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とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

すごい! 磁石: 宝野和博、本丸諒

2016年04月17日 14時13分20秒 | 理科復活プロジェクト

すごい! 磁石: 宝野和博、本丸諒

内容紹介:
究極の磁石づくりをめぐる熱き研究ストーリー。世界最強「ネオジム磁石」の最前線。

◎製品の高性能化、産業の発展を支える最強部品「磁石」

家電製品や電子機器がどんどん軽量化され、省エネ化されてきたのはじつは「磁石」のおかげです。
ハイブリッドカーの駆動用モーター、エアコンなどの家電製品のモーター、ハードディスクの磁気ヘッド駆動用モーター、医療用MRIなどに高性能磁石(ネオジム磁石)が使われているのです。

ネオジム磁石は、1982年に佐川眞人氏により発明されました。現有磁石の中で最も高い磁気エネルギーを持つ世界最強の永久磁石です。そして、2014年、著者の宝野和博氏らの研究チームは、レアアースの使用量を抑え、優れた磁気特性を持つ磁石化合物の合成に成功しました。
本書では、最強のネオジム磁石の機能やしくみ、これからの磁石開発の展望などをトップ研究者である著者が一気に解説します。

・磁石はどのように発展してきたのか
・どこでどのように使われているのか
・ネオジム磁石はどうして強力なのか
・保磁力、エネルギー積とは

ネオジム磁石の発明者
佐川眞人氏
「私がネオジム磁石を発見したときは五里霧中だった。
今は研究が進んで、多くの謎が解けた。この本は、磁石の謎解き物語だ!」

JST CREST「元素戦略」研究総括、理化学研究所 研究顧問
玉尾皓平氏
「ジスプロシウムを使わずに高性能な磁石ができる!
『元素戦略』研究でその実現に挑む磁石研究第一人者が基礎からその秘密を解き明かしてくれる、待望の書。」

2015年6月刊行、320ページ。

著者について:
宝野和博(ほうの・かずひろ)
1982年、東北大学工学部金属材料工学科卒業。1988年、ペンシルベニア州立大学大学院材料科学専攻博士課程修了。 カーネギーメロン大学博士研究員、東北大学金属材料研究所助手、科学技術庁金属材料技術研究所主任研究官、室長、 独立行政法人物質・材料研究機構材料研究所ディレクターを経て、2004年より物質・材料研究機構フェロー。
同磁性材料ユニット長を併任、元素戦略磁性材料研究拠点解析グループリーダー、筑波大学大学院数理物質科学研究科教授(連係)を併任。

本丸諒(ほんまる・りょう)
横浜市立大学卒。出版社勤務を経てサイエンスライターとして独立。出版社時代には多数のサイエンス書のベストセラーを輩出する。難解な概念はひと言でやさしく、複雑に絡み合った内容もシンプルに解き明かす〈理系と文系をつなぐ〉編集技術には定評がある。
共著書に『意味がわかる微分・積分』(ベレ出版)、『マンガでわかる幾何』(SBクリエイティブ)などがある。


理数系書籍のレビュー記事は本書で300冊目。

山本義隆先生の「磁力と重力の発見 3冊」の次はちょうど300冊目である。どの本にしようか迷ったが、結局同じ「磁石ネタ」でいくことにした。本書は地元の書店で見つけて「これだ!」と思って購入した本。磁石の研究・開発の最前線を紹介したものだ。

どちらも磁石をテーマにしつつ、時代は中世、近代から一気に現代へと移る。量子力学を使った物性物理の中で磁性のしくみは少しかじったが、最先端の熱い研究開発の世界を覗き見るのは初めてだ。こういう工学系の本は理論物理学とは別の世界。新鮮である。

100円均一で手軽に買えるようになった強力な小型磁石。ネオジム磁石というものだそうだが、もちろん100円均一で売るために開発されたわけではない。

こういう小型で高性能の磁石にどういう用途があるか、僕は考えたことがなかった。本書で知り得たのはこのような磁石はハードディスクや電気自動車やハイブリッドカーなどはもちろん、およそモーターを使うあらゆる電子機器、乗り物には必須の部品であることだ。

