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アインシュタイン選集(2): [A6]:一般相対性理論につての宇宙論的考察(1917年)

2008年07月05日 15時13分14秒 | 物理学、数学
アインシュタイン選集(2): [A6]:一般相対性理論につての宇宙論的考察(1917年)

梅雨も終わりに近づき蒸し暑くなって気力が続かないのに加え、[A6]から内容が込み入ってきた。こつこつと楽しみながら続けよう。

アインシュタイン選集(2):読みはじめた」の記事で目次を紹介したように[A6]から[A12]の論文は次のようなものだ。まだ先は長い。

[A6] 一般相対性理論につての宇宙論的考察(1917年)
[A7] 一般相対性理論におけるエネルギー保存則(1918年)
[A8] 重力波について(1918年)
[A9] 重力波について(1937年)
[A10] エーテルと相対性理論(1920年)
[A11] 重力場の方程式と物体の運動法則(1938年)
[A12] 重力場の方程式と物体の運動法則II(1940年)

[B1]-[B7] 統一場理論についての論文

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[A6] 一般相対性理論につての宇宙論的考察(1917年)

「宇宙に果てはあるか。」という問いは誰でも一度は考えたことがあると思うが、一般相対性理論を使ってこの問いに挑戦したのがこの論文だ。アインシュタイン自身が「人生最大の過ちを犯した。」と後に述べている「宇宙項」と呼ばれる定数λを重力場の方程式に導入したのもこの論文である。

今の時点で最先端とされる「インフレーション宇宙論」で、この宇宙項は再び重要な役割を果たすことになったのだが、1917年の時点の宇宙論で宇宙項はある意味で「つじつま合わせ」だった。

宇宙の大きさが有限か無限かということについて、古典力学であるニュートンの理論は何も説明できないことは、素人でもわかるだろう。宇宙に物質があろうがなかろうが、重力場があろうがなかろうが、空間が真っ直ぐ伸びているのだからそこに「果て」があるかないかとは無関係だから。

しかし、一般相対性理論の重力場によって空間そのものが歪むのであれば様子は違ってくる。フランス人の数学者アンリ・ポアンカレが1904年に世紀の難問として出題した「ポアンカレ予想」で「宇宙の形を調べる方法」について言及した。つまり空間が曲がっていれば体積は有限であっても「果て」はない場合も考えられるわけだ。この宇宙は3次元的に「閉じているのか」、「開いているのか」あるいは「平坦」なのか、そして「閉じている」としてもトポロジー的(位相幾何学的)に「穴」が開いているのかいないのか。物質の存在によって空間が曲げられているのなら、このようにいろいろな状況が考えられる。


§1 ニュートンの理論

アインシュタインはまずニュートンの重力理論で宇宙論を考察した。その出発点にしたのがポアッソンの方程式だ。

△ψ=4πKρ

その結果、ニュートンの理論では無限遠点で重力ポテンシャルが無限に大きな極値をもっていないと成り立たないことがわかった。これは現実と大きく矛盾する。

この困難を解決するために、後に宇宙項と呼ばれる定数λを導入した形でポアッソンの方程式を修正する。

△ψ - λψ=4πKρ

これは恒星などの物質が宇宙空間に一様に分布している場合に相当する。このような宇宙は、重力場に関してはなんら中心点をもたない。宇宙が有限か無限かということについてなんら答を引き出してはいない。


§2 一般相対性理論による境界条件

次に彼は「重力場の方程式の境界条件」について考察する。重力場の方程式は微分方程式であるから、それを解くためには境界条件が必要になる。「宇宙の果て」という境界で微分方程式が満たす境界条件が鍵となる。しかし、一般相対性理論に対して境界条件を設けると、ニュートンの理論と同様、無限遠点で重力ポテンシャルは無限になってしまうことがわかる。

2ページにわたりさまざまな可能性を考慮し、現実的でない可能性を排除した結果、アインシュタインは「もしこの宇宙を空間的に閉じたひとつの連続体と見なすことができるのならば、無限遠点に対する境界条件は一般に不要となる。」と予想した。


§3 一様に物質が分布している閉じた宇宙

このセクションでは4次元時空として成り立っている宇宙の3次元的空間部分に物質が一様に分布している状態を計量g(u,v)をはじめ、時空の幾何学を記述する数式、物質密度ρなどを用いて定式化している。


§4 重力場の方程式に追加されるべき付加項

ニュートンの理論でポアッソンの方程式に宇宙項λを導入して修正したように、一般相対性理論でも重力場の方程式に宇宙項λを導入するのがこのセクションのポイントだ。(このセクションでアインシュタインは「人生最大の過ちを犯した」ことになる。)

重力場の方程式:
G(u,v) = -κ(T(u,v) - 1/2 g(u,v) T)

重力場の方程式(宇宙項λで修正):
G(u,v) - λg(u,v) = -κ(T(u,v) - 1/2 g(u,v) T)

この項λを小さい値で導入することによって修正された重力場の方程式は太陽系について知られている経験的事実を合致し、さらに運動量・エネルギー保存則を満たしていることがわかる。

なお、アインシュタインがなぜ宇宙項λを導入したかについては次のページでとても詳しく解説されているのでお読みになるとよい。

アインシュタインはなぜ宇宙項を導入したか?
http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/P15_01.htm


§5 場の方程式の計算およびその結果

宇宙項λを導入した形で重力場の方程式を吟味して球状宇宙の全質量を計算式として導いた。つまり宇宙の全質量は有限だと結論したのだ。

最後にアインシュタインは次のようにこの論文をしめくくっている。

現実の世界がこの論文で述べてきたようなものであるならば、空間の曲率は物質の分布に応じて時間的にも空間的にも変化するが、大局的に見れば宇宙は球状空間と考えることができる。このような考え方は一般相対性理論の立場においても論理的に矛盾を持たない。そしてこの見解に到達するためには重力場の方程式に対して宇宙項λを導入して修正する必要があった。しかし、このような宇宙項λを導入しなくても、空間の中にある物質によって結果的に空間は正の曲率をもつようになることは大いに強調しなければならない。宇宙項λは恒星の速さが小さいという事実に対応するように、物質を準静的に分布させるのに必要であったにすぎない。


関連リンク:

アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559

アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e

時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e

少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae

趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa

とね書店:

アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144

アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144


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