瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

夏陽炎 その3

2010年07月20日 18時56分23秒 | ワンピース






正確に言えば、『ナミ』とじゃなかったかもしれねェ。

いや…でも、あれは『ナミ』だ、やっぱり『ナミ』だった。

何言ってんだか解んねェ?

俺だってよく解んねェんだよ。




お前が合宿行く前の日の前の日…駅まで坂下ってった時の事だ。

今日みたいにカンカン照りで、ものすげェ暑い昼だった。

坂の下の向うがユラユラ揺れてたんだ。


あ、陽炎だなって思った。


道や建物が歪んで見えるのが面白くて、しばらくボーッと眺めてた。


そしたら…陽炎の向うから……ナミが歩いて来たんだ。


ナミは……ユラユラ揺れながら…段々俺の方に近付いて来て…

俺に気付いて…にっこり笑ったんだ。

声をかけようとしたけど…何故か出て来なかった。

その時には、もう揺れてなくて…はっきりして見えた。


直ぐ傍まで来て…また笑った。

けど…ナミも黙ってた。

ナミは、白くて短いワンピースを着てた。


それで――急に抱き付いて、俺にキスをしたんだ。


びっくりした…けど…ナミの口、グミみたいにプニプニしてて…

ナミの舌を俺…思い切り吸い込んだ。

ナミも俺の舌を吸い返した。

脳みそがふっとうして爆発しそうになった。


ナミの肌はゆで玉子みたくツルツルで、冷やっこくて気持ち良かった。

汗でヌルヌル滑らないよう、俺、しっかりと抱締めた。


気が付いた時には、俺もナミも裸になって、抱き合ってた。

不思議と誰も通らない坂道で、寝転んでた。

コンクリートの上、ジリジリと背中が焼けるように感じた。

ナミの汗が俺の体の上に、ポタポタと降って来た。

汗まみれのナミは、まるで水から上ったみてェで、キラキラ陽に反射して綺麗だった。


何処を触っても餅みたいに柔らかくて。

何処を舐めても果物みたいに甘くって。


俺が何かする度に、ナミは見た事も無い顔してみせた。

聞いた事無い声を出した。

それが嬉しくて、俺は何度も、ずっと…ずっと……


……何時の間にか、空が夕焼になってた。


ナミは何処かへ消えちまって……俺は道の端っこで、1人突っ立ってたんだ。


坂の下に見えてた陽炎も、消えちまってた。




ルフィは話し終えると、下向いて黙りこくっちまった。


おもむろに伸ばした手を額に当てる。

その手をばしっと払い除けられた。


「…熱なんて無ェぞ!」


かつて無いシリアスな形相で、俺を睨め付ける。


「熱射病かと思った。」

「俺は正常だ!!」

「異常者は皆そう言うんだって。」

「ウソじゃねェ!!本当に有ったんだ!!それも3回も!!」

「3回?」


「…最初は俺だって夢だと思ったさ。
 
 けど!それから続けて2度、全く同じ事が起きたんだ!

 場所は違うけど…ナミは決まって陽炎の向うから現れて…

 それで…俺と……俺と……!」


「確かに不思議な夢ではあるな。」

「夢じゃねェって言ってるだろ!!」


胸倉を思い切り掴まれた。

駄目だ、こりゃ…完全に頭に血が昇ってやがる。


「夢じゃなけりゃ…何だって言うんだよ?」


至近距離から睨み合う。

黒い瞳に、俺の顔が映って見えた。


「…考えたんだ…俺。

 あの『ナミ』は…こことは別の世界で生きてる『ナミ』で…

 時空の歪みから、やって来たんじゃないかって…

 あれは、陽炎なんかじゃなくて、時空の扉――痛ェェ!!!」


聞いててあんまりアホらしくて、つい、ビシッとデコピンかましちまった。


「馬鹿か、おめェ。…SF漫画の読み過ぎだ!」

「…じゃ…じゃあ!ゾロは何だって言うんだ!?」

「だから『夢』だろ。」

「真昼間に目を開けて夢見る奴なんて居ねーよバカ!!」

「『白昼夢』っつってな、目を開けたまま見る夢も有るんだよ。」

「本当に有ったんだ…!!!…あの時の、熱も、色も、味も、感触も…皆リアルにはっきり残ってんだぞ!!!」

「夢っていうのは、見てる内はリアルに感じられるもんなんだよ。熱も色も味も感触も、全てな。」

「…けどよォォ!!!」

「…んだよ?そんなに夢であって欲しくないのか?」


意地悪が口を突いて出る。

掴まれてるシャツから、緊張が伝わって来た。


「…じゃ、訊くけどな。ナミが消えた後、服は着てたか?」

「……着てた。」

「パンツはどうなってた?…汚れてたか?」

「……よ…汚れてた。」

「見ろ、やっぱり『夢』じゃねェか!」


ルフィが俯いて唇を噛む。

黒髪の隙間から、普段と全く違う、弱々しい目が覗いていた。


「………なら…何で…俺…あんな事…」

「…そりゃ…お前がナミを女として意識したからだろ。」

「……意識?」

「お前の中に、『ナミを抱きてェ』って意識が芽生えたんだよ。」


――いきなり頬を殴られ、ぶっ飛ばされた。


背後でCDか何かが割れた様な音がした。


「ふざけんなっっ!!!俺はナミにあんな事をしようなんて考えてねェ!!!!」


……っっの野郎…上等だっっ…!


直ぐ様応戦して蹴りを入れる。

次いで背中にエルボー食らわし、ゴミに埋めてやった。


大体、何の義理有って、俺がてめェの相談乗ってやんなきゃなんねェんだ!!


「…ぶち切れてんじゃねェよ!!!!…高校生にもなって往生際の悪ィ!!!……男はな!年頃になったら、誰でもスケベな夢見るような体になるんだ!!そんで大抵の奴が、母親とか姉とか妹とかクラスメートとか…自分と近しい女とヤる夢を見ちまうもんなんだ!!!」


……埋まったまま、ルフィは返事を寄越そうとしない。


雪崩を起した雑誌やCDや空き缶の隙間から、荒い息だけが届く。


「罪悪感持つのは解るけどな。メデタクも、お前が大人になった証拠なんだよ。…今度、赤飯でも炊いて貰え。」


「………じゃあ…」

「…んあ?」


――ムクリと起上がり、再び胸倉を掴まれた。


「…じゃあ!!…ゾロもそうゆう夢を見た事有んのか!!?」

「――はぁっっ!??」

「ナミとヤる夢見た事有んのか!!?」


目を爛々と光らせ、問詰めて来る。


「い!…いきなり何だよっっ!??」

「有んのか!!?無いのか!!?」

「だから、それはっっ…!!!」

「どっちだよ!!?はっきり言えよな!!!!」

「有るに決まってんだろうがボケ野郎!!!!!」


――しまった…ノせられたっっ…!!


「……有る…のか…?」


手がゆっくりと離れてく。

肩で息したまま、ルフィが腰を落す。


…耳に、クーラーの吐く音が戻って来た。


「……そうか…ゾロも見た事有るのか…俺だけじゃねェんだ…」


俯いたまま、ルフィが呟く。


「…あんだけ近くに居るんだ…そりゃ見るさ……」


誰に言うでもなく、呟いた。


「……そうか……何だ………そうかーーー……」


芯から安堵した様に、ルフィが長い溜息を吐いた。



……窓から空を眺める。


青空ピーカン照り、まだまだ茹だる程の熱さだろう。


「…此処に居ても埒が明かねェ。表へ出るぞ。」






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