磁石って現代の生活、産業の発展にすごい貢献をしてきたんだなぁと認識をあらためさせられた。

本書の章立ては次のとおりだ。

はじめに 「すごい磁石」の世界を明らかにする
0時間目 プロローグ
研究室に企業の新入社員が研修にやってきた!
1時間目 磁石開発の歴史を見ておこう
2時間目 磁石のキホンから勉強してみよう!
3時間目 磁石のつくり方とその応用
4時間目 さまざまな磁性をうまく利用して使う
5時間目 究極のネオジム磁石づくりに挑戦する!
6時間目 精緻に見ることで「なぜ?」を解明し、それが研究開発の近道になる!
7時間目 実験室を覗いてみよう!
おわりに ネオジム磁石を超える化合物を発見!

前半は磁石開発の歴史と磁石自体のしくみの説明。磁石というものは基本的には「鉄(磁鉄鉱)」なわけだが、他の元素を加えることによってより強力な磁石を作ることができる。日本は磁石研究をリードしてきたということも初めて知った。これまで「KS鋼」や「MK鋼」という磁石に始まり、希土類磁石、ネオジム磁石へと発展する。どの元素をどのように加えるか、どのような製法をとるかということが研究の要である。このあたりを読むと試行錯誤の連続で、まさに中世の錬金術のようなものなのかと思えてしまう。

その次は「磁石の性能」についての話だ。「磁力」以外に磁石の性能は何によって測るのかということ。磁力はもちろん、保持力、エネルギー積など物理学では学べない物理量が磁石の性能を決める要になる。

そしてネオジム磁石の原子構成、製造方法が解説される。この段階でネオジム磁石がなぜ優秀なのかがわかり始めてくるのだ。「磁化曲線」の読み方が特に重要。

磁石が強力かつ小型であることは大事だが、磁石を使う「製品」という観点から見ると、それ以外の性質をもつ磁石も適性に応じた使われ方をされることが解説される。つまり磁性には強磁性、常磁性、反強磁性、フェリ磁性の4タイプあり、それらの磁性を備えた物質や使われ方が紹介される。

「5時限目」から始まる本書の後半から最終章までがネオジム磁石の具体的な作り方が詳細に解説される。僕のような素人には「そこまで詳しく説明されても。。。」と思えるくらいだ。

より強力な磁石を作るための研究開発では、ミクロ、ナノ、原子レベルの3つのスケールで磁石の中身を観察することが欠かせない。それに利用されるのが4つの装置だ。磁区や磁壁がどのように変化していくかをつぶさに観察して予測を立てて実験を繰り返す。

SEM (Scanning Electron Microscope):走査型電子顕微鏡:ミクロスケールの観察
TEM (Transmission Electron Microscope):透過型電子顕微鏡:ナノスケールの観察
STEM (Scanning Transmission Electron Microscope):透過型走査電子顕微鏡:原子レベルの観察
3DAP:3次元アトムプローブ:原子レベルの観察

参考記事;

目で見る美しい量子力学:外村彰
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1a00adb6963673d7a434b57cc58c0c81


3つのスケールで撮影された磁石の内部の写真がたくさん紹介され、図版やグラフも多いので僕はとても助かった。「現代の錬金術」は行き当たりばったりだった中世の錬金術とは全く違っていることがよくわかった。「京」スパコンを使ったシミュレーションも研究開発に大きな役割を果たしている。

著者がこの本を書いたのは、今もなお進歩し続けるこの分野に興味を持ってもらい、将来の研究者、技術者を育てたいという願いからである。それだけに僕のような素人には難しすぎる内容が(特に後半)多いが、それは著者の「伝えたい」、「次の世代の若者に引き継いでもらいたい」という強いお気持を反映しているのだと理解した。

ハードディスクの大容量化、エアコンの小型化、省電力化は磁石技術の進歩によってもたらされた。そのためには磁石にどのような改良が行われたかも興味深い解説だった。モーターや発電機、スピーカーやマイクロホンなどから想像される製品だけでなく、ありとあらゆる電化製品の中で磁石は大活躍している。

より強力で小型の磁石を材料・製造コストの面からいかに安く作れるかが、これからの日本の産業を活性化するうえで鍵のひとつになることは間違いない。


ひとつだけ本書に注文をつけさせていただければ「縦書き」であることだ。元素記号が横向きになっているので、少し読みにくい。けれどもこれは日本実業出版社の「すごい! ~」シリーズが縦書きを採用しているためであり、著者のせいではない。

磁石の世界はかなり面白いので、ぜひご一読いただきたい。


関連ページ:

永久磁石の歴史と磁気科学の発展
http://www.neomag.jp/mag_navi/history/history_top.php


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すごい! 磁石: 宝野和博、本丸諒



はじめに 「すごい磁石」の世界を明らかにする

0時間目 プロローグ
研究室に企業の新入社員が研修にやってきた!

