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「角栄のお庭番 朝賀昭」中澤雄大著

2014-03-18 22:15:05 | Book
その昔、、、大学サークルの一室で先輩たちの角栄論議に耳を傾けていた。
「いち国民として、金権選挙は許せない!」
とまだ選挙権もない私が口をはさむと、絶妙なタイミングで新潟県出身の某先輩が部室に入ってくるなり、
「オラが、角栄センセイの悪口を言うんでねえっっ!」
と一喝して、大爆笑に包まれた。

法学部で学ぶ優秀な先輩なのに、インテリジェンスがないのかも、そんなことをちらっと考えた自分は、本当に恥ずべき未熟者だった。それを自覚したのは、それから数年後、東京生まれで東京育ちの私が、地方で暮らすようになってからだ。その小さな地方土地でのささやかな生活経験が、新潟県民にとって、田中角栄が頼れる政治家だったのだということを実感させた。そして、愛される政治家だったということもむべなるかな。

閑話休題。
田中角栄は、1918年に新潟県刈羽郡二田村大字坂田に生まれる。72年に54歳で首相に就任して人気を得るものの、わずか2年後には金権選挙と批判され第二次田中内閣は総辞職。76年にはロッキード事件で逮捕、起訴される。その後、病に倒れるも最大派閥の田中派を率い、多くの政治家を育て93年に75歳で亡くなった。

角栄、死して20年。ところが、時代は角栄を忘れ去るどころか、最近、所謂「田中角栄本」が10冊も刊行されていたのだった。本書「角栄のお庭番 朝賀昭」は、新潟県長岡市出身の毎日新聞記者の著者による、「田中軍団」秘書会1000人を束ね、その情報収集力と交渉力から「GUP」(ゲーウーペー)と呼ばれた角栄の秘書・朝賀昭氏のインタビューで構成されている。

朝賀昭氏は1943年生まれ。きっかけは、政治に無関心だった朝賀氏が、日比谷高校時代に国会や自民党本部で雑用のアルバイトをしたことからはじまった。角栄の気さくさとオーラにひかれて中央大学進学後も佐藤昭子氏が切り盛りする事務所でアルバイトをしているうちに、角栄が大蔵大臣に就任した時の演説を聴いて鳥肌がたつほど感動し、生涯角栄の下で働くことを決意する。心から心酔している政治家の秘書として、青年時代からかけぬけてきた男がカリスマのような”オヤジ”について語るのだから、そのフィルターを通して読むことになる。そんな用心を忘れずに、一歩距離をおいて斜に構えた私だが、予想外の”オヤジ”の人間的魅力には頷かざるをえなかった。ちなみに「オヤジさん」とは小沢一郎などの周囲の者から慕われてつけられた、かって日本を支えた総理大臣のニックネームだ。金権選挙と批判した私まで、金まみれの角栄がこれまた金に頼る気持ちというのも同情すら覚えた。

朝賀氏曰く、福田赳夫、中曽根康弘、大平正芳は官僚出身のエスタブリッシュメント。財界主流派との繋がりは強く、ブレーンにも恵まれている。一方、クリーン三木武夫の妻の実家は森コンツェルンで素敵なバックボーンがある。ところが角栄は、越後の寒村から叩きあげてきたどこまでいっても所詮アウトサイダーだ。軍資金は自ら稼ぎ、ばらまき、その金庫番を愛人にまかせるという泥臭いやり方も角栄らしい、と今にして思う。もっとも、越山会の女王は単なる”愛人”という言葉を超える大きな存在だったようだ。愛人というよりも妻以上の天下をとるための戦友、或いは同志という表現の方がふさわしいのではないだろうか。だからこそ、角栄が倒れて、眞紀子さんによって一方的に事務所を閉鎖されることになったとも言える。Y新聞の書評には、ひとり5000円、1日50人もの国会議員の見舞客に出す弁当代25万円の負担をめぐる眞紀子さんと事務所の対立が引き金となったとされているが、元は金銭的な攻防以上の娘・眞紀子の母を泣かした愛人への積年のうらみの決算だったのではないかと想像する。突然、解雇されることになり放りだされた事務所の人たちには気の毒だが、それが眞紀子流なのだ。

なにしろ、角栄センセイは”永田町のカサノバ”と言われるくらい女性にとてももてたそうだ。
そして政界ほど、魑魅魍魎が跋扈する世界はない。

角栄の秘書と言っても、マスコミにも登場して華やかに活動されていた政治評論家の早坂茂三氏に比較し、「越山会の女王」と呼ばれた佐藤昭子氏を陰で支えていたために、世間的にはこの方の名前は殆ど知られていないだろう。 朝賀氏ご本人も「お庭番」の仕事は墓場まで持っていくべきと考え沈黙していたが、あまりにも虚実ないまぜの誤った角栄像が流布するため、自分が知る真実のオヤジの姿を語るべきではと考えたことと、内政、外交など多くの転機に直面している今日、オヤジさんの生き様に国難を乗り越えるヒントがあるのではないか、という思いで実現した。人間、田中角栄にせまる男気の愛情のこもった一冊である。さすがに、軍団を束ねる熟練の秘書だ。

ところで、本書を読んでも実際のロッキード事件の真相はわからない。闇は尚暗いという言うべきか。それらしき記述もうっすらとあるのだが、それこそすべて墓場に持っていく覚悟なのだろう。


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