、と科学的に考えれば下記のサイトの様なノウハウを丸暗記する必要がなくなる。

洗濯の「すすぎ1回」って?柔軟剤や洗剤は残らない? (コジカジ)
https://cojicaji.jp/laundry/laundry-tips/1879

但し、すすぎ1回より2回の方が正規分布的に予測すると平衡レベルがかなり下がる筈なのでできれば2回するのがベター。3回に増やすのは悪くはないが水消費に対しての効果は薄いと思う。
汚れが少ない物(ほぼ汗汚れ)だけであれば洗剤を少なめ(あるいは無し)にして洗い時間の短縮とすすぎ1だけで済ませることも可能だろう。

 風呂の残り湯を使って良いかという話では、「洗い」の時だけ利用可という回答が多い。これも原理から順当に理解できる。残り湯の汚れ具合に依るのは当然だが、人が入れるレベルのキレイさの湯なら日常衣類の荒洗浄段階であれば、節水や水温効果を含めて考えれば、使っても"害は少ない"と言う話だ。調べた範囲では東芝だけ 1回目のすすぎにも利用可となっていたが、通常すすぎ段階ではかなりキレイになっているはずなので余計な汚れを付着させる可能性があり、お勧めできない。新品に近いキレイな衣類を洗う時は確実に汚す方向になるので「洗い」でも残り湯は避けるべきだろう。
しかし実際に「すすぎ1」に使ってみて十分キレイになってると思えるなら使うのも良い。自然科学はあくまで前提条件下の話で、実際の現場では色々な条件が異なるから実験結果が優先だ。

洗濯にお風呂の残り湯って使ってもいいの? (ハイアール)
https://haier.co.jp/story/can-i-use-leftover-water-for-laundry/
 3)使っていいのは「洗い」のみで、「すすぎ」には使わない

ふろの残り湯で洗濯する方法は (東芝ライフスタイル株式会社)
https://faq-toshiba-lifestyle.dga.jp/answer.html?category=&page=1&id=591
 ふろ水は「洗い」と「1回目のすすぎ」に利用することができます。

蛇足)なぜ、洗濯/すすぎ と呼び分けたのか。確証は見つからなかったので推測だが、手洗いの時代は洗剤等を使って目に見える汚れを落とす工程のみを洗いと考え、その後は洗剤(または小さなゴミ)を水に流す工程と考えたのが由来だろうか。語感が似てる所から、川で洗濯していた時代まで遡れば禊(みそぎ)とも関係があるのだろうか…汚れと共に穢れも落とすというような。なお流水に汚れを流すのは常に低エントロピーの水に汚れを移せるので非常に効果的ではある。家庭でやると水道代が問題になるが。
洗濯機の時代になっても名称をそのままにしたのは技術者の怠慢か、あるいは、洗剤がない工程も「洗い」であるなら、洗剤って絶対必要な物ではないのでは、とバレるのを恐れたからか。
上述のように軽い汗汚れだけなら洗剤なしでも十分キレイになるはずで、それに対応した洗濯機も実際に販売されていた。しかし洗濯物の汚れ具合を予め調べ分別して洗うのは面倒→全部ぶち込んで全自動で洗う方が楽だから流行らなかったのだろう。

過去に三洋電機が洗剤のいらない洗濯機を開発したけど、洗剤メーカの圧力で消されたって本当ですか? (Quora)
https://jp.quora.com/%E9%81%8E%E5%8E%BB%E3%81%AB%E4%B8%89%E6%B4%8B%E9%9B%BB%E6%A9%9F%E3%81%8C%E6%B4%97%E5%89%A4%E3%81%AE%E3%81%84%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E6%B4%97%E6%BF%AF%E6%A9%9F%E3%82%92%E9%96%8B%E7%99%BA%E3%81%97%E3%81%9F