1時間目 磁石開発の歴史を見ておこう
- 磁石開発は日本人研究者の貢献が絶大
- KS鋼の次は、MK鋼だ!
- パワフルな希土類磁石の登場
- ネオジム磁石はこうして生まれた!
- 磁石研究のミッションは?

2時間目 磁石のキホンから勉強してみよう!
- 「磁界」って、そもそも、何だ?
- 磁石を切っても、切っても...
- 保磁力、エネルギー積とは何か?
- 磁区と磁壁の世界を探れ?
- 鉄をロックするのがネオジムの仕事
- なぜ、ネオジム、ボロンが磁石に必要なのか?
- 磁石の理解は、磁化曲線に始まり、磁化曲線に終わる
- 「相分離」で強磁性を包むとよい磁石になる
- 相分離を利用した希土類の「いいとこ取り」戦略

3時間目 磁石のつくり方とその応用
- 焼結磁石のできるまで
- 液体急冷~熱間加工の工程でのつくり方
- 磁石の用途は何か?
- トランスにはなぜ軟磁性材料を使うのか?
- モーターは二重の磁石でできている

4時間目 さまざまな磁性をうまく利用して使う
- 磁性の4タイプ 強磁性、常磁性、反強磁性、フェリ磁性
- HDDは磁石の塊だ!
- 1.5ミリの隙間を滑空するジェット機?
Column: 磁石との関わりは?

5時間目 究極のネオジム磁石づくりに挑戦する!
- ネオジム磁石をつくるには「隠されたレシピ」があった?
- 3ミクロンの壁を乗り越える新しいアプローチ
- 「液体急冷+熱間加工」の2段階アプローチ法
- 保磁力をアトムプローブで分析する
- ついにできた!ジスプロシウムフリーのネオジム磁石
- マイクロ磁気シミュレーションで次に進むべき道を見極める

6時間目 精緻に見ることで「なぜ?」を解明し、それが研究開発の近道になる!
- SEMとTEMの違いと使い分け
- 磁壁移動の様子をTEMで観察する
- FIBで最初の試料づくり

7時間目 実験室を覗いてみよう!
- アトムプローブを見学
- FIB装置を見学する
- タイタン、最強のTEMで原子を見る
- 液体急冷を実習する
- 磁界をかけるプレス機
- 着磁装置で一瞬にして磁石に

おわりに ネオジム磁石を超える化合物を発見!
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10 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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おめでとうございます! (にわとりおかん)
2016-04-18 05:56:38
ついに300冊達成ですね。
おめでとうございます!(^∇^)

磁石は私が科学に目覚めたきっかけのアイテムです。
「小学一年生」という雑誌の4月号についてた
磁石セットを砂の中に突っ込んだときの衝撃が、
全ての始まりでした( ´ ▽ ` )ノ

磁石は、本当に奥深き世界ですね~!
返信する
Re: おめでとうございます! (とね)
2016-04-18 11:09:48
にわとりおかんさんへ

ありがとうございます。

科学への目覚めは磁石でしたか!
僕の場合は水道の蛇口から流れ出てくる水の観察(乱流かそうでないか、霧状になるか)や回転を与えたスーパーボールの不規則な跳ね返りの観察が科学目覚めのきっかけだったと思います。

100円ショップでネオジム磁石を買ってみましたが、すごい力で引っ張りますね。砂鉄はまだ試してませんが、とんでもないことになりそうです。w (でも僕はイソギンチャクや砂鉄のようにうじゃうじゃ動くものが苦手なので実験しないと思います。ときどきツイッターで流れてくる磁性流体の動画も気味悪いですねー。)
返信する
ネオジム (にわとりおかん)
2016-04-18 12:13:13
そうなんです!
100円ショップのものとはいえ、
ネオジムですからすごいでしょー(^-^)

