瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

異界百物語 -第51話-

2008年08月10日 23時03分21秒 | 百物語
やあ、いらっしゃい…今年も忘れず来てくれて嬉しいよ。

さぁ早く何時もの席へ…1番奥の壁際の、とっときの席へ座ってくれたまえ。

古びてギイギイと良く軋む、自慢の席さ。

ああ…また新顔さんを連れて来てくれたね。

会のルールは御存知かい?

一夜に1話づつ奇怪な話を語り…終える毎に灯された蝋燭を、1本消してく。


最初灯してた蝋燭は百本。

一昨年は25本迄消した。

去年は50本迄消した。

…残りは50本だ。

今年は75本迄減らす積りだよ…そして次の年には………


古より、奇怪な話を百語った後には、真の妖が現れると云う。


全ての蝋燭が吹消された時、暗闇の中に何が見えるか?

後半分……わくわくして来やしないかい?


前置きはこのくらいにして、そろそろ参ろうじゃないか。

灯りに惹かれてやって来た、酔狂な輩が集う恐怖の宴。


訪れたからには………途中退席は無しにして貰うよ……。




貴殿は『ザシキワラシ』と言う名の妖怪を御存知かな?

そう…東北地方に古くから伝わる、大きな座敷に取り憑く、童子の姿をした妖怪だ。
夜眠ってる人の枕を返したり、擽ったり、蹴ったり殴ったり等、悪戯をするのが大好き。
しかし取り憑いた家を栄えさせ…逆にザシキワラシが去ると、その家は没落してしまうと云う。

そんな妖怪に取り憑かれた屋敷が、今でも実在すると言ったら、貴殿は信じられるだろうか?


その屋敷は岩手県二戸市に在る宿、『緑風荘』と言う。(→http://www9.plala.or.jp/ryokufuso/)

この宿の現在の主人の話では、緑風荘のザシキワラシは、奥座敷の『槐の間』と呼ばれる部屋にだけ、現れるそうだ。
そして他地方で見られるザシキワラシと違い、悪戯は働かず、気配を感じさせたり、寝ている人の体にそ…っと触れるだけだと言う。

極稀に姿を現したりする事も有ると云う。
その人の話では、ザシキワラシは着物を着た男の子であったそうだ。

宿の主人が言うには、正体は此処の家の御先祖に当る人間らしく。
名前を「藤原朝臣亀麻呂(ふじわらのあそんかめまろ)」。
後醍醐天皇に仕えた藤原(万里小路)藤房の一族と伝えられ、幼くして病に倒れた後、屋敷の守り神になったと云う。

時には打ち掛けを纏った女性に連れられ、現れる事も有るのだとか。
「オーブ」と呼ばれる怪しい光球を目にしたり、写真に収めたりした人も居る。

出現時刻は午前2時頃、現れる時は決って金縛りにでも遭った様に体が動かなくなる…という体験談が数多く宿に寄せられている。

そうして部屋に泊まり、ザシキワラシを何らかの形で体験した人には、必ず幸福が訪れるそうだ。
此処のザシキワラシを見たお蔭で、太平洋戦争の時代、戦地から無事生還出来たという話まで有る。
部屋の床の間には「ザシキワラシを見たお蔭で幸せになれた」と言う人々から贈られた品がズラリ並んでいて、壮観な眺めだ。

果たして噂は広く知れ渡り、『槐の間』に宿泊を希望する人は廃れない。
現在、平成23年(2011年)12/31迄、宿泊予約が埋っているのだとか。

こうして宿は代々繁盛し続け、ザシキワラシが福を授けると云う伝説は、今も生き続けている。


何時の世も人は幸福を求める。
その欲望は際限を知らない。
求める姿は時に健気で、時に浅ましく。

座敷の守り神は、そんな人間の欲心が生出した物の怪かも知れぬ。



…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。

……有難う。

………随分部屋が暗くなったね。


お帰りはこちらからどうぞ。
気を付けて帰ってくれたまえ。


そしていいかい?

………風呂に入ってる時は……決して足下を見てはいけないよ。


何故って……?


………もしも足下に伸びる手を見付けたら………貴殿は如何されるかな……?


それでは、ごきげんよう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。




参考、『不思議の旅ガイド-日本幻想紀行- 多田克己、村上健司、共著 人類文化社、刊』。

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