 汚れが落ちる一方で染料が落ちないのは染料の分子が繊維と強固に結合しているため洗濯の衝撃でも剥がれないからだ。寧ろそういう特質を持った物が染料として選ばれて定着してきたのが歴史だろう。しかし染料と繊維の組合せは非常に複雑で染色技術の未熟や布地に対して適正な染料を使っていないと洗濯中に色落ちが起きる。落ちた染料は当然エントロピー原理で水に拡散して他の衣類と平衡状態になるまで色移りする事になる。元が白色だとそれが目立ち、色付だと目立たないだけで色移りは同程度起きてるはず。
色落ちは洗う度に徐々に減っていくが、平衡状態の繰り返しだから影響が完全にゼロになる事はない。一度色移りを起こした物は基本的に単独または色移りしても構わないという前提で洗濯するしか無いという結論になる。
下記のノウハウ集でも結局の所、予備実験や素材を調べて選別するしか無いと解りにくく言ってるだけだ。漂白剤で誤魔化すのは本質的な回避策ではない。最後はプロクリーニングのCMになっちゃってるし。

洗濯の色落ち・色移りを防ごう!予防ともしもの対策方法をご紹介! (長野都市ガス)
https://www.nagano-toshi-gas.co.jp/tips/2019/07/lose-color.html

洗濯物の色落ちや色移りの原因と対策10選 (リクリ)
https://diacleaning.com/rekuri/column/220805_101/

●洗濯物の条件
 近年になって、靴下や下着は裏返して洗った方が良いというハウツー情報を知った。それまで意識してなかったので目からうろこ。

洗濯物は裏返して洗ったほうが汚れ落ちがいい?裏返す手間も一工夫で解決! (ハイアール)
https://haier.co.jp/story/washing-clothes-inside-out-is-better-for-removing-stains/

【衝撃】洗濯物は裏返して洗うほうがいい!ただし例外あり! (家事タウン)
https://kajidaikou-hikaku.jp/%E6%B4%97%E6%BF%AF%E7%89%A9%E8%A3%8F%E8%BF%94%E3%81%97/

改めて考えたら合理的な話で、靴下や下着の内側は水の出入りが制約されるから部分的に閉じた系となり汚れの拡散が悪くなる。だからキレイにしたい面を表側にする事は理に適っている。靴下や下着は肌に触れている側に汗汚れが付くので内側を表にする方が良い訳だ。だから靴下・下着でも明らかに外側に汚れが付いてる場合ならひっくり返さない方が良いと判断できる。一方、上着に関しては普通は表の方に埃や汚れが付着するので裏返さない方が良いと解る。
ニットやセーターの毛玉や色落ちの問題は汚れとは別の話になる。汚れ落ちと繊維保護のどちらを優先するかという価値の比較だ。
と、ここまで書いておいてなんだが、現実に裏表でどれほど汚れ落ちに差があるかは正直不明だ。過去裏返さず洗濯していた頃も特に不満は感じなかったし、厳密な比較実験は素人レベルでは無理。科学的根拠を探し、専門家らしい人の発言は見つかったのでデマではないと思うが、具体的な実験データの記述はなかったので効果の程度は不明だ。

靴下や肌着を洗う時、「表のまま」「裏返し」どっちが正解? (ウェザーニュース)
https://weathernews.jp/s/topics/202106/040145/

【商品開発者が語る無印良品】靴下の正しい洗い方 (無印良品)
https://www.muji.com/jp/ja/stories/misc/519591

私としては原理的には正しい方向だし、裏返しで洗濯して今のところ特に問題も無いから一応継続してるという段階。各自で実践してみて良かった方を採用するのが正解だろう。何事も論より証拠だ。

 我が家では洗濯用ゴムボールも、衣類より重いので衝撃力を増やして汚れを浮かすという方向性は正しいと考えられるので使っている。反面、衣類へのダメージが増している可能性はある。洗濯機の設計でも考慮されていない物なので機体に悪影響があるかも知れない。これもまた実際の汚れ落ち差も明らかではないが、とりあえず悪影響も見えないので継続しているレベル。

 この様に分析を掛けて原理から考察してみれば、ハウツーを丸暗記して画一的に行うのでなく、"この話は科学的に合理的かどうか"→"実験結果と整合するか"→"現場における最適解は何か"と考えられるようになる。これが科学知識を生活に活用する思考法となる。
 日頃深く考えずに惰性でやってる事は結構多いのでネット情報は新しい視点として参考になる。しかしネット情報は玉石混交である事も確か。そこで科学的考察が役に立つ訳だ。
 科学的に根拠を説明できない情報についてはまず疑って掛かる。但し、その上でリスクの取れる範囲で実験してみて真偽を検証する。実験事実を何より重視する事が自然科学では原則。その結果から自分にとって有益な情報を見出す事が科学の利用法だ。

 

コメント
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