瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

異界百物語 ―第45話―

2007年08月26日 20時18分08秒 | 百物語
やあ、いらっしゃい。
8月最後の日曜日…貴殿は如何過されただろうか…。
行く夏を惜しみ、来る秋に焦がれ…今夜も語らせて貰おう、不可思議な物語。

昨夜同様、今夜も異界の者と出くわした男の話だ。
それも、より奇怪なね…。



スカンジナビア地方に伝わる話――


或る晩、ハンスと言う男が、或る小高い丘の側を通り掛った時…なんとその丘が浮いて見えた。

星明りの下、浮上がった丘は、赤く光る柱に支えられ、その下では沢山の妖精達が、陽気に躍り回っていた。

それを見たハンスは意識が朦朧とし、不思議な力に引張られる様に、ふらふらと妖精達の宴に近付いて行った。

すると彼の目の前に、1人の妖精の女が立った。

皓々と照る月にも勝る、光り輝く美しい乙女だった。

乙女はハンスに近付いて、彼の首に腕を回すと、にっこり微笑んでキスをした。


その晩から、ハンスの性格は、ガラリと変った。

恐ろしく乱暴になり、何を着せても、ズタズタに引裂いてしまう。

そこで周囲の人々は、ハンスが破く事が出来ないよう、靴の底に使う硬い革で、服を作って着せた。


以来、彼は『底革のハンス』と呼ばれるようになったと云う。



…短く、オチが無いのが、不気味に感じられて仕方ない。
何故、彼は乙女に魅入られたのか?
乙女はどんな目的から、彼をその様に変えたのか?
それから彼は、どうなってしまったのか?
全てが謎に包まれている…。


今夜の話は、これでお終い。
さあ、蝋燭を1本、吹消して貰おうか。

……有難う。

それでは帰り道、気を付けて。
魔物に魅入られないよう、寄り道せずに帰るといい。
背後は絶対に振返らないように。
夜に鏡を覗かないように。

では御機嫌よう。
次の夜も、楽しみに待っているよ…。



『小学館入門百科シリーズ153――妖精百物語――(水木しげる著)』より。

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