千の天使がバスケットボールする

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オーガムズ研究者の晩年

2009-06-21 15:35:02 | Nonsense
他の男のものになった初恋の女性を、51年9ヶ月と4日もの長い間待ちつづけた男がいた。
これは南米を代表するノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケス原作を映画化したマイク・ニューウェル監督の映画『コレラの時代の愛』の主人公、フロレンティーノの物語だった。ところが、米国にもフロレンティーノはいた。ブロンドの”運命の人”と再婚した彼は、「55年間、片思いをしていた」と有頂天で語っていたという。それでは、この米国版フロレンティーノは稀なるロマンチストかと思えば、執着心はフロレンティーノに勝るのだが、前妻との交際期間と結婚生活をあわせた32年間はむしろ冷徹な科学者としてのSEXライフだった。彼は、カメラを内蔵した人工ペニスを使ってまで性行動の探求に人生を捧げた科学者だった。

「NEWS WEEK」の伝記の記事で知ったこの偉人?か奇人の名前は、ウィリアム・H・マスターズ。そして、彼と同じく科学者として実験に参加したのがバージニア・E・ジョンソン。ふたりは「研究室での観察結果の理解を深めるため」に、全く精神的な繋がりが皆無な結婚生活を22年送った。

アンドルー・ロマーノによる記事は、著者トーマス・マイヤーのマスターズとジョンソンの伝記『セックスの権威たち(Masters of Sex)』の書評から戦後最大の性行動研究が残した遺産への考察と奥の深い文章である。記事によると最近の米国の高校生の性交渉の体験者は約30%と、91年の半分以上が経験者という数字から初体験が遅くなっているそうだ。それに伴ってであろうか、10代の妊娠も激減し人工中絶も低下している。80年頃の「フリーセックス」という言葉よりも、彼らは「愛のないセックス」に興味を示さずに責任あるセックスというカタチで対応しているというのが、記者の分析である。

それは兎も角として、心底驚いたのが彼らふたりである。
ウィリアム・H・マスターズは産婦人科医であるが、心理学者のバージニア・E・ジョンソンを前述したように研究のためにとくどいて?、32年以上もの性交渉を続けた。推定14000件ものオーガズムの観察例を集めた研究をはじめた57年当時は、米国民の性知識は限られたものだった。確かに映画の『愛についてのキンゼイ・レポート』によるとようやく50年前後にキンゼイ・レポートが公表されて米国中は大騒ぎになったのだ。二人が出版した66年の「人間の性反応」と70年の「人間の性不全」によって、米国人はようやく性行為の”基本”を知る機会をもったのだから、彼らの私生活の実験と実技がもたらした功績は確かに大きいのだろう。しかし、感情の伴わない動物的なSEXの”現場”を、やがてマスターズは快楽の伴う「相互的な自慰行為」としてのベットと考えるようになった。たとえ行為そのものが男女間にとりあえずのエクスタシーをもたらしても、それは苦い一瞬の悦楽しかないのだろうか、性の解放を探求したふたりは冷たいベットから離れて離婚、その後それぞれの伴侶を見つけて伝統的な夫婦として再婚生活をはじめる。マスターズは、初恋の女性と半世紀を経て結ばれた。
悲しいのは、「愛とセックス」を切り離して長年考えつづけたジョンソンの方だ。3度の離婚を繰り返し、最後は老人ホームでかってのパートナーへの恨み節をもらすのだが、名のる姓が「マスターズ」だったという。
「NEWS WEEK」には、1969年当時のミズリー州セントルイスを拠点に夫婦と面談するふたりの白黒写真が掲載されている。白衣のせいか、どこか冷徹な印象を感じるのは私だけだろうか。

■アーカイブ
映画『愛についてのキンゼイ・レポート』←これはお薦めです!


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