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「第14回チャイコフスキー国際コンクール 優勝者ガラ・コンサート」

2012-04-26 22:36:53 | Classic
昨年の9月にジャパン・アーツ主催で開催された「第14回チャイコフスキー国際コンクークール 優勝者ガラ・コンサート」は大盛況だった。宣伝チラシにある「決定!新スターの誕生」という昭和の芸能界のノリのとおりに、まさしくキラ星のような若き演奏家たちだった。それに気をよくしたのか、追加決定されたのが今夜の優勝者ガラ・コンサート。演奏順はバランスよく、最初にヴァイオリン、チェロ、そして休憩をはさんで最後にピアノだ。

まずは、ヴァイオリン部門で2位(1位なし)で聴衆賞を受賞したセルゲイ・ドガージン君が登場する。
彼はロシア人にしては小柄だが、全身黒づくめの衣装とステージマナーは洗練された印象を与える。年齢から言えば、大学卒業した新人社員なのだが、まるで何年もステージ活動を続けてきたプロのような堂々とした物腰で、その分初々しさはに欠ける。選んだ曲は、モーツァルトが19歳の時にザルツブルグで作曲したヴァイオリン協奏曲第3番。昨年のチャイコフスキーVn協奏曲で自分の音楽観を披露した演奏スタイルとは異なり、モーツァルトの純粋な才能と音楽に心を自然にそわせて、繊細な音がきらめくように実に美しい。そして彼の音楽性はこの音楽のもつ初々しさを春から初夏へかわる新緑のように映している。思わずため息がでたのだが、演奏がおわってみれば、何の事もない、それが彼流の”説得力ある演奏”に説得されていたことに気がついた。

お次のナレク・アフナジャリャン君は、チェロの名曲中の名曲ドヴォルザークのコンチェルト。すべてにおいてバランスのよく、オールマイティな演奏家だと感じている彼の楽器は、ダヴィッド・テヒラー。勿論、貸与である。ドヴォルザークが1892年、アメリカ滞在中に作曲されたこの曲は、ボヘミア民族舞曲が反映されたナショナリズムと望郷があり、一方で黒人霊歌の影響も受けており、情熱のほとばしりの中にも溌剌とした新らしさも感じられる。彼の祖国、アルメリア共和国は複雑な歴史をもつが、彼自身はモスクワ音楽院に進みムスティスラフ・ロストロポーヴィチ財団から奨学金を授与されていて、実力をのばして栄冠を手にした。そんなこととは別に、のびやかに彼のチェロは歌う、ある時は情熱のほとばしるままに、そして悲しげに。高音が美しく、まるでヴァイオリンかと思った。演奏後の拍手を背に、舞台に設置されたチェリスト用の台から、チェロを片手に長い脚で軽やかにひょいと降りたナレフ君。大きな楽器が、彼の長身の中では可愛らしさすら感じる。大器の熟成が楽しみだ。

いよいよ、ダニール・トリフォノフ君の登場。何度も聴いて来て、いささか食傷気味のショパンのピアノ協奏曲第1番、、、だったはずだが、彼の演奏する音楽は全く違う。この曲って、こんなに素敵だったの。思わず集中して、一音も聴きのがしたくないと真剣になる。音の一粒一粒に、彼の考える、彼の感じるショパンが宿り輝いている。繊細で美しいのに、大きな音楽となっている。写真集でアイドル並みの売り出し方に疑問を感じるのだが、彼の音楽は本当に素晴らしいのだ。それにも関わらず、モクスワ交響楽団の演奏はさえなかったのが、とても残念。

最後にアンコール曲について。
セルゲイ・ドガージン君は端整なモーツァルトの協奏曲第3番を演奏したのだが、この曲は技術的には難しくない。小学生でも発表会で弾いているくらいだ。しかし、単に弾くことと演奏することは別の次元で、逆に、だから難しい部分があるのだが、それは兎も角、アンコールで選らんだのは超絶技巧のパガニーニ「ラ・モリアーナ」!抜群の技巧を披露しながら、決して荒れずに音が美しい。拍手喝采。観客の受けをよく計算した抜群な選曲だったと思う。
チェリストのセルゲイ・ドガージン君は、すべてピチカートで奏でる「ツィンツァーゼ:リョングリ」。粋で、あかるい音楽性が映える。なかなかやるもんだ。
・・・とくれば、ダニール・トリフォノフ君は何を演奏するか気になるところ。彼が弾き始めたのは定番中の定番、ショパンの「華麗なる大円舞曲」だった。まるで着メロのようなこの曲も、彼は自分の音楽観で個性的な誰も演奏したこともない、素晴らしい音楽をうむ。彼はピアニストではなく、作曲家の心をもった音楽家としてショパンを演奏しているのだった。

総じて3人とも、選ばれるべくして選ばれた覇者だということがよくわかった。覇者という言い方は好きではないが、これを踏み台にダニール君はウィーン・フィルとすでに初共演している。しかし、彼らは国際的なコンクールで優勝したのだが、免許皆伝で自らの音楽性を育てていくという旧来のタイプではなく、どのような師匠に指導されようと自らの音楽性と個性をすでにもっていて立っている。ピアニストの中村紘子さんが世界で活躍できる日本人音楽家を育てるには、若い頃から演奏経験を積む必要があると牛田智大君をバックアップしていることの真意がよくわかった演奏会でもあった。完璧な演奏ではなく、プロとしての音楽性が求められている。

--------------------------- 4月26日 サントリーホール --------------------------------------

・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調
・ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
・ショパン:ピアノ協奏曲第1番 

■アンコール
・パガニーニ:ラ・モリナーラ
・ツィンツァーゼ:リョングリ
・ショパン :華麗なる大円舞曲
・チャイコフスキー :田舎のエコー


指揮 :アンドレイ・ヤコヴレフ
出演 :セルゲイ・ドガージン(Vn)、ナレク・アフナジャリャ(Vc)、 ダニール・トリフォノフ(Pf)、
演奏 :モスクワ交響楽団

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