千の天使がバスケットボールする

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今読みたい帚木蓬生氏の「受命」

2006-09-23 18:51:22 | Book
秋だ。ようやく秋がやってきた。
読みたい本のリストが、一向に減らないのはやはりこの国が平和な証であろう。それほど、自分の命の一部をつかって読書するに値する本が豊富なのだから。
その中の一冊、帚木逢生氏の「受命」を読了。北朝鮮を舞台にした本書には、ただただ圧倒された。精神科医でもある著者の朝鮮半島への関心は、「三たびの海峡」ですでに読み取れたのだが、ここにきて著者渾身の作品「受命」によって、かの国の国家の問題を世に問う。実に衝撃の小説である。

帚木氏は北朝鮮問題と最高指導者の情勢をしびれるくらいの切れ味で喝破して、作品中の登場人物に語らせている。
(以下、小説の中から要約)

■中国と北朝鮮は同盟国である。北朝鮮がなくなって一番困るのが中国だから。世界にとって異物のような存在が北朝鮮。その異物に触れるには、中国の仲介を必要としており、異物が存在する限り、中国は国際社会で大きな顔ができる。ロシア政府は脱北者を発見すると、国連難民高等弁務官事務所に行かせて、難民申請をさせる。ここで難民として認められると韓国大使館が受け入れ証明書を発行し、脱北者は国際赤十字で旅券を作ってもらい韓国への出国を認められる。これは国際法として難民を迫害の待つ国へ送還してはならないとうたっているからだ。中国も1982年にこの条約に批准しているのだが、脱北者はただちに北朝鮮に引き渡す。その時点で、彼らの運命は決まる。収容所へ送られ、二度と生きては帰れない。これがわかっていて、脱北者を北朝鮮に引き渡す。これが中国の本質だ。国連安保理の常任理事国とは、あきれるではないか。

■20年前までは、この国の最高指導者を真の指導者と本気で思っている将校はいなかった。祖国がどれだけの兵器を有し、どんな戦略が可能か全く無知だった。それを知っていた彼が、密かにはじめたプラトニウム型とウラン型の核兵器開発だった。古参の将校の理解を超える核開発こそ、軽蔑から尊敬に変える唯一の方法だった。
北朝鮮にとっては、核保有の宣言は、誰が考えても飢えたこどもがぼろぼろの服を着て指に50カラットのダイヤをはめているようなものだ。けれどもそのダイヤの指輪がなければ、この国はただの薄汚れた物乞いに成り下がる。世界からは時々哀れみの目を向けられるだけで終わるのだが、指に大きなダイヤが光っていると憐憫だけでは終わらない。周囲の想像をかきたて、目が放せなくなる。そこに北朝鮮の狙いがある。

■90年代半ばから、国際社会から食料援助をとりつけるようになった。WFL(国連食料計画)やIFAD(国際農業開発基金)に、食料援助を受けるために演出した数字で報告する。視察団が現地いりすれば、大芝居をうつ。骨の髄まで劇場国家である。最初は援助する側が優位にたつが、ことがはじまると援助する側が事業を打ち切るのが難しくなる。現場の担当官としては、とどこおりなく任務を遂行し、本部から高い評価を受けたくなり、援助額が増えていく。そうなると強気になるのが、援助される側である。ところがこの国への援助物資の行き先は不明である。おおかた特権階級に行き渡っているのだろう。一部は、偉大なる将軍様の贈物とパッケージがかわって施設にも届くらしいが。

北朝鮮問題は、将軍さまのお抱えの踊り子たちの容姿に始まり、その異形はマスコミでも格好の話題を提供している。小説というエンターティメントにこめられた作者の執念に近いこの国の分析は、テレビの前でその前時代性と低い文化を嘲笑する日本人への無理解の悲しみすら感じるのは、私だけだろうか。


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