今は100円ショップでネオジム磁石
(ダイソーだと四個で100円)を売っているので、
実験やものづくりをする科学講師たちは
大変重宝しているのですが、
このように安価で売るようになった
のはここ最近のことだと記憶しています。
画期的な出来事ですね。
フェライト磁石とは、磁力が桁違いなので・・・

ネオジムに砂鉄、直接ですとあとが大変ですね。
ペットボトルの壁面をはさんで中と外でも、
相当の磁力ですからね~。
砂鉄は買うと高いので、(もし万が一実験するのであれば)使い捨てカイロの中身がおすすめですよ☆
返信する
Re: ネオジム (とね)
2016-04-18 12:26:14
にわとりおかんさん

このような時代ですから子供のほうがネオジム磁石があることを知っていることが多いでしょうね。僕の世代の一般の大人は知らない人が多いと思います。

砂鉄って買うものなのですか!w
公園や学校の砂場で磁石を使って集めてくるものだと思いました。昔はそういうことを平気でやっていましたが、いまだと窃盗罪になってしまいますね。僕にも意外なところにルーズな「昭和感覚」が残っていることを発見しました。
返信する
砂場 (にわとりおかん)
2016-04-18 12:32:02
あ、私も「昭和世代」なので、昔自分で遊ぶときは
公園の砂場に磁石をじかにつっこんで
遊んでいましたよ!
普通にどろだんご作って持ち帰ったりしていましたからねー(笑)

でも、今はにゃんこやわんこのトイレに
ならないように、衛生面から
大体の砂場は網をかけてあるんです。
使うときはそれをはぐって遊ぶので、
子どもと砂場で一緒に遊びながら磁石をつっこむのは
ありなんですけど・・・・
大人一人だけで網をはぐって磁石をつっこみのは
なかなか周りの目が気になるところなのです(^^;;;
返信する
Re: 砂場 (とね)
2016-04-18 12:37:08
砂場って何十年も行ってなかったから、にゃんこやわんこのトイレになりがちなことも気が付いていませんでした。
(うちは犬飼っているのに。。。)

大人ひとりで砂場に居たら、やはり不審者扱いでしょうねぇ。w

いろいろ窮屈な世の中になったものです。
返信する
私の場合は (サトシ)
2016-04-19 21:40:49
私が科学に目覚めたきっかけは某所の青少年科学館にて、蚊取り線香の製造現場のビデオを見たからでした。とねさんはなんで、科学に興味を持ったのですか?
返信する
Re: 私の場合は (とね)
2016-04-19 23:38:22
サトシさんへ

僕の場合は水道の蛇口から流れ出てくる水の観察(乱流かそうでないか、霧状になるか)や回転を与えたスーパーボールの不規則な跳ね返りの観察が科学目覚めのきっかけだったと思います。
返信する
Unknown (やす)
2016-04-20 18:02:19
とねさん

以前、磁性流体を開発していたことが有ります。磁石を近づけると、ウニにたいなトゲトゲがでますが、その状態で液体窒素をかけて固めるて、トゲトゲをよく見ると、六角錐なんです。

当時、東北大の流体力学研究所の先生が、それを数学的に証明なさっていました。

磁性流体は、材料屋からみれば、超常磁性の超微粒子の安定分散溶液なんです。熱力学的な解析に強力な磁力を持ち込んで、安定分散の条件を計算して、実験と突き合わせる、なんてこともやってました。

面白くて、メチャはまってました!

私が科学に目覚めたのは、水という極めて特殊な物質のビジネス不思議を知った時です。

結局、大学で量子化学を習って、その不思議さをやっと理解できた時は、凄く興奮しました。
返信する
やすさんへ (とね)
2016-04-20 18:23:55
やすさんへ

科学を好きになったわけを教えていただき、ありがとうございました。人によって理由はさまざまですね。

イソギンチャクや砂鉄のようにうじゃうじゃ動くものが苦手な僕が子供の頃に磁性流体を見ていたら、きっと科学が嫌いになっていたのかもしれません。(笑)
返信する

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